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環境変化に即応するPLMを構築

川崎重工業

環境変化に即応するPLMを構築
グループ全体に向けたPaaSで実現

創業100年を超える総合エンジニアリングメーカーである川崎重工業。7つの特性の異なるカンパニーで構成する同社が、2014年にグループ全体で利用するPLMシステム基盤を構築した。ビジネス環境の変化に即応できる体制を築くことが大きな狙いだ。企画本部情報企画部の三島裕太郎氏が、新システムの全貌を解説した。

川崎重工業株式会社
企画本部 情報企画部
三島 裕太郎

 IT投資に積極的な同社は、これまでも業務の効率化・自動化に向けて段階的にシステム化を進めてきた。その結果、特定の業務用途に閉じたシステムが多数存在することに加えて、同様の業務に対してカンパニーごとに多種多様なパッケージソフトが稼働しているという状況だった。PLMシステムもカンパニーごとに異なるパッケージを採用していた。

ビジネス環境の変化に即応できる基盤を構築へ

 この体制には、大きく2つの課題が浮上していた。1つは、グループ全体としてシステム構築・保守・運用費用と外部流出費用が膨大になっていたことだ。カンパニーごとにパッケージが異なるため、同様な業務案件を実現する場合でも既存資産が流用できずに新たな開発費が発生するのだ。さらに、パッケージ単位で見ると技術者が少なく、外部開発ベンダーへの依存度が高いことも費用をかさ上げする要因となっていた。

 もう1つが、ビジネス環境の変化に対して、システムの対応が遅れがちになっていたこと。既存システムはブラックボックス化しており、改修に多くの期間と費用がかかるようになっていた。現在の中期経営計画や重点施策では、ビジネスのグローバル展開や新製品・新ビジネスの早期事業化を掲げているが、システムが足かせとなるようなケースも見受けられるようになってきた。

 これらの課題を解決するために、同社が打ち出したのが「PLMシステムの全社PaaS提供(Platform as a Service)」という発想である。具体的には、グループ全体で利用できるシステム基盤を構築し、サービスとして各カンパニーに提供していくという仕組みだ。

提供するサービスのビジネスモデルから検討

 システム基盤を構築するに当たって、まずは提供するサービスのビジネスモデルを検討した。「既存システムの中から機能要件を抽出するだけでなく、将来のビジネス要件に対しては“未来のシナリオ”の仮説から機能を抽出した」(三島氏)という。

 ここでのポイントは4つある。具体的には、
(1)個別要件に対応可能なPLMシステムをカンパニー・関係会社に迅速に提供することを価値とする、
(2)価値の実現に向けて、1次プロトタイピング期間を限りなくゼロに近づけるための共通テンプレートを開発し、継続的に機能強化を行う、
(3)価値の提供はコミュニティサイトを通じても行い、同サイト上ではグループを横断した開発資産共有や相互技術サポートを実現する、
(4)システム構築においてはシステム関連会社のベニックソリューション社と、カンパニー・関係会社のIT部門をパートナーと位置付け、徹底した内製化を実現する
――という4つだ。

●問題を解決するために「PLMシステムの全社PaaS」を構築
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 単に基本機能をシステム基盤で提供するだけでなく、早期にビジネスに適用できるようにするために、様々なテンプレートを用意することが大きな特長である。テンプレートに実装する機能要件289件のうち、約半数の139件は“未来のシナリオ”から抽出したものだ。

 新システムのインフラ環境は、ベニックソリューション社のホスティングサービスを利用。PLMシステムには、Aras Innovatorを採用した。同ソフトを採用した理由は、「グループで多用している開発言語でカスタマイズできる点と、オープンソースのためにブラックボックスになっていない点、初期ライセンス費用が不要でコストミニマムでスタート可能な点などを評価した」(三島氏)ためだ。

51~80%もの費用削減を実現したケースも

 新システムを通してサービスの提供を開始したのは2014年10月から。同年12月に、あるカンパニーが設計部品とCADデータの管理のために利用開始したのを皮切りに、導入するカンパニーと関連会社が増えつつある。

 大きな成果を上げているカンパニーもある。あるカンパニーでは、外部パートナー企業複数社の見積もりと比較して、51~80%もの費用を削減できたという。三島氏は「次世代のものづくり・ことづくりの基盤として展開していきたい」と抱負を語る。