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日産が取り組む設計者向けデータ管理

日産自動車

日産が取り組むMBD制御設計者向け
データ管理ソリューションの概要

車載制御システムは、自動車の商品力を決定付ける重要な要素として、年々高度化、複雑化しており、制御設計者が扱うデータの数も種類も増加の一途をたどっている。日産自動車では、開発品質と作業効率のさらなる向上を目的に、「Aras Innovator」を採用し、データ管理の強化を図っている。講演では、グローバル情報システム本部の根本博明氏が、「Aras Innovator」の選定から導入に至るまでの取り組みについて紹介した。

日産自動車株式会社
グローバル情報システム本部
エンジニアリングシステム部
根本 博明

 日産自動車では、2011年度から新中期経営計画「パワー88」の主な事業活動として、「ゼロエミッションリーダーシップ」と「テクノロジーリーダーシップ」に取り組んでいる。前者では、電気自動車「リーフ」の販売促進を、後者では2020年までの自動運転を目指し、研究開発を推進中だ。根本氏が所属するグローバル情報システム本部エンジニアリングシステム部は、新中期経営計画に対して、情報システム部門として、日産R&Dの各部署をサポートする役割を担う。

重要性が増す車載制御システム

 根本氏はまず、「自動駐車システムやエマージェンシー・ブレーキなど車載制御システムは、自動車の安全性、商品性を決める上で最も重要な存在だが、年々高度で複雑になってきている。現在、自動車に搭載されているコンピューターの数は50~100個で、近い将来200個になるとも言われている」と言及。そして、自動車開発の一連の流れの中で、車載制御システムの設計と検証が非常に重要な工程になっていることと、その設計者の負担が急増していることを訴えた。

 現在、車載制御システムの開発を担う日産の制御設計部門は、多数のグループで構成されており、MBD(モデルベース開発)と呼ばれる設計手法を使って、開発を進めている。MBDとは、シミュレーション技術に基づく制御ソフトの開発のことだ。コンピューター上で、電子制御システムの評価ができるという点では画期的な手法だが、一方で、MBD設計データの管理業務が追加される形となっている(図)。根本氏は、これに対するシステム化の必要性が、「Aras Innovator」を導入するに至った背景だと語った。

●業務部門のモデルベース開発(MBD)への取り組み
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 主な問題点は3点だ。1点目は、管理するデータの種類も数も多く、しかもその大半がデータ構造上、業務目的上の関係性を持っている事。2点目は、設計の各工程間を包括する情報システムが無く、工程間の接続情報を人系で管理している事(情報の多元管理、コピー発生)。そして、3点目は、複数の車種の開発が同時進行で進められている中、搭載システムの開発納期をそれぞれの車種の開発日程に合わせるプロジェクトマネジメントの難しさ。以上から、エンジニアリングシステム部が取り組むべき課題は「データの一元管理」「トレーサビリティ」「業務の効率性向上」の3点に帰着した。

オープン性、開発容易性、低コストを実現

 根本氏は、制御設計部門の特徴として、技術革新のスピードが速いので、新たな技術を導入するため、常に業務要件が変化していくこと。さらに、自動車に搭載されているコンピューターが50~100個に及ぶ中、基本的なプロセス、データは共通点が多く含まれているものの、各設計グループが個々に最適化した設計手順を持っている――ということを挙げた。

 そのための開発コンセプトは、“みんなが使える事” とし、共通部分=コアをしっかりさせた上で個別のサポートにもスピーディーに対応できることを目指したという。システムのコアの部分となる下層は、データ管理要件とし、一元管理とトレーサビリティに徹する。個別サポートの部分となる上層は、ビジネスプロセス要件とし、ユーザビリティの確保と業務効率化の向上を担わせる。

 実際にソフトウエアの選定する段階になって、「Aras Innovator」に決めた理由は、「オープン性」「開発容易性」「低コスト」の3点を挙げた。と根本氏。

 その上で、実際に開発したシステムの概要を紹介した。下層に関しては、各業界のデータ管理要件を把握していった上で、日産のMBD制御設計者のデータ管理要件を完成させていき、その上で、Arasのデータモデルに変換したと紹介。その結果、日産が望むデータモデルを100%実装することに成功した。

 根本氏は、システム開発プロジェクトを振り返り、「当初期待した通り、オープンでクセのないArasデータモデルの果たす役割は大きかった。プロトタイプの活用により、ユーザーである制御設計部門とスピーディに仕様を固めることができた。カスタマイズ開発に関しても、Arasをベースにすることで、コストを予算枠に収めることができた」と語った。その結果、コンセプト通りのシステムが完成したという。

 現在は、本システムの適用部署拡大を進めており、データモデル、業務プロセス要件の再利用により、後続部署においては、システム開発コストを16%に低減できる見込みだ。

 最後に、根本氏は今回の「Aras Innovator」をベースとしたシステム開発について、「Arasに当初期待したオープン性、開発容易性、低コストの3つにおいて、すべて期待通りの結果が得られた」と語った。また、開発効率をより向上できる余地があることも指摘し、「今後の改善に期待したい」と述べて講演を終えた。