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走行中や充電中でも、高精度なSoCを実現

アナログ・デバイセズが挑むクルマの未来2019 第4回

クーロン・カウンターではかるエネルギーの見える化
バッテリを流出入する電流を積算
走行中や充電中もSoCを高精度に

EVやPHEVのバッテリ残容量(SoC)を±1%程度の誤差で把握できるソリューションをアナログ・デバイセズが開発した。バッテリのセル電圧からSoCを求める従来の方法は、冷間時は問題がないが、セル温度が刻々と変化する走行中や充電中は精度が得られないという課題があった。新しいソリューションでは、バッテリを流出入する電荷量を精度高く計測することで、SoCの正確な算出を実現する。

住谷 善隆 氏
住谷 善隆 氏
アナログ・デバイセズ株式会社
アプリケーション開発マネージャー
TUV認定 機能安全エンジニア

 厳格化が進む排ガス規制への対応や、脱炭素社会の実現に向けて、電気自動車(EV)やプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)へのシフトが進みつつある。

 EVやPHEVのドライバーにとって気になるのが、航続距離の把握に欠かせないバッテリの残容量情報だろう。PHEVならバッテリが空になってもまだエンジンで走れるが、EVだと「電欠」が起きかねない。

 EVやPHEVに使われているリチウムイオン電池の充電状態(SoC:State of Charge)は、一般にはセル電圧から求めることが多い。例えば4.2Vであれば充電上限状態、2.5Vであれば放電下限状態、といった判断だ。

 ただし、この方法には次のような課題があると、アナログ・デバイセズの住谷善隆氏は指摘する。「セル電圧は温度によって変動するため、電流が流れてセル温度が変動する走行中と充電中は高精度でSoC計測ができません。通電を止めてバッテリパック内が温度ムラなく安定した状態になるまで待たなければならないのです。そのため走行中と充電中は、温度による計測誤差を考慮し、ある程度のマージンを見込んでSoCを管理するしかありませんでした」。例えば、実際はまだ10%ほど残っているのにバッテリが空に近づいたとドライバーに示したり、90%に達した段階でチャージャーに満充電を通知して充電を止める、といった運用が必要だった。

セル温度に依存せず電流積算値からSoCを算出

 走行中や充電中を含めて正確なSoCを把握できれば、ドライバーに残容量を正確に示すことができて、充電もきめ細かく制御できる。マージンを見込む必要がなくなり、バッテリパックの容量をフルに活用できる。

 そうしたニーズに応えてアナログ・デバイセズが開発したのが「LTC2949」である(図x)。20ビットのΔΣ型A/Dコンバータにてバッテリが出力した電流と、バッテリを充電した電流を測定し、48ビットのカウンターにて積算値を精度高く計測するいわゆるクーロン・カウンターの一種で、EVやPHEVが扱う数百Aから1000Aオーダーの大電流に対応しているのが特長だ。

図x. 数百Aから1000Aオーダーの大電流を有効ビット1 8ビットという高精度でサンプリングし積算するクーロン・カウンターLTC2949(基板中央やや上)
図x. 数百Aから1000Aオーダーの大電流を有効ビット1 8ビットという高精度でサンプリングし積算するクーロン・カウンターLTC2949(基板中央やや上)
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 バッテリマネージメント・システムの構成例を図yに示す。LTC6813は18セルの電圧計測に対応したADIの高精度BMSICで、クルマが止まっていて、充電も行っておらず、バッテリパックの温度がムラなく安定しているときに、セル電圧を計測するのが役割だ。16ビットのΔΣ型A/Dコンバータを内蔵しており、25℃での誤差はわずか±2.2mVである。

図y. クーロン・カウンターLTC2949を用いたバッテリマネージメント・システムの構成例(右)。冷間時はLTC6813で計測したセル電圧を用い、セル温度が変動する走行中や充電中はLTC2949で計測した電流積算値を用いて、SoCを算出する
図y. クーロン・カウンターLTC2949を用いたバッテリマネージメント・システムの構成例(右)。冷間時はLTC6813で計測したセル電圧を用い、セル温度が変動する走行中や充電中はLTC2949で計測した電流積算値を用いて、SoCを算出する
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 一方、走行中や充電中などバッテリセルの温度が刻々と変化しているときや、バッテリパック内に温度ムラが生じているときは、先ほどのLTC6813で得たSoCを基準に、LTC2949で計測した積算電流値を使ってSoCを算出すればよい。例えば、バッテリパックの容量が100Ahrとして、1.00Ahr相当の電荷が流れたと計測された場合、SoCは1.00%減少したと求められる。

 「算出アルゴリズムなどにもよりますが、±1.0%程度のSoC精度を実現できるのではないかと考えています」と住谷氏は訴求する。従来の±10%程度のマージンに比べて、バッテリパックの容量をほぼフルに使えることになり、自動車メーカーとドライバーの双方にメリットをもたらす。

1000A オーダーの大電流の計測と積算に対応

 LTC2949は20ビットのΔΣ型A/Dコンバータを5個内蔵しており、そのうちの2個が電流計測用である(残りは2個が電力計測用で1個が汎用外部入力用)。A/Dコンバータのサンプリングクロックは4MHzと高速で、積算用に48ビット長のカウンターを備えているため、バッテリ電流に瞬間的な変動があった場合でも取りこぼしなく計測と積算ができる。

 電流計測用の2組のA/Dコンバータは入力コモンモード電圧がレール・ツー・レールに対応しており、入力作動電圧のフルスケールが+/−124mVに収まるようにシャント抵抗値を設定すればよい。例えば、バッテリの最大電流を1000Aと仮定すると、必要なシャント抵抗値は124μΩになる。

 「μΩオーダーの超低抵抗に対応した入力段の実現はきわめて難しく、高度なアナログ回路技術を持つ当社だからこそ開発できたと言えるでしょう」と住谷氏は説明する。

 なお、電流計測用に2個のA/Dコンバータを備えているため、単一のシャント抵抗の両端電圧を並列に計測して冗長性を持たせたり、モーターなどの大電流系とそれ以外の系統を分けて計測するなどの使い方ができる。

 LTC2949はこの他に、バッテリパックの総電圧の計測機能と電力積算機能、過電圧や過小電圧などのフォールト検知機能、複数のGPIO端子、積算値読み出しやレジスタ設定に用いる絶縁型のisoSPI(アイソ・スパイ)バスなどを備えている。

 なお、電流または電力の見える化を行うだけなら、LTC6813などと併用せずに、LTC2949を単体で使用してもよい。

バッテリ性能を引き出しEVやPHEVの価値を向上

 EVやPHEVがタクシーや商用車にも使われ始め、カーシェアリングのような新たなサービスが登場し、さらに搭載バッテリの容量が大きくなって充電時間が長くなりつつある現在、バッテリパックの温度の安定に必要なクルマの「休息時間」はどんどん短くなっているのが現状だ。走行中や充電中でもSoCを正確に把握する手段がいっそう求められている。

 「アナログ・デバイセズはクルマ全体の効率的なエネルギー・マネージメントに力を入れています。LTC2949はその一環として、自動車メーカーやサプライヤーが抱えるニーズに応えるべく、およそ3年の歳月を掛けて開発したICです。これまで難しかった走行中と充電中のSoCを精度高く把握できる画期的なソリューションであり、近いうちに市販車に搭載される見込みです」と住谷氏は説明する。

 LTC2949は、バッテリの性能をフルに引き出す陰の存在となって、EVやPHEVの価値向上に寄与するに違いない。

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  • アナログ・デバイセズ株式会社
    アナログ・デバイセズ株式会社

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