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先端チップの設計力を大幅に底上げ、Cadenceの論理エミュレーター「Palladium Z1」

Cadence Design Systems社は、論理エミュレーター「Palladium」シリーズのフラグシップモデルとなる新製品、「Palladium Z1」を発売。2015年11月から出荷を開始した。最大92億ゲートという巨大システムの機能や動作を、丸ごとエミュレーション(模擬)できる能力を持っている。さらにマルチユーザーによる利用で、リソースをこれまでにない高効率で使い切る機能も備えている。究極を意味する「Z」を冠したこの製品は、既にNVIDIA社、Huawei Technologies社をはじめとする、最先端チップを開発する多くのユーザー企業が導入を始めているという。

 グラフィックスチップやスマートフォン向けSoC、通信機器向けプロセッサー――など、先端機器に搭載する半導体チップは、とどまることなく大規模化し続けている。10億ゲートを超える論理ゲートを搭載したチップが、当たり前のように使われる時代が到来しつつある。

 こうした大規模で複雑なチップを設計するとき、その機能や動作をハードウエアで高速にエミュレーション(模擬)する論理エミュレーターは、必要不可欠なツールである。ソフトウエアでチップを再現するシミュレーターでは、力不足なので、大規模で複雑なチップを、与えられた開発期間内で検証できなくなってきた。パワフルな論理エミュレーターの導入は、チップの設計力を底上げしてくれる。検証の効率化は、開発の短期化や品質の向上には不可欠な存在だ。

 Palladium Z1は、まさに論理エミュレーターの先頭を走る製品である(図1)。1ラック当たりのデザイン容量が3億8400万ゲートの「XLシリーズ」と5億7600万ゲートの「GXLシリーズ」の2種類が用意され、GXLシリーズを最大16ラック分接続した場合には、92億ゲートのチップを検証できる。最新の微細加工プロセスで作る最大規模のチップを丸ごとエミュレーションして検証できる。さらにこの能力を、一般的なチップ開発案件では十分な400万ゲート単位に分割して、最大2304人のユーザーで、それぞれのジョブを同時実行可能である。性能は、従来機と比較して、エミュレーションスループットで5倍、検証に利用できるリソース利用率に当たるワークロード効率で2.5倍、コンパイル速度で2倍、平均性能で50%向上を達成している。

図1 Cadence Design Systems社の論理エミュレーター「Palladium Z1」
ラック型サーバーに似たきょう体になった。
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 Palladium Z1は、ただ高性能なだけではない。総保有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)の費用対効果も、クラス最高を実現。従来製品「Palladium XP II」と比較して、設置面積を92%削減、ゲート当たりの電力効率を44%向上している。

リソースを有効活用できるスケーラビリティを確保

 性能面からPalladium Z1を見たとき、最も驚かされる点は、スケーラビリティが確保されていることだ。すなわち、検証すべきチップの規模が10倍になったら、エミュレーションするために必要なリソースも10倍あれば済み、エミュレーション速度が低下することもない。当たり前に聞こえるかもしれないが、実は、これはかなり非凡な特長なのだ。チップの規模が大きくなると、検証すべき設計データのインスタンス(プログラムやデータをメモリーに展開して検証可能な状態にしたデータ)の数も増え、配線の量も指数関数的に増えてくる。このため、規模が10倍になれば、20倍のリソースが必要となり、エミュレーション速度も1/2になってしまう場合もあるのが普通である。

大塚 逸朗 氏
営業本部 HSV営業部 ディレクター

 Palladium Z1は、「エミュレーションに利用するリソースを細かく区切った1単位であるドメインの間での信号のやり取りを高速化することで、高性能と同時にリソースの有効活用も実現するコンセプトで開発されています」(日本ケイデンス・デザイン・システムズ社 営業本部 HSV営業部 ディレクターの大塚逸朗氏)という。ドメイン間の通信には、SerDesと光通信技術を導入し、信号パスのバンド幅を大幅に拡張。その効果をリソースの有効活用や利便性の向上につなげるため、革新的な機能も投入されている。Palladium Z1の特長であるスケーラビリティは、こうした機能によって実現している。

 例えば、空いているリソースにジョブを柔軟にアロケーションできるようにした「リロケート(Re-Locate)」や「リシェイプ(Re-Shape)」と呼ぶ機能がある(図2)。従来機では、一度コンパイルした後は、検証に利用できるドメインが決まってしまい、動かせなかった。たとえ、他のドメインに空きがあっても、そこにジョブを投入して有効利用することができなかった。Palladium Z1では、物理的なドメインの並び順とジョブの並び順が違っていてもよいし、飛び飛びのドメインにジョブを割り当てることもできる。しかも、ほかのジョブが動いているときに、動的にジョブの割り当てを変えることも可能である。これらは、信号パスのバンド幅が大きくなったからこそできる技である。

図2 リソースの有効活用と利便性の向上を実現する「Re-Shape」と「Re-Locate」
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 これらの機能は検証時の人手による手間を省いてくれる利点もある。エミュレーターに実際のボードをUSBケーブルなどでつなぎ、組み合わせたシステムを検証する場合もある。一度こうしたセッティングをしてしまうと、ケーブルをつないだ部分を別のジョブに使いたい場合、もう一度手でケーブルを付け替える必要があった。Palladium Z1では、ケーブルはそのままで、操作端末から自由に切り替えられるようになった。

一般的なデータセンターに導入可能

後藤 謙治 氏
テクニカルフィールドオペレーション本部 システム&ベリフィケーション テクニカルセールスディレクター

 さらに、Palladium Z1では、一般的なサーバーラックと同様のきょう体形状に変更された。これまでのCadence社の論理エミュレーターは、とても個性的な形状だった。今回の変更によって設置面積が92%改善され、「一般的なデータセンターなどで普通のサーバーと並べて設置できるようになりました」(日本ケイデンス・デザイン・システムズ社 テクニカルフィールドオペレーション本部 システム&ベリフィケーション テクニカルセールスディレクターの後藤謙治氏)とする。近年、遠隔地のチームと共同でチップを設計するケースが増えている。このため、論理エミュレーターがデータセンターに置きたいというニーズが高まっていた。

 Cadence社は、論理エミュレーションをはじめとして、22通りのユースモデルを用意し、その潜在能力を生かすための方法を示している。例えば、論理シミュレーターでは検証時間が長くなりすぎるので、時間を短縮するためにPalladium Z1を利用するケース。アナログシミュレーターと組み合わせて、ミックスドシグナルシステムを検証するケースなどである。

 大容量、高速、投資価値の向上を実現したPalladium Z1は、論理エミュレーターの利用シーンをより拡大する可能性を秘めた製品だといえよう。

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