日経テクノロジーonline SPECIAL

パネルディスカッション

工業先進国を中心に製造業の新たな方向を示す動きが世界的に進みつつある。こうしたトレンドの中で、日本の製造業はどのような方向に進むべきか。そこで直面する課題や解決方法は何か。「製造業の新潮流と日本」と題したパネルディスカッションがFACTORY 2015 Summerの中で開かれ、各界のキーパーソンが登壇し、日本の課題と展望についての議論を交わした。

 パネリストは、製造業を俯瞰(ふかん)する立場である経済産業省の西垣淳子氏、FA(ファクトリー・オートメーション)の専門家である三菱電機の山本雅之氏、IT(情報技術)の専門家である富士通の熊谷博之氏― の3人。モデレーターは日経BP社執行役員の望月洋介が務めた。テーマは「日本の製造業の現状と課題」と「今後の展望」である。

IT活用で独・米がせめぎ合い

パネリスト
西垣 淳子氏
経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室長(開催当時)

  ディスカッションの冒頭でモデレーターの望月が、「ドイツが推進する『インダストリー4.0』や米General Electricが提唱する『インダストリアル・インターネット』が大きな話題になり、製造業全体が新たな局面を迎えているということが日本国内でもはっきりと認識されるようになった」と指摘。その上で、パネリストの各氏に「現状と課題」の認識を聞いた。

 経産省の西垣氏は「インダストリー4.0やインダストリアル・インターネットなど新しい概念の登場によってFAとITの融合が進んだ結果、データ活用によって新たな市場創造しようという動きが多方面で起こりつつある」と語り、そこでデータを巡る駆け引きが繰り広げられているという。

 具体的には、ITを得意とする米国の企業はクラウドサービスを介して製造業のノウハウを全て取得することを狙っている。これに対して、製造業に強みがあるドイツはノウハウを堅守しつつ、ITの長所をうまく利用しようと考えている。西垣氏は「IT活用のせめぎ合いが米独の間で起こっている中で、日本の製造業がどのようにITを活用するかという方向性を打ち出すことが重要な課題になっている」と指摘する。

パネリスト
山本 雅之氏
三菱電機 役員理事FAシステム事業本部 副事業本部長

 三菱電機の山本氏は、製造業におけるIT活用として同社の取り組みを紹介。同社では工場内の各種データを見える化することで、生産性の向上やコストの削減に寄与すると考え「e-F@ctory」というコンセプトを推進してきた。

 当初は手探りだったが、ハードウエアとソフトウエアの進化によって、高速に大量のデータが処理できるようになり、工場内の見える化によるTCO(総所有コスト)の削減が実現できたという。FAとITの連携の対象がPLM(製品ライフサイクル管理)全体に拡大してきたことが近年の特徴だという。

e-F@ctory概念図
(Factory 2015 Springから引用)

CPSで製造現場は大きく変わる

パネリスト
熊谷 博之氏
富士通 産業・流通営業グループ プリンシパル・コンサルタント

 富士通の熊谷氏は、インダストリー4.0のような仕組みがサプライチェーンに及ぼす影響に言及した。物理空間をサイバー空間が連携するCPS(サイバー・フィジカル・システム)の本質を考えることが重要だと指摘した。

 例えば、CPSを活用すると、個別の顧客の要望に合わせたカスタマイズ品を大量生産品と同等の効率で生産する「マスカスタマイゼーション」が実現できる。これが本格化すると、部品調達や物流が大幅に変わる。「需要や在庫量をビッグデータで分析・予測するような技術も重要になる」(同氏)。製造業にとって重要な課題は、これまで分断されていたシステムを連携させていくことだと評する。

インテグレーターが中小企業で不足

 西垣氏も、システムを連携させる部分が、日本の産業界で大きな課題になっていると同意した。「CPSの導入によって、サイバー空間上のシミュレーションを現実の生産プロセスに同期させ、相互に情報をやり取りする流れができれば、製造現場は大きく変わる」(同氏)。具体的には、生産システムをサイバー空間上で作り込んで、リアル空間で再現できれば、生産性の向上とコストの削減に大きく寄与する。

 ただし、そうしたシステムの開発・利用で日本は欧米よりも後れを取っている。「基幹システムと現場システムをつなぐインテグレーターが、特に中小企業で不足しているのが現状」(同氏)と指摘した。

FAとITの垣根がなくなる

 山本氏は、FAとITを融合する上での課題は2つあると指摘。1つ目がビッグデータに対するアプローチである。マーケティング分野などではあらゆるデータを1カ所に集めて分析しているが、生産現場も同様のやり方が正しいとは限らない。むしろ、「F A側でデータの選別やひも付け、必要に応じて簡易的な解析を行ってから、上位のITシステムに渡す方が効率的な解析やシミュレーションが実施できると考えている」(同氏)と言う。

 もう1つの課題がセキュリティである。FAとITが融合することで新たな価値が創造できる半面、外部からのハッキングやノウハウの流出など、セキュリティ上の新たなリスクが生まれてくる。これに対処することが重要な課題となる。

 熊谷氏は、FAとITの役割分担を考えることが、これから非常に難しくなると予測する。ハードウエアやソフトウエアの進化によって、例えば「どのデータをどこのシステムで、どのように処理するか」ということの妥当な基準そのものが揺らぎつつあるからだ。「境目がなくなることで、FAとITの業界が一種の戦国時代になるのではないか」(同氏)とみている。

「ワン・ジャパン」での革新を

 今後の展望として、西垣氏は様々な団体が連携することの重要性を語った。2015年5月に日本政府・内閣府主導のロボット革命イニシアティブ協議会が設立されたほか、同年6月にはスマート工場のリファレンスモデル構築を目指す民間団体インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブが発足した。

 各団体がそれぞれの強みを生かし、課題を解決していくことで、日本のものづくりは、世界と戦えるようになると期待を語った。

 山本氏は、ロボットを含む自動化技術や現場の改善力といった、日本の製造業の強みを生かした革新が必要だと指摘。個別技術に立脚してきた経験やノウハウを生かすためにも、企業や業界の枠を超えた連携の重要性を訴えた。

 熊谷氏は、「企業内や企業間で製造に関する情報をスムーズにやり取りするためのプラットフォームが重要になる」と語る。ただし、特定の1社だけが仕切るのは難しいので、「中小・大企業を問わず、日本企業が協力しながら日本流のエコシステムを構築する必要がある。これらのノウハウをプラットフォームとして形づくり、日本企業が一致協力した『ワン・ジャパン』で革新を起こしていけばよい」と強調する。