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【ルネサスエレクトロニクス】電子工作の域を飛び出た「がじぇっとるねさす」 、製品のプロトタイプ開発などに適用が進む

ルネサス エレクトロニクスが2012年から展開する「がじぇっとるねさす」が、意外な方向に転がり始めている。リファレンスボードの提供などで個人のものづくりを支援するために始まったプロジェクトだが、個人にとどまらず、メーカの技術者が実際の生産現場でそのボードを活用するような例が増えているのだ。同社はそのニーズに応えるために、ボードのラインナップ強化を進めていく予定という。

 「もともとは“Makers”の流れに当社としても呼応しようというのが、始まりのきっかけでした」。ルネサス エレクトロニクスでがじぇっとるねさすを立ち上げ、現在そのプロジェクトリーダをつとめる松山景洋氏は、がじぇっとるねさすを始めた経緯をそう振り返る。

 がじぇっとるねさすは、同社のマイコンを搭載したリファレンスボードや開発環境、ユーザフォーラムによるWebサポートなどをパッケージにし、マイコンを使った工作に取り組む個人向けに提供するプログラム。さらにそれらを活用してものづくりにチャレンジする個人を支援するために、半年に1度のユーザ発表会「ルネサスナイト」や、作品を世に出すことを支援する「がじぇっとるねさすチャレンジプログラム」などのイベントも開催している。

 個人向け電子工作用のマイコンボードは、以前から各社から登場し流通していたものの、ルネサス自体はほとんど取り組んでいなかった。しかし3Dプリンタの普及などで個人によるものづくりの機運が高まったことを受けて、同社が2011年末に構想を発表したのが、がじぇっとるねさすの最初のパッケージである「GR-SAKURA」だった。汎用32ビットマイコン「RX63N」を搭載したArduino互換ボードを、ディストリビュータの若松通商と共同で製品化。具体的なプランが動き出してからわずか2カ月での製品化だった。

がじぇっとるねさすで最初に製品化された「GR-SAKURA」(左)。モータにつないで制御することも可能だ
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 当時、がじぇっとるねさすは社内では実験的な位置づけに過ぎず、事業の一つとは見なされていなかった。松山氏も「自分の担当業務外で行っており、ROIさえ考慮しなかった」というぐらいだ。しかしGR-SAKURAは予想を上回る引き合いを受けることになり、2013年には新製品「GR-KURUMI」を追加した。GR-SAKURA搭載のマイコンに比べて計算能力では劣るが消費電力の小さい「RL78/G13」を搭載し、センサなどに適合しやすくした。

がじぇっとるねさすから生まれたペン型ライト「きらきライト」。振ると残像で絵や文字を表示するほか、音に合わせてインジケータが光る機能を持つ
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 さらにその後、ハイエンドのSoC「RZ/A1H」を搭載し映像処理も可能になった「GR-PEACH」や、モーション検知のシステムにも十分な処理能力を持つ「GR-KAEDE」を相次いで追加。GR-KAEDEからはグローバルのディストリビュータも販売ルートに加わったことで、海外でも購入可能になり、ユーザが世界レベルで広がるようになった。

2013年12月 GR-SAKURA Design Contest in Indiaを インド、ニューデリーにて開催
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 ラインナップが拡大し、Web上に設けたフォーラムでのユーザ同士の情報交換も活発になったことで、がじぇっとるねさすを使った電子工作は活発化。中にはクラウドファンディングを受けて具体的な商品化を目指すにまで至っているものもある。

ルネサスのRX64Mを搭載したGR-KAEDEでは、モーション検知のような高い処理能力を必要とするシステムも開発可能になった
(アプリケーションの一例)
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 GR-KAEDEは、ホビー/企業ユーザの方が安価で手軽に購入・評価できるArduino互換のRX64M評価ボードである。現在、秋葉原のマルツパーツ、秋月電子の店頭及びwebから購入可能。

 GR-KAEDEの特長は、Arduino UNO互換の端子およびライブラリをサポートしており、導入時にマイコンの専門知識が不要で、RX64MのUSB、Ethernet、SDカード、SPIなどの通信機能の評価を可能にしていることがあげられる。

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 このRX64Mは、最大4MB のFlashメモリ、512KB SRAMの大容量メモリを搭載しているため、各種通信機能への対応に伴い増加するアプリケーションや、プロトコルスタックの格納が可能。さらに、アナログ入/出力、PWM出力、CMOSカメラ入力などの機能にも対応しているため、GR-KAEDEの応用範囲を、さまざまなアプリケーションへ広げている。

 さらにRX64Mは、Trusted Memory機能を搭載。Trusted Memory領域内に保護したいプログラムを格納することで、第三者による読出しを保護できる。これによりアプリケーション開発者は、プログラムの漏えい保護を意識することなく開発したプログラムを活用し、アプリケーション開発を行うことができる。

 なおGR-KAEDEは、Trusted Memory領域に【人物/動体検知画像処理ミドルウェア】を格納し提供しているため、ユーザはこのミドルウェアを使うことで、人感センサやネットワークカメラとしてのアプリ開発にも利用可能。

 ところが松山氏はある日、広がり続けるユーザ層の中に、他とは少しタイプの違うユーザが増えていることに気づいたという。

マイコン自体はルネサス汎用製品と共通

松山景洋氏
ルネサス エレクトロニクス
グローバル・セールス・マーケティング本部 マーケティングコミュニケーション統括部 主席事業主幹

 「がじぇっとるねさすの一連の商品について、当社は個々のユーザの具体的な情報は持っていません。しかしサポートを行うフォーラムには、『この機能がないと困る』とか『開発が切羽詰まっている』など、どう見ても個人の趣味で使っているとは思えないような切実な要望が上がってくるようになったのです」(松山氏)。

 要望の中にはマイコンベンダとしての対応が必要なものもある。そこで松山氏がそのユーザにコンタクトを取ってみると、個人の趣味目的ではなく、メーカの生産技術部門の技術者として、生産ラインの制御システム開発の中で利用していることが分かったという。その他にも、開発中のシステムのプロトタイプ作りなどに使われている例が、続々と明らかになった。「まさかそういう使われ方をされるとは、思ってもいませんでしたよ」(松山氏)。

 しかしそんな使われ方は、客観的に考えると不思議ではない。マイコン自体はがじぇっとるねさす用に開発したものではなく、メーカが一般の機器に搭載するものと同じだからだ。個人の工作用とはいえ機能や品質面で妥協しているわけではないため、企業でのものづくりに使用することに問題はない。むしろ店頭や通販で一個単位で気軽に購入できる点は、特にプロトタイプ開発などには向いているとさえ言える。品質と使い勝手の両立が、技術者ががじぇっとるねさすのボードに飛びついた大きな理由なのだろう。

 またマイコン自体の高機能化も理由にあると松山氏は指摘する。「以前はアプリケーションに合わせて、マイコン周辺の回路を組む必要がありました。しかし今では、回路はほとんどマイコンの中に入っています」(松山氏)。既製のレファレンスボードでかなりのアプリケーション開発が、事足りるようになったわけだ。

 がじぇっとるねさすのボードは、いずれもデバッグ用の端子を備えており、ソースコードを直接デバッグする必要がない。そのため評価用ボードとしても利用可能だ。電子工作用として売られていながら、実はカバーできる範囲は広い。

Bluetooth Low Energy対応でIoT用途にも

 同社はがじぇっとるねさすのユーザが電子工作に限らず広がっていることを受けて、機能強化を進めていく方針だ。具体的にはBluetooth Low Energy対応のシリーズを追加することなどを予定しているという。「IoT(Internet of Things)の用途にも、がじぇっとるねさすが使われることを期待しています」(松山氏)。その他にも3Gネットワーク対応のボードを追加していく計画を立てている。

 ものづくりの課題を解決するためには、取り得る選択肢は広いほどよいが、そこに電子工作用のツールまで含めるのは思い切りがいるに違いない。しかしがじぇっとるねさすは、既に電子工作の範ちゅうを越えた実績をあげ、電子工作と製品開発の世界を横断したツールに発展しつつある。電子工作という先入観にとらわれずソリューションを探すことが、新しいものづくりのヒントになるはずだ。

GR-KAEDE ボード GR-KURUMI ボード GR-SAKURAおよびGR-SAKURA-FULL ボード GR-PEACH
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