電源レギュレータ回路をシングルパッケージに封止したリニアテクノロジーの「μModule」がついに量産車のECUに採用された。電子化や電動化を背景に自動車に搭載されるECU(電子制御ユニット)の数は増加の一途を辿っているが、「μModule」を使うことでECUの電源回路部分の省スペース化が実現できるなど多くのメリットが評価されたためだ。「μModule」の特長と、「μModule」が自動車業界にもたらすメリットを紹介する。
クルマの電子化・電動化が加速していることは改めて述べるまでもないだろう。エンジンやトランスミッションの制御、さまざまな安全機能、あるいはインフォテイメント等の車内の快適性を実現するために、一部の上級車には80個から数100個以上ものECU(電子制御ユニット)が搭載されているともいわれている。
電子化が進むにつれて課題になってきたのがECUの搭載スペースである。道路の幅や駐車場のサイズなどの制約から車自体のサイズを簡単に大きくできない中で居住空間や荷室スペースの確保を優先しつつ、先進機能の増大に伴って増えるいくつものECUを搭載しなければならないことになる。そのため自動車業界においてはECUの小型化が絶対的な命題のひとつになっている。
また、最近は機構部分と電子制御回路(ECU)とを一体化する「機電一体」という動きも出てきている。一体化してしまえばECUを接続するワイヤーハーネスなどを省略できるからだ。当然ながら「機電一体」を実現するには、機構部分に組み込めるようにECUを小型にしなければならない。
「自動車メーカーからTier1などのサプライヤに対して、ECUの小型化圧力が加速的に高まっています」と、自動車業界とも多くの取り引き実績を持つリニアテクノロジーの畠山氏は述べる。「それも10%程度の小型化ではなく、30%や50%といった大幅な小型化が求められるようになり、これまで以上の劇的なダウンサイジングが必須な状況になっています」。
実際に国内のあるサプライヤは、自動車メーカーのダウンサイジングの要求に応えるべく、ECU基板サイズを一挙に1/3まで小型化するという目標を掲げ、数年前から取り組み進めてきた。
当然ながら、ECU基板に搭載される電源回路のソリューションサイズも1/3以下に小型化する必要があり、そのパートナーとして選ばれたのがリニアテクノロジーであった。リニアテクノロジーは従来から自動車業界向けに数多くのパワーマネージメントソリューションを提供してきた実績を持つほか、ダウンサイジングのニーズに応えて省スペース型のスィッチングレギュレータICも展開している(たとえば「クルマ用にこんな電源ICが欲しかった!あらゆるニーズを満たす降圧スイッチングレギュレータがリニアテクノロジーから登場」)。
「電源回路サイズを従来の1/3にするというお客様が掲げた困難な目標を達成するために、その実現に必要となる新たなパワーマネージメントデバイスをお客様と一緒になって検討してきました」(畠山氏)。
その過程で白羽の矢が立ったのがリニアテクノロジー独自の「μModule」(マイクロ・モジュール)である。
μModuleは、同社のレギュレータICを中心に、パワーMOSFET、インダクタ、入出力コンデンサなど、レギュレータ回路を構成するほとんどの部品をシングルパッケージに封止したパワーマネージメントデバイスだ(図1)。ごくわずかな外付け部品のみでレギュレータ回路を構成できるため、電源回路の大幅な小型化が実現できるとして、産業機器を中心に採用が進んでいる。もちろん自動車業界からも注目されていた。
今回リニアテクノロジーは、顧客であるサプライヤの要望を踏まえて、車載用途に最適なμModuleの新製品を「LTM8008」を開発した。6出力の電源回路のサイズを1/3以下に小型化できるのが特徴である。具体的には、一般のディスクリート部品で組むと90mm×90mm程度の面積を要していたが、6出力の「LTM8008」を使えばわずか30mm×30mm程度で済むようになった。
「お客様のご要望を盛り込んだ『LTM8008』によって、当初の目標どおりECU内部の電源回路を劇的に小型化することができました」と畠山氏は成果を訴求する。
「LTM8008」は、開発を共同で進めたサプライヤ、および国内自動車メーカーでの厳しい信頼性評価を経て、国内自動車メーカーの量産車のECUに搭載された。
μModuleはさまざまなメリットを自動車にもたらしてくれる。
まず電源回路の面積が小さくなるため、面積あたりのコストが高い多層基板を小さくできる。また、ECUの外装(金属筐体)も小さくできるため資源の削減と軽量化が図れる。こうした小型化は居住空間の拡大につながるほか、逆に車両を大型化することなくより多くのECUを搭載することもできるだろう。実際に「LTM8008」を採用したサプライヤおよび自動車メーカーともにこれらのメリットを高く評価しているという。
電源回路の信頼性も向上する。レギュレータ回路全体がシングルパッケージにモールドで封止されているため、ディスクリート部品で回路を組む場合に比べて故障率は大幅に低くなる。畠山氏は「リニアテクノロジーのμModuleの故障率の実績は、品種によっても異なりますが、おおむね1 FIT以下です」と優れた実績を紹介する。なお、1 FITとは、動作10億時間あたりに発生する故障回数が1回という意味だ。もちろん、モールドによる封止は高振動な環境条件でも有利である。
先ほど触れた「機電一体」にも適する。「LTM8008」は動作時の内部温度範囲が-40℃から+150℃と広いため(Hグレード)、適切な遮熱さえすればエンジンルームにも十分に配置できる。ECUを機構部分から離して設置する必要がないため、ワイヤーハーネスのコストや重量を削減できるほか、ECUを載置するレイアウトの自由度も上がる。
また、μModule単体で安定した動作が約束されているため、帰還ループや補償といったアナログ的な設計負担から開放されるのもメリットだろう。
このようにμModuleは、電子化・電動化が進む現在および将来の自動車の要件に最適といえる。
μModuleの具体的な製品を3品種ほど紹介しよう。
先ほどから取上げている「LTM8008」は6系統のリニアレギュレータを統合したμModuleだ(図3)。入力電圧は3Vから72Vと広いため、たとえばアイドリングストップ後の再始動時に発生する電圧低下(コールドクランク)も十分に吸収できる。出力は固定で、5V/500mA×1、5V/150mA×4、3.3V/300mA×1である。15mm×15mmのLGAパッケージで提供される。
「LTM8001」は5系統のリニアレギュレータを統合したμModuleだ(図4)。入力電圧範囲は6Vから36Vで、出力電圧範囲は1.2Vから24Vの範囲で設定できる。「自動車関連のお客様からの問い合わせがもっとも多い品種のひとつです」と畠山氏は述べる。
昇降圧(バック・ブースト)型のμModuleもラインナップが充実しており、例えば「LTM4607」(図5)は入力電圧範囲が4.5Vから36V、出力電圧範囲は0.8Vから24Vである。コールドクランクによる電圧低下が4.5Vまでの範囲のとき、たとえば既存のインフォテイメント回路の前段(プリ・レギュレータ)に使えば電源の連続供給が可能になり、音や映像が途切れる現象を防止できるだろう。
「μModuleの量産車への採用実績が生まれたことで、自動車分野のお客様にとっても手を伸ばしやすくなったのではないでしょうか」と畠山氏は訴求する。ECUの小型化は必然的な流れであり、今後も採用事例は増えていくと同社では見込んでいる。
なおリニアテクノロジーでは、顧客要件をμModule製品の開発に積極的に取り入れるという。既存製品が要求に合致しない場合でも、気軽に相談して欲しいとのことだ。
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