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「つなぐ」ことがものづくりに与える効果と将来像を提示、CC-Link協会設立15周年記念「つながる時代のものづくりフォーラム」

CC-Link協会は2015年9月9日、「つながる時代のものづくりフォーラム」を東京都内で開催した。オープンネットワーク「CC-Link IE」などCC-Linkファミリの普及をはかるCC-Link協会が、2000年の設立から15周年を迎えたことに伴い開催したもので、ものづくりの研究の第一人者や政府の政策担当者、IoTによるものづくりのソリューションを提供する各社担当者が講演。新しいものづくりの実現に高速なネットワークが不可欠なことを来場者に印象づけた。

藤本隆宏氏
東京大学ものづくり経営研究センター長

 フォーラムではまず、東京大学ものづくり経営研究センター長の藤本隆宏氏が、「日本型ものづくり成長戦略−『流れ』をつくるIT活用の可能性−」と題した基調講演を行った。藤本氏は、「この数年、新興国の工場から『日本のものづくりを教えてくれ』と頼まれることが増えてきた」とし、その背景に、日本の製造業が生産性を急激に高めてきたことに対する危機感があるという。

 日本の製造業は、新興国の安価な人件費をあてに中国などに相次いで工場を建てたが、「日本の工場は企業の一部であると同時に地域社会の一部。工場長や現場の人たちが生き残るために必死になって生産性を高めてきた」(藤本氏)。その結果、生産性が飛躍的に向上。新興国との人件費の差はあっても、生産性を考慮すると部分的には新興国と変わらなくなっているという。藤本氏は、生産性を高めるために「よい設計とよい流れ、そしてその流れを共有する」ことの重要性を強調。ITやネットワークはその流れを共有するための手段と指摘した。

宮崎貴哉氏
経済産業省 製造産業局 製造産業技術戦略室長

 続いて経済産業省製造産業局製造産業技術戦略室長の宮崎貴哉氏が、製造業のIoT活用のトレンドや課題などについて講演した。センサやバッテリ技術、データ処理技術の高度化ですべてのデバイスをインターネットにつなぐIoTが現実化し、国内でも予知保全やマスカスタマイゼーションなどの実現に生かす事例が出てきている。しかしいずれも一企業内の取り組みであり、欧米の製造業のように企業の枠組みを超えてサプライチェーンをつなぐ例は少ないという。

 企業の枠組みを超えたサプライチェーンを現実化するうえで必要になるのが、FAとITの連携だ。ドイツなどではラインビルダと呼ばれるインテグレータが、その連携による生産システム全体を提供している。一方日本は「ソリューションを提供するプレーヤがFAとITで異なるうえに、中小企業の場合はそれをつなぐ生産技術部門もない」(宮崎氏)ことが、FAとITによる連携と、それによる設計から販売保守まで統合的な生産システムが広がらない理由と指摘した。

 政府は「ロボット革命イニシアティブ協議会」の創設などを通じ、IoT活用の基盤を作り、FAとITの連携で工程間をつなぐことのメリットを追求していくという。「つなぐことの利点は、見えているようで実は見えていない。先行事例の分析などで経済産業省も走りながら考え、社会に根付かせるための政策を議論していく」(宮崎氏)。

現場で一次処理することでネットワークの負担軽減

 ネットワークでつなぐことの重要性を指摘した講演を踏まえ、CC-Link協会テクニカル部会長の大谷治之氏がCC-Linkファミリが目指す方向性を示した。ものづくりのグローバル化に伴い、分散した工場を本社で一括管理したいというニーズに加えて、現場のデータをもとにした予知保全や品質安定化のニーズも高まっており、その基盤としてのネットワークの高速化に対する期待が大きい。産業用ネットワークとして唯一1Gbpsの広帯域を持つCC-Link IEは、その期待に応えるものだ。

 広帯域のため、品質データやレシピデータなども含めて一本のネットワークで送受信できるが、それらは突発的に発生するデータのため、普通に一本化すると、大きなデータが発生したときに機器の制御のための通信が影響を受けかねない。CC-Link IEでは、1Gbpsの中で制御用の帯域と情報用の帯域を分けることで、大容量の情報の伝送と安定的な制御を両立させているという。

 また大谷氏は、生産現場をさらに広範囲につなぎたいというユーザニーズに対応するために、他のオープンネットワークとの接続も検討していることを明らかにした。CC-Linkファミリには、Ethernet機器も含めてシームレスに通信するための共通プロトコル「SLMP」(Seamless Message Protocol)を定義しているが、その対応範囲を拡張することで、より多くの機器がつながる環境を作る方針という。さらに、マスカスタマイゼーションの流れに対応するために、ネットワークのトポロジを、作る製品に応じて動的に再構成できる仕組みも検討中だ。CC-Link IEはリング型やライン型などトポロジの選択肢が広いため、こうした使い方に発展しやすいという。

 米Cisco SystemsのIoT Systems and SoftwareのSr. Product Manager、Amer Atout氏は、IoTの中で同社が果たす役割について語った。IoTでつながるデバイスは電話普及時の5倍のスピードで増えているが、OSやプロトコルなどはそれぞれ異なるため複雑なシステムになりがちだ。そこで同社は、IoTを構成する技術を統合的に提供するシステム基盤を用意している。

 具体的には、スイッチやルータなどのネットワーク機器、エッジ側で行うデータ処理機能、高度な分析システム、セキュリティや管理機能などを統合したソリューションを提供する。ある工具メーカでは、Ciscoが用意するソリューションの導入により、工場で収集したリアルタイムのデータから装置の障害の可能性を予測し、障害発生前にメンテナンスするようなことが可能になったとしている。

 2015年5月からは、CC-Link IEのデバイスとCiscoのスイッチを組み合わせたテストを、日本国内で行っている。Ciscoが強みを持つTCP/IPの技術とCC-Link IEの優先制御の仕組みを生かし、機器や装置がつながる産業用ネットワークの中にTCP/IP機器を混在させても、両者が適切に通信できることを確認しているという。

 一方IoTで多くの機器がネットワークにつながるようになると、通信量の肥大化が懸念される。それに対して半導体メーカの立場から解決策を提案したのは、ルネサスエレクトロニクスの第二ソリューション事業本部産業第一事業部事業部長の傳田明氏だ。センシングするデータ量の増大は、ネットワークだけでなく現場の機器にかかる処理負担の増大ももたらす。そのために機器に高性能のCPUを搭載すると、コストや消費電力が増加してしまう。同社が示したソリューションは、センシングするデータを機器側で一次処理し、「必要なデータだけネットワークに流すようにする」(傳田氏)仕組みだ。

 同社は産業用Ethernet通信LSI「R-INエンジン」の提供で、この仕組みを実現する。リアルタイム0Sの機能の一部をハードウエア化したLSIで、CPUの負荷を下げて高速化し、空いたリソースを他の処理に充てられるようにする。現場の機器がデータの一次処理を行える余力を作り出すというわけだ。

 同社はこのR-INエンジンについて、新たに1GbpsのPHYを内蔵した「R-IN32M4-CL2」を追加し、2015年11月からサンプル出荷を開始する。「半導体工場でもウエハ大口径化などで現場から取得するデータが増えており、100Mbpsではいずれ足りなくなることが予想される。R-INエンジンで、CC-Link IEの1Gbpsという広帯域を生かすソリューションとして提供していく」(傳田氏)という。

ネットワークを仮想的に分割して業界横断の接続を実現

 三菱電機名古屋製作所e-F@ctory推進プロジェクトグループマネージャーの楠和浩氏は、生産現場の見える化やTCO削減などを可能にするソリューション「e-F@ctory」による、ものづくりの将来像について語った。生産現場のFAと管理部門のITをつなぐe-F@ctoryの構成要素の一つが、高速ネットワークのCC-Link IEだ。楠氏は「生産現場で何が起きてるかを見える化するのは、制御情報ではなく生産情報。しかし生産情報の管理のために制御と別のネットワークをもう一つ引くのは無理がある」と指摘し、1Gbpsの中で制御情報と生産情報の帯域を分け、一本のネットワークで通信できるCC-Link IEのメリットを強調した。

 NECの製造・装置業システム開発本部ソリューション戦略推進部マネージャーの北川泰平氏は、企業横断的に生産現場をつなぐためのソリューションを紹介した。PLMやERPなどをつないだものづくりは、つながる範囲が広がれば広がるほど実現できる付加価値は高まる。しかし「企業の枠組みを超えてつなぐ場合、直接制御系につないでもいいのかという懸念がある。途中にデータセンタのような存在を置き、それを介してつなぐのが現実的」(北川氏)。

 そこで同社は、ネットワークをソフトで動的に制御するアーキテクチャ「SDN」(Software-Defined Networking)を提唱し、そのための技術を提供している。ネットワークのゾーニングをソフトで柔軟に切り替える技術で、物理的なネットワーク構成を変更することなく、対応スイッチの導入など最小限の機器コストで、仮想的なネットワークを複数作ることを可能にする。仮想化して分割することで、それぞれに必要なセキュリティポリシーを適用できるわけだ。北川氏は「SDNはオープンな技術であり、NEC製品に限定したものではない」と強調し、パートナを広く募ることで、製造業のネットワーク活用を業界全体で支援していく姿勢を示した。

 フォーラム会場に隣接したホールでは、CC-Link協会に加盟するパートナ各社が、CC-Link IEに関連した各種ソリューションを展示。CC-Link IEの広帯域性や安定性を生かしたシステムが数多く披露され、CC-Link IEに対する支持がさらに拡大していることを来場者に印象づけた。

当日はCC-Link会員企業による展示も開催。ブースでは来場者から各社に対する熱心な質問が飛び交った。
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