日経テクノロジーonline SPECIAL

基調講演

製造業の革新をめぐる最先端の話題をテーマに展開するフォーラム「FACTORY」。2014年3月の初回から数えて6回目に当たる「FACTORY 2015 Fall」が2015年9月30日~10月2日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された。今回は、「スマート工場」の実現を目指す大きな動きをリードする日米独のキーパーソンを招いて、今後の展望や課題などを議論。さらに、スマート工場を支える技術を提供する企業がICT(情報通信技術)や半導体など幅広い業界から登壇。最新の情報を交えた講演を繰り広げた。さらに今回、初めて本格的な展示会も同時開催した。

 今回のFACTORYでは、基調講演としてパネルディスカッションが開かれた。テーマは、「日米独のキーパーソンが語るスマート工場の展望」。会場となった東京ビッグサイト国際会議場には、収容人数いっぱいの約1000名が集まった。パネラーとして登場したのは、コマツの執行役員で生産本部生産技術開発センタ 所長を務める栗山和也氏。Industrial Internet Consortium(IIC)Chief Technical Officer(CTO)のStephen Mellor氏。独Siemens社Head of Strategy Digital Factory DivisionのHans Rauner氏の3人である。モデレーターは、登壇者たちを「スマート工場だけでなく、製造業における次世代ビジネスモデルでも、間違いなく世界のトップを走る3人」と紹介した。

栗山 和也氏
コマツ 執行役員 生産本部 生産技術開発センタ 所長

 コマツの栗山氏は、「Manufacturing Innovation by Save & ICT」というコンセプトの下で、同社が取り組んでいる「つながる工場」を解説した。これは、いわばコマツ流のスマート工場で、ERP(統合基幹情報システム)やMES(製造実行システム)などのITシステムを連携させて、生産から販売まですべての工程を「見える化」する取り組みである。

 現在、同社はあらゆる生産設備をネットワークにつなげて、生産に関する情報を可視化する「KOM-MICS」というシステムを世界中の工場に展開中だ。このシステムを導入する狙いは、スループット(面積当たりの生産性)を向上させることだという。

IICはインダストリー4.0と対立せず

Stephen Mellor氏
米Industrial Internet Consortium Chief Technical Officer(CTO)

 次にマイクを握ったMellor氏が在籍するIICは、米General Electric(GE)社が提唱した「インダストリアル・インターネット」の推進団体である。IICの設立は、2014年3月。すでに200を超える企業・組織が加盟している。

 ドイツ政府が推進する「インダストリー4.0」と、米国企業が打ち出したコンセプトを推進するIICの活動は、「ドイツ対アメリカ」という対立の構図にあると見る向きがある。こうした見方をMellor氏は、否定した。「グローバルスタンダードを巡る動きやインダストリー4.0などと協調しながら活動を進め、関連する市場の活性化や、新規市場の創出を図る考えです」(Mellor氏)。

 IICの主要な活動は、リファレンスアーキテクチャーを作成することだという。「グローバル展開している中堅・中小企業には、意図的に加盟を呼びかけており、これらの企業がエコシステムやパートナーシップを築く手助けをすることもIICの重要な役目です」(Mellor氏)。

「リアル」と「仮想」にまたがる革新

Hans Rauner氏
独Siemens社 Head of Strategy Digital Factory Division

 続いてマイクを握ったRauner氏が所属するSiemens社は、インダストリー4.0の中で中心的な役割を担っている企業の一つだ。仮想空間(コンピュータ)とリアルな空間が連携した「サイバー・フィジカル・システム(CPS)」を導入することで、マスカスタマイゼーションにも対応可能な極めて高い柔軟性を備えた生産プロセスと、企業や国・地域の枠を超えてつながった高度なバリューチェーンを実現。これによって新しい製造業のプラットフォームを構築して、そこから新しいビジネスモデルを創出する。これが、インダストリー4.0の大きな目標だ。

 「その実現に向けてSiemensは、デジタルエンタープライズにおける仮想空間とリアルな空間の両方をカバーする技術を展開しています」(Rauner氏)。Rauner氏が言う「デジタルエンタープライズ」は、あらゆる業務やプロセスがデジタル化された効率的な事業を指す。同社は、デジタルエンタープライズに向けたツールを提供できる体制を整えるため、2007年以降に40億ユーロ以上もの投資をしてきたという。

 「スマート工場が実現すると、製造業のビジネスモデルはどう変わるのか」との問いに、Mellor氏は「分からない(I have no idea.)」と素っ気なく答えた。だが、これに続いて「実は先が見えていないことこそが重要だ」と強調して述べた。「今ではWebページを閲覧するのに誰もが使っているワールド・ワイド・ウエブを開発したティム・バーナーズ=リー氏も、現在のような使われ方は想定していなかった。スマート工場も同じで、現在は想像もできないようなマネタイズの方法が必ず生まれてくる」と予言した。

 栗山氏は、「お客様が欲しいものをオンタイムで提供するようなサービスが出てくる」と指摘。製造業に携わる企業が、自社の生産性の向上に努めるだけでなく、顧客の生産性を向上させるサービスを提供するようになるだろうと予想する。

 Rauner氏は、スマート工場の未来を「MaaS(Manufacturing as a Service:サービスとしての工場)」と表現した。つまり、多様な製品を生産できるプロセスを利用して生産をサービスとして提供する施設である。「こうしたサービスが始まれば、個々の市場ニーズに緻密に対応できるグローバルな生産体制をメーカーが構築できるようになるでしょう。市場の変化に合わせて適応的に生産体制を変えることもできるようになるかもしれません」と予測する。

幅広い分野の企業が講演や展示

 パネルディスカッションに続く講演では、製造業の革新に貢献する技術や製品を展開する様々な分野の企業が登壇した。具体的にはIT業界から、日本マイクロソフトとJDAソフトウェア・ジャパン。半導体業界から、オン・セミコンダクターとアナログ・デバイセズ。FA業界から、シーメンスやTHKが登場した。

 ビッグサイト東ホールに設けられた展示スペースには、台湾IEI Integration、ADLINKジャパン、エス・ディ・エス、オン・セミコンダクター、JDAソフトウェア・ジャパン、Taiwan Display Union Association、テックサポートマネジメント、東芝、日本セーフネット、日本電機研究所などが出展。主催者が企画したテーマ展示コーナーでは、スマート工場を支える技術として、由紀精密、碌々産業、ベッコフオートメーションが開発したクラウドを介してモバイル端末と連携するCNC微細旋削加工機。THKインテックスと川田工業が共同開発した産業用ヒト型ロボット。ストラタシス・ジャパンの3Dプリンターなどが展示された。ここでは、CNC微細旋削加工機や3Dプリンターをマスカスタマイゼーションに貢献する技術。産業用ヒト型ロボットは、人と機械が共存する工場の実現に貢献する技術として位置付けていた。