日経テクノロジーonline SPECIAL

【基調講演】見えてきた“産業革命”への道、「実装」に向けた取り組みが続々

ドイツが推進する「インダストリー4.0」などIoT(Internet of things)を軸に製造業の新しいビジネスモデルを模索する動きが工業先進国を中心に活発化している。こうした中で開催された「FACTORY 2015 Summer」は、“産業革命”に向けた取り組みが、既に新しい局面に入ったことを多くの来場者に印象付けた。製造業の新しい時代を見据えて、いち早く動き始めた企業が相次いで登場。「実装」を意識した取り組みや技術・製品を披露したからだ。

 現在、欧米の工業先進国でIoT(Internet of Things)やM2M(Machineto Machine)を利用して、ものづくりを変革する取り組みが進みつつある。

世界中の製造業界では今後、どのような変革が進んでいくのか、日本企業には何が求められるのか―。こうしたテーマで展開された「FACTORY 2015 Summer ~グローバル・トレンドの先を読む~」には、ものづくりのキーパーソンを中心に12人が登場した。

インダストリー4.0を実践

基調講演講師
森 雅彦氏
DMG森精機 取締役社長

 冒頭の基調講演には、グローバルな事業体制をいち早く構築したDMG森精機取締役社長の森雅彦氏が登壇。同社の経営戦略とインダストリー4.0に対する取り組みを披露した。

 同社は、DMGブランドを有する独GILDEMEISTER社と森精機の統合によって誕生した企業。2009年に両社間で業務・資本提携を開始し、2015年に日本側の出資比率を引き上げて連結企業グループとなった。切削型工作機械の売上高では世界随一のシェアを誇るグローバル企業である。

 森氏によると、社内で実践するためインダストリー4.0に対応したミニプラント 義である。競争優位性を生み出さないを構築。そこで、自社の工作機械や情報システムを使って、様々な実証を進めている。例えば、ERP(統合基幹業務システム)とPLM(製品ライフサイクル管理)を連携させる仕組みを独自に構築。ERPの生産計画情報を、CAD(コンピューターによる設計)やNC(数値制御)のデータと連携させる「CELOS」というオペレーティング・システムを開発した。

 一方、顧客向けとしては、工作機械の様々なデータをセンサーによって計測する「MNNS(Mori Neural Network System)」というシステムを開発した。そこから得られたデータを分析し、顧客にフィードバックする。

 森氏は、こうした取り組みが近い将来、財務的に大きな貢献を果たすとみている。2014年に工作機械の世界市場で8%だったシェアを、2030年くらいには20%まで高めたいと考えている。「既に欧州市場では20%を達成しており、不可能な数字ではない」(森氏)と自信を見せる。

人を起点として工場をつなげる

特別講演講師
西岡 靖之氏
法政大学 デザイン工学部教授 インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ 理事長

 特別講演には、法政大学デザイン工学部教授の西岡靖之氏と特許庁審査第一部計測審査官の大谷純氏がそれぞれ登壇した。

 西岡氏は、2015年6月に発足したインダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)の理事長を務める。IVIは、「つながる工場」のための仕組み作りを目指して、製造業を中心とする70社以上の企業が参加する会員組織(2015年8月)。ものづくりにIoTを活用する点はインダストリー4.0と同じだが、一線を画する点もある。西岡氏は「インダストリー4.0がモノを起点とした仕組み作りを目指しているのに対して、IVIにおける取り組みは人を起点としている」と語る。

 人を起点にするとはどういうことか。西岡氏は次のように説明する。

 「IoTといっても全てのモノがデータになるわけではない。何をデータ化するかは人が決める必要がある。さらに、データをつなぎ合わせる際にも、その意味付けをするのは人の役目。IoTは人が支えなければ成立しないし、その分、人の役割が重要になる」。現場の持つ知見・ノウハウを活用することで、IoTをより効率的に生かそうというのが目的である。

 西岡氏によると、IVIの活動は2つの境界を再定義することだという。1つは、デジタルとアナログの境界を定義すること。何をデータとして収集するか。またデジタル化できない知見やノウハウは何かを個々の会員企業が定義していく。

 もう1つは、競争領域と協調領域の定義である。競争優位性を生み出さない協調領域は会員企業間でオープンにし、業界全体の競争力を高める。こちらは、会員企業全体で議論していく。こうした活動を通じて工場をつなげるための「リファレンスモデル」を策定するという。

インダストリー4.0を現地調査

特別講演講師
大谷 純氏
特許庁 審査第一部 計測 審査官 (前職)NEDO標準化・知財戦略G

 特許庁の大谷氏は、前職である新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に所属していた際に、ドイツの現地調査を含めて、インダストリー4.0の標準化・知財戦略を調査した。

 大谷氏は、「インダストリー4.0の標準化戦略を理解する上で重要なのがリファレンス・アーキテクチャーの存在である」と指摘。これは、機械やソフトウエア、デバイスなどを結びつけるための参照モデルである。各企業の開発方向を誘導し、標準化のターゲットが特定されることを狙う。

 これまでは、リファレンス・アーキテクチャーの内容は開示されてなかったが最近になって、いくつかの要素が公開されるようになったという。その一例がデジタル設計を行う「オフィス・フロア」と実際に工場の稼働を行う「ショップ・フロア」を融合させるモデルである。その融合には標準化が欠かせない。

 また、プロトコルなどの標準化により優位になる、ソフトウエア関連技術の特許出願が、インダストリー4. 0の主要企業を中心に進められているという。特に、「大企業・中堅企業と中小企業との間に、主要プレーヤーとしての関心や、自主的に取り組む能力などに、差があると推測される。また、遠隔地からバーチャル空間における制御ソフトウエアの動作検証やスタートアップなどを行う技術の特許出願も進められ、ソフトウエア関連技術の普及と並行して、中小企業の参入支援を想定している可能性もある」と語った。

 会場ではほかにも、アナログ・デバイセズ、デル、富士通、ハーティング、経済産業省、レクサー・リサーチ、三菱電機、シーメンスPLMソフトウェア、トレンドマイクロが登壇した(アルファベット順)。また、展示コーナーには、マクニカネットワークスや日本セーフネットなど6社が出展した。

 次ページから、パネルディスカッションと各社講演を紹介していこう。