ADASや自動運転機能の進化に応えて、アナログ・デバイセズはクルマの周囲360°を高精度にセンシングする「Drive360TM」プラットフォームを発表した。業界に先駆けて28nmCMOSプロセスを採用した79GHz帯のレーダーソリューションを筆頭に、高精度なLiDARおよび慣性MEMSセンサーを通じて、安全性の向上に寄与していく。
ADASの進化や自動運転の実用化を進めていくには、人間の目となり神経となって、クルマの状態や周囲の状況を正しく認識することが不可欠になる。すなわち、センシング技術が鍵の一つを握るといってよい。
アナログ半導体で業界をリードするアナログ・デバイセズは、自動運転に必要なセンシングの進化を導く「Drive360」という新たなプラットフォームを2017年2月に発表した(図・左)。
「周囲360°を高精度に検知・把握するという意味を込めて名付けたプラットフォームです。具体的には、76GHzから81GHzをカバーするレーダーシステム、赤外線レーザーを使うLiDARシステム、そしてクルマの姿勢を把握する慣性MEMSセンサーモジュールを提供していきます」と、アナログ・デバイセズでオートモーティブ部門のディレクターを務める須藤徹氏は説明する。
Drive360の第一弾が、シングルチップで76GHzから81GHzをカバーするレーダープラットフォームである。
従来、この周波数帯のMMICにはSiGe(シリコン・ゲルマニウム)などのプロセスが使われることが多く、素子の性質上、低電圧化や低消費電力化が難しかった。また、例えば24GHz帯と77GHz帯とを組み合わせようとしても別々のMMICで構成せざるを得ず、ソリューションサイズの小型化も難しかった。
今回アナログ・デバイセズは、高性能なプロセッサーにも使われている28nm CMOSプロセスノードを業界に先駆けて採用。併せて、WRC-15(ITU 2015年世界無線通信会議)で使用が合意された77GHzから81GHz(いわゆる79GHz帯)を含む、76GHzから81GHzまで5GHzものスイープをワンチップで実現した。
すなわち、近距離から中距離の探知に適した79GHzレーダーと、遠距離の探知に適した77GHzレーダーとを、単一の回路で制御することが可能になった。
例えば、サイドクラッシュ検出や自動パーキングなどに有効な40m程度までの「ウルトラショートレンジ」は79GHzレーダーを使って実現。一般道での緊急ブレーキや自動運転などを実現する70m程度までの「ショートレンジ」や150m程度までの「ミッドレンジ」は77GHzから79GHzレーダーの中間の周波数を使用して構成。および、高速道路での自動運転などに必要な250m程度までの「ロングレンジ」は、遠方まで到達する77GHzレーダーを用いて実現する、といった使い方ができる(図・右)。
28nmCMOSレーダープラットフォームの仕様面での特徴は次の通りだ。
まず、障害物や歩行者などをできるだけ早く検知できるように、高出力化によって到達距離を確保した。また、レーダーの性能を左右する位相雑音をクラス最高レベルにまで高めた。その結果、子供や小さな物体などをより確実に検知することができるようになったという。さらに28nm CMOSレーダープラットフォームはカスケード接続が可能となっており、多チャンネル構成のアプリケーションや、高い角度分解能が得られる多アンテナ構成のアプリケーションにも対応できる。ドップラー性能の向上も図られており、対象物の相対速度(速度分解能)を高精度に把握できる。
「5GHzという幅広いスイープ範囲とこれらの高性能化により、およそ200m先までを3cm程度のグリッドで検知できると考えています」と須藤氏は訴求する。現在実用化されているレーダーシステムに比べて3倍程度の分解能を実現できる見通しだ。
28nm CMOSレーダープラットフォームのもう一つの大きな特徴がデジタル回路の統合だ。前述の通り28nm CMOSプロセスを採用したことでデジタル回路の混載が可能となり、認識エンジン、セキュリティエンジン(2016年8月に買収したSypris Electronics社のサイバーセキュリティ部門の技術を活用)、外部高速インタフェースなどのほか、顧客が持つ独自IPを組み込むこともできる。消費電力も低い。
「ミリ波のアナログ回路と高速なデジタル回路とを同居させるのは技術的には決して簡単ではありませんが、アナログとデジタルとをパーティショニングする当社ならではのノウハウを盛り込みながら実現しています」と須藤氏は説明する。
また、28nm CMOSレーダープラットフォームを中心としたレーダーシステムの電源(DC/DCコンバーター)には、2017年3月に一体となった旧リニアテクノロジーの「Silent Switcher」(サイレント・スイッチャ)を推奨していく考えだ。スイッチング動作で生じる電磁界を局所的なループに閉じ込めるなどの工夫でEMIを大幅に抑えたSilent Switcherは、CISPRクラス5を大きく下回る低ノイズが特徴である。そのため、電源レールがよりクリーンになり、レーダー回路全体のS/N性能の向上などが期待できる。
須藤氏は「28nm CMOSレーダープラットフォームは単体のICとしてではなくシステムソリューションとして提供していく予定ですが、すでにいくつかの自動車メーカー(OEM)やサプライヤーと2020年モデル向けに商談を進めています」と今後の見通しを示す。
Drive360を構成するレーダーの概要は以上だが、LiDARについては2016年11月にVescent Photonics社から買収した固体レーザー・ビーム・ステアリング技術を活用したソリューションの開発を進めているところだ。
また、慣性MEMSセンサーについては、2016年に発表したジャイロ・コンボセンサー「ADXC150x」の性能をさらに上回るセンサーデバイスの開発を進めており、1°/hrという業界トップクラスの低ドリフト性能を備えたソリューションを提供していく。
こうしたセンシングテクノロジーおよびプラットフォームは、交通事故による死傷者の削減や自動運転の実用化を進めるうえで、今後さらに重要となってくることは確実だ。実際に緊急ブレーキ機能の義務化や標準装備化は、日本、EU、アメリカのそれぞれで進められていて、たとえばアメリカ市場では、2022年以降に販売されるすべての新車に緊急ブレーキが標準装備されることで業界が合意している。
アナログ・デバイセズは、自動車の周囲360°をカバーするセンシングテクノロジーにおいても、自動車の進化をリードしていく。
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