日経テクノロジーonline SPECIAL

【ルネサス エレクトロニクス】「実装」の局面を迎えたIoT、アンテナを取り付けるだけで無線通信が可能に ルネサスのBLE搭載低消費電力マイコンに脚光

ビジネスを前提に具体的なシステムを構築する「実装」の局面を迎えたIoT(Internet Of Things)。その最前線にいる技術者が、機器間を接続するための有力な無線通信技術の一つとして注目しているのが短距離無線規格「BLE(Bluetooth Low Energy)」である。このシステムを、簡単に機器に組み込めるソリューションをルネサス エレクトロニクスが開発。無料で開発キットをプレゼント(限定数)するキャンペーンを実施するなど、いま積極的に展開している。同ソリューションの中核を担うのは同社の汎用マイコン「RL78ファミリ」の新製品で、BLE対応回路を内蔵したマイコン「RL78/G1D」。アンテナを接続するだけでBLE無線通信システムが実現できる画期的なマイコンだ。IoTの普及に向けた新たな起爆剤となる可能性を秘めた、この新マイコンの開発をリードしたキーパーソンに、同ソリューションが設計に与えるインパクトなどについて聞いた。

 コンピュータやモバイル機器といったネットワークに接続することを前提にした情報通信機器だけでなく、世の中に存在するあらゆるモノがインターネットにつながり情報をやりとりする世界を指すIoT。この概念が様々な分野に広がるにつれて、通信機能を搭載してインターネットをはじめとする情報ネットワークと連携する機器の開発に携わる設計者が増えている。こうした設計者の多くが、いま注目している無線通信技術の一つがBLEである。

「安心」や「快適」の実現に貢献

溝口誠氏
ルネサス エレクトロニクス
第二ソリューション事業本部 汎用第一事業部 汎用ソリューション部 部長

 BLEは、すでに多くのモバイル機器に搭載されているBluetoothの拡張規格で、短距離無線方式の代表的な規格の一つである。いまや多くの機器にBluetoothが組み込まれているのと同様に、様々な機器に簡単に組み込むことができる。スマートフォンなど既存のモバイル機器と連携したIoTシステムを素早く構築することも可能だ。しかも、BLEは通信システム自体の消費電力が極めて小さいので、電池で長時間駆動するビーコンなど、これから普及が期待されている多様なIoT機器でBLEの採用が進む見込みだ。「特に生活空間に偏在する様々なIoT機器を利用して人々の暮らしに『安心』や『快適』を提供するアプリケーションでBLEのニーズが高いと見ています」(ルネサス エレクトロニクス 第二ソリューション事業本部 汎用第一事業部 汎用ソリューション部 部長の溝口誠氏)。

図1 IoT機器のニーズを先取りした低消費電力のマイコン「RL78/G1D」
[画像のクリックで拡大表示]

 BLEが活躍するアプリケーションの一例が、忘れ物検知。いつも出勤の際に携帯するものが、すべてBLEを介してホームサーバーにつながっており、それぞれの位置が常時捕捉できるようにすれば、外出時に部屋に置き忘れたものがあったときに警告を発するシステムが実現できる。この機能を利用して出掛ける際に必要なものが速やかに揃えることもできるで、寝坊した朝も「安心」かつ「快適」に外出できる。このほかドアの鍵とホームサーバーをBLEで接続して入退室を管理したり、BLEでつながった無線スイッチで照明やエアコンなど家庭内の電気機器を制御したりするなど、BLEを利用して家庭に様々な「安心」や「快適」をもたらす家庭用の新しいアプリケーションを開発できる可能性がある(図1)。

「実装」の局面に合わせた新技術

 このような世界の実現を目指す設計者の間で浮上する新たなニーズにいち早く対応したデバイスが、ルネサス エレクトロニクスが新たに開発したRL78/G1Dである。

 RL78/G1Dの大きな特長は、BLEに対応したトランシーバ回路と電源用DC/DCコンバータが集積されていることだ(図2)。これによってBLE対応の無線通信回路を構成したときの外付け部品の数を大幅に減らせる。具体的には、DC/DCコンバータのスイッチング回路、アンテナ後段に設けるバラン回路、マッチング回路、フィルタなどが集積されている(図3)。「外付け部品を減らすことで部品管理コストが削減できるとともに、小サイズ実装が可能となるのもお客様にとってのメリットです」(溝口氏)。

図2 アンテナ周辺の高周波回路を集積することで設計者の負荷を大幅軽減
[画像のクリックで拡大表示]
図3 RL78/G1Dに集積されたRF(高周波)回路
[画像のクリックで拡大表示]

 しかも、内蔵しているトランシーバ回路には、先進的なアーキテクチャーと同社独自開発のユニークな回路技術を導入。これによって受信時3.5mA、送信時4.3mA(@0dBm)と業界最小レベルの無線動作電流を実現している。「BLEで接続している状態の平均動作電流は業界最小クラスの約10µA(通信間隔1秒の場合)。当社の調べでは他社品と比べて45%程度の消費電流を削減しています」(溝口氏)。低動作電流は、スマートフォンなどのモバイル機器やあらゆる電池駆動機器における電池の長寿命化にも貢献する。

 これに加えて、電波の受信状態に応じて無線動作電流を適応的に最適化する「アダプタブル機能」を搭載。無駄な動作電流を徹底的に抑えている。アダプタブル機能は、通信相手との距離が近く受信電波が強いところでは、通常よりも少ない動作電流で回路を動作させ、距離が離れて電波が弱くなると受信回路の動作電流を増やして接続を維持できるようにする機能だ。

 極めて低消費電力のトランシーバ回路を内蔵するために開発した同社の技術については、2015年2月に開催された“半導体のオリンピック”とも呼ばれている国際学会「International Solid-State Circuits Conference(ISSCC)」で発表しており、国際的に高い評価を受けている(別掲の記事「市場のニーズを捉え独自のBLEソリューションを実現した強い技術力」を参照)。

設計者はアンテナを付けるだけ

 トランシーバ回路の内蔵は、もう一つの大きなメリットを設計者にもたらす。高度なノウハウが必要とされるアンテナ周辺の高周波回路設計から解放されることだ。「RL78/G1Dでは面倒なアンテナの整合回路を設計する必要がありません。特性インピーダンスが50Ωのアンテナを用意してアンテナ入力端子接続するだけで済むようになっています」(溝口氏)。

 新たに無線通信回路の設計にかかわる設計者にとってRL78/G1Dの開発環境が充実している点も重要な特長だ。RL78ファミリ向けに用意されている既存の統合開発環境、コード生成ツール「Appliet」、フラッシュ書き込みソフト、エミュレータなどが、そのまま使えるのはもちろんのこと、電波認証取得済みのBLE通信回路を搭載した評価ボードを用意し、無線通信回路も含めた機能評価ができる環境やパソコン用のGUIツールもそろえた(図4)。このツールを使うことで、BLE規格の通信設定やパラメータの変更が簡単にできる。このためアプリケーション開発の効率化で威力を発揮するのはもちろんのこと、BLEの技術を学習するためのツールとしても役立つ。このほかに、BLEに対応したプロトコルスタック、サンプルプログラムや、RL78/G1Dを実装するプリント配線基板の設計ガイド、アンテナ設計ガイド、電波認証に関する情報をまとめたガイドなど、初めて無線通信回路の設計にかかわる技術者に役立つ無線関連のアプリケーションノートを豊富に用意している。

図4 RF回路も含む評価ボードを用意

 RL78/G1Dには、上記ほかにもプロトコルスタックと分割実装することでプロファイル/アプリケーションのソフトウエアが無線でアップデートできるようになっているなど、IoTをにらんだ先進的な機能が随所に盛り込まれている。IoTの時代を見据えた機器の開発に取り組む設計者にとって見逃せないデバイスと言えよう。

最新のIoTソリューションを手軽に体験

 このようにルネサス エレクトロクスが長年にわたって蓄積した技術を融合し、IoTにまつわるニーズを先取りしたRL78/G1D。この先進的なデバイスを核にしたソリューションを、設計者がいち早く体験できるように、同社はBLEも含めてRL78/G1Dの機能や性能が評価できるボードを無償で提供するプレゼントキャンペーンを実施する予定だ。ボードのほかにサンプル・ソフトウエアなど具体的なアプリケーションを体験するために必要なソフトウエアを合わせて提供する。パソコンのUSB端子にボードを接続し、必要なソフトウエアをインストールするだけで、RL78/G1Dをベースにした様々なアプリケーションを検証できる。

 あらゆる生活シーンに新たなアプリケーションをもたらす可能性を秘めたIoT。その可能性を実ビジネスにつなげる可能性を模索している設計者にとって、今回のプレゼントキャンペーンはアイデアを具体化するプラットフォームを入手できる絶好の機会と言えよう。

お手軽評価ボードプレゼントキャンペーン実施中!
市場のニーズを捉え独自のBLEソリューションを実現した強い技術力
佐藤久恭氏
ルネサス エレクトロニクス
第二ソリューション事業本部 汎用第一事業部 RFソリューション開発部 部長 博士(工学)

 IoTの実装に取り組む設計に多くの利点を提供するRL78/G1D。低消費電力を追求すると同時に、高度なノウハウが必要とされる高周波回路を含む無線通信回路を設計する際のハードルを大幅に下げることができたのは、ルネサス エレクトロニクスが高度な技術を惜しみなくつぎ込んだからだ。

 その一つが、ベルギーのエレクトロニクス研究機関であるIMEC(the Interuniversity Microelectronics Centre)と共同で開発したトランシーバ回路のアーキテクチャーである。「低消費電力化を図るために、回路全体を両者で徹底的に最適化しました。この最適化には、当社の長年に渡る半導体回路設計やプロセス設計のノウハウが活きています」(ルネサス エレクトロニクス 第二ソリューション事業本部 汎用第一事業部 RFソリューション開発部 部長の佐藤久恭氏)。

回路とプロセスのノウハウを駆使

 トランシーバ回路を内蔵するには、回路設計に関する大きく二つの独自技術が必要だった。「送受切り替えスイッチ制御」と「再利用型送受フィルタ」である。

 送受切り替えスイッチ制御技術は、アンテナの接続を送信回路と受信回路の間で切り替えるスイッチの新回路である(図A)。「従来のスイッチ回路のまま集積するとスイッチで発生する損失が大きくなってしまいます。そこで、損失を抑える新しい回路を開発しました」(佐藤氏)。新回路の導入によって従来回路では約2dBだった損失を、約0.5dbにまで抑えた。これによって、送受電流を10%~15%低減できた。

図A 損失を抑えた送受切り替えスイッチ
[画像のクリックで拡大表示]

 「再利用型送受フィルタ」は、素子を共用しながら効率良く複数の機能を実現する回路技術である(図B)。「送受切り替えスイッチ制御を構成する素子を共用しながら、トランシーバ回路に必要な受信イメージ除去フィルタと送信高調波除去フィルタを構成できるようにしました。これによって回路の合理化と低電力化を同時に進めることができます」(佐藤氏)。

図B 独自開発の再利用型送受フィルタ

 ただし、これらの回路設計技術だけで、トランシーバ回路の集積と低電力化の両立が実現できたわけではない。アーキテクチャー開発からICの量産に至るまで製品化プロセスの随所で、回路設計から製造までを取り組んできた同社ならではの高度技術やノウハウが活用されている。「回路のレイアウト、製造工程でのばらつきの低減など量産を前提に、製造プロセス設計についても徹底的に最適化しました」(佐藤氏)。

お問い合わせ