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SiCデバイスの品質と歩留りの向上に貢献する、業界標準になるべきSiCウエハー欠陥検査/レビュー装置「SICA88」

レーザーテックは、SiCウエハーの表面と内部の欠陥を検出し、欠陥の種類を高い精度で分類できる装置「SiCウエハー欠陥検査/レビュー装置SICA88(以下、SICA88)」を発売した。SiCウエハーを供給するメーカーの品質管理や製品のランク付け、デバイスメーカーの生産技術開発やウエハーの受入検査などに欠かせない、業界標準となる可能性を秘めた検査装置である。2015年10月に開催されたSiCパワー半導体関連の国際学会「ICSCRM 2015」で製品発表し、「早くもローム株式会社などをお客様として、4社から受注しました」(レーザーテック 第1ソリューションセールス部 部長の関 寛和氏)という。

 エアコンや太陽光発電システムから鉄道まで、電源回路での電力変換効率の向上や小型化を狙って、SiCデバイスの実用化が始まった。今後は、電気自動車などへの搭載も確実であり、その搭載は航続距離の延長などクルマの価値向上に直結する。半導体業界にはSiCデバイスとSiCウエハーの品質を向上し、生産体制を増強することが急務になっている。

結晶欠陥と上手に付き合い生産

関 寛和氏
レーザーテック
第1ソリューションセールス部 部長

ただし、SiCデバイスの品質と生産量の向上は、それほど簡単ではない。ほとんど欠陥がないウエハーを使って製造するSiデバイスと異なり、現状のSiCデバイスは多くの欠陥を含むウエハーを使って製造していかなければならないからだ。結晶成長技術の進歩で、長年の課題だったマイクロパイプなどの低減にはメドがたった。しかし、デバイスの特性に悪影響を及ぼす「キャロット」や「トライアングル」などと呼ばれるさまざまな微小結晶欠陥が残っている。

 SiCデバイスに対する期待は大きく、既に応用が始まったショットキーバリア・ダイオード(SBD)やジャンクションFETに加え、これからはMOS FETやバイポーラ動作するデバイスの利用拡大が見込まれている。これらのデバイス構造では、欠陥がデバイスの特性や歩留まりに及ぼす影響が顕著になる傾向がある。

 デバイスメーカーにとっては、欠陥といかに上手に付き合っていくかが、SiCデバイスの品質と歩留まりを向上させる上での鍵になる。SiCウエハーはとても高価である。ウエハーに残る欠陥の種類を分別し、デバイスの特性や歩留まりへの影響を見極めながら、より多くの良品を作り出すことが、製造コストの低減、ひいてはSiCデバイスの応用の広がりに直結する。SICA88は、こうした要求に応えるために欠かせない検査装置である。

SiCにはSiとは別の検査装置が必要

 欠陥と上手に付き合っていくことを前提としてSiCデバイスを開発・製造するためには、欠陥がないことを前提としたSiデバイス用とは別の視点から作られた検査装置が必須になる。

 SiCウエハーの欠陥には、デバイスを動作不能にするものもあれば、影響を及ぼさないものもある。キャロットやトライアングルなどのようにウエハー表面に凹凸を伴うものもあれば、エピ膜内部の基底面内転移(BPD)や積層欠陥(SF)のようなウエハー内部にあるものもある。「SICA88でこうした欠陥を精査すると、これまで同じキャロットに分類してきた欠陥の中にも、実はさまざまな種類があることが分かってきました。そして、それぞれがデバイスの特性に及ぼす影響が異なっているのです」(関氏)という。欠陥の有無を検出するだけではなく、表面または内部それぞれにある欠陥の種類を、高精度で分別できる検査装置が必要になるのだ。

 デバイスを作る前にウエハーの特性に影響を及ぼす欠陥の存在やウエハー上での位置を把握できれば、デバイスの品質と歩留まりを、効果的かつ効率的に向上させることができる。不良を起こす欠陥と起こさない欠陥をデバイスの製造前に分別できる点が、SiCデバイスの開発・生産にもたらすSICA88の最大のメリットである。

 ウエハーの表面にある欠陥を分別する装置に関しては、既にレーザーテックが決定版と呼べる装置を実用化している。2009年に研究開発用の表面検査装置「SICA61」を、2011年には量産用の「SICA6X」を発売した。それぞれ、ウエハー表面のナノレベルの凸凹を高コントラストで可視化し、レーザーテック独自の欠陥検出アルゴリズムで表面の欠陥を分別・判定できる機能を持っている。そして、これらの装置を利用して、どのような欠陥がデバイスの特性にどのような影響を及ぼすのか、産業技術総合研究所に置かれた技術研究組合 次世代パワーエレクトロニクス研究開発機構(FUPET)と共同でデータを蓄積してきた。

 その成果はSiCデバイスの生産性向上に大いに貢献し、国内のウエハーメーカーやデバイスメーカーのほとんどが導入。海外でもCree社が複数台導入するなどSICAの活用が広がっている。今では、同じ目的で使われる検査装置の中で8割を超えるシェアを占め、SiCパワー半導体の国際学会「ICSCRM 2015」で発表された検査装置のデータを掲載した論文の全12件のうち、実に10件がSICAを使ったものだった。

表面と内部の欠陥を一度に検査

 今回発売したSICA88は、コンフォーカル微分干渉(DIC)光学系による表面検査と、フォトルミネッセンス(PL)検査を1台で実施できる検査装置である(図1)。従来は、専用の検査装置を別に用意する必要があった、ウエハー内部の欠陥を分別するためのPL検査も実行できる点が最も進化した点である。SFはSBDを初めとする様々なデバイスの特性を悪化させ、BPDはMOS FETやIGBTの動作に大きな影響を及ぼすため、これからその重要度が高まる。

図1 レーザーテックのSICA88を使ったSiCウエハーの検査例
左図は欠陥のマップと検出した欠陥を種類別に分類したヒストグラム、中図は表面検査で検出したウエハー表面の欠陥例、右図はPL検査で検出したウエハー内部の欠陥例
[画像のクリックで拡大表示]

 SiCウエハーに含まれる欠陥の数や種類は、ウエハーそれぞれの個体差が大きい。このため、SiCデバイスの製造現場では、高品質化と高歩留化を狙って、ウエハーを全数検査したいという要求が高まっている。表面欠陥の検査は、SICA6Xによって、全数検査ができるようになった、しかし、内部欠陥の検査には長い時間が掛かり、全数検査はほぼ不可能だった。既存の内部欠陥の検査には、PL法、X線回折、エッチピットを用いた方法などが使われ、150mmウエハー1枚をPL検査する場合、一晩かかっていたのだ。

 SICA88は、高感度の表面検査とBPDやSFの検査を同時に実行し、しかも150mmウエハーを1時間で10枚、1枚当たり約5分で終えることができる。レーザーテックが「手前味噌ですが、かなり画期的なスペック」と言うのもうなずけるほどの飛躍である。これまでPL検査を行う装置では、ウエハー領域をステップ・アンド・リピートの動作でスキャンしながら検査していた。SICA88では、光学系とTDIセンサーを開発して連続的にスキャンを可能にし、検査速度を高めた。

 表面検査についても、SICA6Xに比べてスループットを2倍に高めている。しかも画像のピクセルサイズはレーザー顕微鏡レベルの1.75μmと高く、欠陥を検出した後に顕微鏡で再観察する必要はない。

 検出した表面や内部の欠陥は、高精度で自動識別する機能(ADC)によって分別し、合否判定マップや表面のラフネスマップを作成して表示される。こうした迅速な検査を可能にしたSICA88の登場で、SiCウエハーの全数検査に道が開いた。

 デバイスメーカーごとに、デバイス構造やプロセスは大きく異なる。このため、特性に影響を及ぼす欠陥の種類とその影響の度合いは、メーカーごとに異なってくる。SICA88を活用して、自社のデバイス構造やプロセスで、どのような欠陥が不良の発生につながるのか、知見を蓄積していくことで、SiCデバイス事業の競争力も高まる。SICA88を活用し、いち早く、こうした知見を集積していくことに期待したい。

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