IoTの市場がいよいよ離陸する中で、メッシュトポロジーによる信頼性の高いコネクションと時刻同期による超低消費電力を特徴とする「ダスト・ネットワークス」の国内での採用が進み始めている。第一号となったのが薬剤や食品などを対象に温湿度管理サービスを提供するタイムマシーン社である。同社で代表取締役を務める水野善郎氏に話を訊いた。
小林:「切れない無線」という大きな特徴を備え、北米を中心にセンサーネットワークの決定版として採用が広がるダスト・ネットワークス(以下「ダスト」)も、ようやく日本での採用事例が増えてきました。本日は国内で採用第一号になるタイムマシーン社(東京都文京区)の水野社長にお話を伺います。まずはタイムマシーン社について簡単にご紹介ください。
水野:当社は医療系の子会社で、設立は2010年です。薬剤や食品などの温湿度管理とトレーサビリティを実現する「ACALA」シリーズや、調剤の作業工程を高精細画像で記録する「調レコ」などのソリューションを提供しています。社名には、過去の記録を時間を巻き戻して見ていくといろいろなことがわかって未来が予想ができる、という意味を込めています。
小林:今回、薬剤や食品の温湿度モニターサービス「ACALA MESH」(図1)と、トラックの定温コンテナ内の温湿度モニターサービス「ACALA MOBILE」(図2)にリニアのダストを採用していただいたわけですが、そもそもダストのことをどうやって知ったのですか?
水野:従来の温度管理モニターサービスである「ACALA PoE」ではPoE(Power over Ethernet)で温度センサーを接続しています。ところがワイヤードだと現場によっては工事ができない場合がある。たとえば食品工場で温度監視をしたいんだけども、ラインの都合で一日のうち3時間しか据付工事ができないとなると、工期が長くなってコストが嵩んでしまいます。そこで、そうした用途に最適なワイヤレスネットワークはないだろうかとスタッフみんなでインターネット検索をかけて見つけたのがダストだったんです。
小林:選定にあたってはダストの評価ボードも使いながらいろいろと評価・検討したと伺っていますが、他のワイヤレステクノロジーと比べてみていかがでしたか?
水野:やはり消費電力の小ささは魅力ですよね。Wi-Fiは消費電力が大きすぎて電池では長時間動作ができませんし、回路の発熱によって温度センサーの値に誤差が生じてしまいます。ZigBeeも省電力ですが、距離を稼ごうとすると中継ノードを設けて電源も供給してやらねばなりません。一方、ダストだとすべてのモート(ノード)が互いに中継ノードになってメッシュを構成しますから、倉庫や工場のような広いところとか鉄筋コンクリートで階をまたがるようなところでも安心して使える。褒めてばかりで、まるでダストのセールスマンみたいですけどね(笑い)。
小林:ダストは時刻同期という仕組みによってすべてのモートが同時に起動し、短時間に通信を行ったのち、すぐにスリープに入りますから、今、水野社長がおっしゃったように消費電力がきわめて小さいという特徴があります。また、メッシュトポロジーによって通信経路の冗長性が確保されますので、コネクションがとても堅牢で、当社では「切れないネットワーク」と言っているんです。
水野:それと周波数ホッピングですね。親会社では1990年代にIEEE 802.11の前身となるワイヤレスネットワーク機器を導入したことがあるんですが、当時の機器は今のWi-Fi(DSSS)とは違って周波数ホッピング(FHSS)の仕組みが入っていたためか、信頼性が高くて見通し距離で数百メートルは届いたんです。そんなことを20年前に一度経験しているんで、ダストに周波数ホッピングが実装されていると聞いて、それなら大丈夫だろうと。
小林:IT専門でない会社からはイメージしづらいのですが、ずいぶん先進的な取り組みをされてきたんですね。
水野:医療現場のIT化を見据えてシステム開発を以前から行ってきたこともあって、新しいテクノロジーはいいものであれば積極的に使っていこうという考えを持っています。ただし、うちはリーディング・エッジじゃなくてブリーディング・エッジ(bleeding=出血する)って冗談を言っているぐらいで、お金もずいぶん出ていきましたが(笑い)。
小林:次にビジネスについてお話を伺いますが、トラックの定温コンテナ内の温湿度情報をダストを使って収集する温湿度モニターサービス「ACALA MOBILE」(図2)を、福岡運輸がさっそく導入したそうですね。
水野:定温輸送のパイオニアである福岡運輸も新しいことに積極的に取り組んでいる会社で、1958年に冷凍コンテナを日本で最初に運行したことでも知られています。最近はコンテナ内を仕切って、冷凍温度帯と冷蔵温度帯と常温の3温度帯で運ぶことも多いそうで、ダストを使えば複数の温度センサーを簡単に設置できて通信の信頼性も高いといった特徴をご説明して、コンテナ内の温湿度監視に採用していただきました。
小林:センサーネットワークのODM(Original Design Manufacturing)も始められたとか。
水野:せっかく苦労して開発したシステムなので、センサーネットワークを使ったビジネスを展開したいと考えているお客様向けに、さまざまなセンサーユニットからクラウドまでを含めたソリューションとして提供しようと考えてODMを始めることにしました。小林さんは先ほどダストを「切れない無線」と形容されましたが、従来の「切れちゃう無線」でトラブルを経験された会社さんほど当社のソリューションに魅力を感じてくださるようです。
小林:センサーネットワークや「IoT」はさまざまな分野で新たなビジネスの種として注目されていますが、水野社長はどのように見ていらっしゃいますか?
水野:やはりセグメントが分かれると思っています。うちが得意とする分野は、医療、食品、農業、研究機関などですが、そのほか、高級なシガー(葉巻)やワインを適切に保存したいので温度を監視したいというニーズもあります。重要なモノを監視するという意味で、「Internet of Important Things」なんですよね。一方のローエンドであったりウェアラブルの分野はZigBeeとかBluetoothでも十分なんですよ。やはりインダストリアルレベルでの信頼性が求められるところにこそダストを使ったIoTが生きてくるんじゃないかと思っています。
小林:リニアテクノロジーでは、ダストの優れた技術を広めるためと、センサーネットワークにご興味をお持ちの会社さん相互の交流を深めるため、「ダスト・コンソーシアム」という緩やかな団体を結成して活動を始めています。今回のご採用で得た知見などをセミナーなどの場で還元していただければ嬉しく思います。
水野:ODMビジネスを始めたこともあって仲間作りがとても重要と感じていますので、できるだけご協力したいと思っています。ところで、そういった普及に向けた取り組みからもリニアテクノロジーって本当に真面目な会社だなって感じるんですよ。たとえば、ほかの半導体ベンダーでは部品のディスコン(生産終了)がそれほど珍しくはないのに、リニアは原則としてディスコンしないということを公式にアナウンスしていますよね。先日もダストの開発者にお会いしましたが、いいテクノロジーを作りたいんだと、値段じゃないんだと言っていましたし。
小林:ありがとうございます。ダストはようやく日本でも認知が進んできて、いろいろなアプリケーションに使われることを私どもも楽しみにしているのですが、いち早くダストを活用され、センサーネットワークソリューションのODM提供も始められたタイムマシーン社にはとても期待を寄せています。本日はありがとうございました。
(本社)
〒105-6891 東京都港区海岸1-16-1
ニューピア竹芝サウスタワー10F
(大阪営業所)
〒532-0003 大阪府大阪市淀川区宮原3-5-36
新大阪トラストタワー10F
(名古屋営業所)
〒451-6038 愛知県名古屋市西区牛島町6-1
名古屋ルーセントタワー38F