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【日本ガイシ】工業用乾燥炉、60年ぶりの“再発明” 生産工程を革新する「波長制御乾燥システム」--事例編

「波長制御乾燥システム」その開発と導入の支援  

 波長制御乾燥システムは、乾燥対象や導入する製造工程に合わせて、最適な構成の乾燥炉をカスタム設計し、導入する。

検討から導入まで一貫支援

 日本ガイシでは、テストから検証機および量産機の開発まで、お客様をトータルで支援する体制を整えている(図4)。導入したい乾燥炉の開発目標の設定から、試験機での目標達成可否の検証、テスト機の導入や既設炉の改造によるお客様の実ラインでの実証、量産機の導入まで、一貫したサポート体制を提供する。また、乾燥炉だけではなく、ロールツーロールの塗布・乾燥システムを巻出機、塗工機、巻取機を乾燥機と合わせて、最適な効果が得られる構成で提供することができる。

 カスタム開発を円滑に進めるため、日本ガイシでは、さまざまな利用シーンを想定した試験機を常備したラボを開設している。枚葉サイズのワークで熱風乾燥との違いを手軽に評価できるバッチ式乾燥炉、減圧(100Pa)やN2雰囲気下で試料セットから加熱処理、試料取り出し、密封までを大気暴露せずに実施できる真空バッチ炉、1~20μmの薄膜から数100μmの厚膜までを塗工可能な小型ロールツーロール炉、連続塗布乾燥の評価に向けた連続塗工ロールツーロール炉など、特殊なワークへの適用や既存のラインの中で利用した場合に合わせた評価ができる装置を用意している。

 またラボでは、お客様の評価用資料を試験した結果を反映させて、最適なヒーターの配列、搬送速度など炉の設計条件を決めるための解析ができるシミュレーターも用意している。このツールでは、ふく射環境下での本格的な乾燥現象の解析が可能である。日本ガイシでは、独自の定式化に基づき、原理原則に迫るべく検討を続けている。

図4 波長制御乾燥システムの導入手順
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「波長制御乾燥システム」3つの導入効果 厚膜乾燥

 厚い塗膜を乾燥させる場合、従来の乾燥炉では、塗布膜の表面が高温熱風に晒されるため、先に乾燥してしまっていた。そして、そこが保護膜のように働いて内部の乾燥を妨げたり、蒸発できず内部に気泡を生じてしまっていた。

 波長制御乾燥システムならば、溶媒が吸収しやすい波長帯である近赤外線を膜の内部まで透過するため、表面の膜張りや発泡を避けながら、深さ方向で均一に乾燥させることができる。これによって、従来炉で100μm厚以下でしか乾燥できなかった塗布膜が、300μm厚のものまで乾燥できるようになる。これまで従来炉で同じ厚さの塗布膜を乾燥するためには、塗布と乾燥を3回繰り返す必要があった。こうした複雑な工程が単純化することによって、生産プロセスを短縮することができる。厚みと奥行方向での品質も向上する。

 また、これまで押出し成形やホットメルトで製造していた厚膜製品を塗布乾燥で製膜できるようにもなる。溶媒量が多い厚膜品の乾燥も可能なため、溶解させる有効成分の含有量を増加できる効果もある。

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低温乾燥

 これまでの乾燥炉では、対象物に広い波長帯の赤外線を照射し、熱風を流して、炉内の温度を高温に保っていた。このため、含有成分や樹脂基材への熱ダメージが避けられなかった。水分の乾燥では塗布膜の温度を70~80℃に上げる必要があり、基材に使われるPETフィルムが約70℃で軟化していた。また医薬品の生産では、40℃以上で薬効成分が破壊される場合があった。

 波長制御乾燥システムでは、約40℃と常温に近い温度で乾燥させることができる。炉内に流す風も、蒸発した溶媒を排出するための冷風で十分だ。このため、乾燥時の温度の制約で使えなかった成分や素材を製品に使用できるようになる。これは、製品価値の向上に直結する。特に熱に弱い材料を使っているチップ積層セラミックコンデンサ(MLCC)など電子部品の生産や有機ELパネルの生産工程などで効果を発揮する。また、低温乾燥ができることで、発火しやすい溶剤を含んだ製品も安全に乾燥できるようになる。

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内部脱水

 リチウムイオン二次電池、有機ELパネル、ウエアラブルセンサーなどの実現手段として期待されている有機物の導電体や半導体を用いるプリンタブル・エレクトロニクスなどの生産プロセスでは、金属の薄膜を蒸着させる工程の前に、基材からキッチリと水分を脱水しなければならない。水分が、特性を悪化させたり、完成後のデバイスの寿命を短くしてしまうからだ。しかし、これまでの乾燥炉では、基材内部の水分を抜くことが極めて難しかった。

 乾燥炉内部を減圧して水分を抜く方法もあるが、タクトタイムが長くなり、高価な真空装置が必要になる問題があった。また、ロールツーロールの連続工程での乾燥も、真空装置が介在すると実現できない。

 波長制御乾燥システムならば、常圧でも、近赤外線を基材の内部まで透過させることで、ppmオーダーの十分な脱水が可能になる。タクトタイムも短縮し、連続工程での乾燥もできる。真空装置が不要になることで、生産性能向上、低コスト化など極めて大きな効果をもたらす。

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 私たちは、日頃生活の中で目にすることだけで、ものごとを判断しがちだ。極大の現象を説明する相対性理論や、極小の現象を表現する量子力学。こうした科学や工学に革命をもたらした発見も、実際に起こっている現象であるにもかかわらず、およそ現実味を感じない。乾燥現象だってそうだ。濡れた洗濯物を乾かすには、暖かい日光にさらさなければならない。乾けば、当然衣類もホカホカになる。これは、生まれてから大人になるまでの生活の中で刷り込まれてきた体験だ。

 「目指しているのは、周囲にダメージを一切与えず、狙った溶媒だけを取り去る乾燥技術です」。日本ガイシが目指したのは、未体験の乾燥現象の実現だった。でも、そんな現象を生活の中で目にしたことはない。そこに新しい価値が生み出される可能性を見出したのはすごいことだ。

 これまであまたのプロセスエンジニアは、日頃目にする乾燥現象の枠の中で、高品質の製品を高効率で作り出す方法を探ってきた。溶媒は、生産プロセスの中では必要不可欠だが、製品が出来上がった後には邪魔者でしかない。波長制御乾燥システムが引き起こす乾燥現象は、生産プロセスを考える上で都合の良いことこの上ない。新しい生産プロセスの特許が、この装置の利用を前提に生まれることだろう。この装置がないと生産できない製品が生まれる可能性すらある。

 日本ガイシの志は高い。乾燥に伴うミクロな現象を自在に操る技術を取得しようと目論んでいる。今あるのは、波長が3.5μm未満の近赤外線だけを放出するヒーターだが、別の溶剤の乾燥を想定して5μmや7μmの遠赤外線を選択的に放出するヒーターも発売間近という。これは目が離せない。

伊藤 元昭
1989年、富士通に入社。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者、副編集長、日経BP半導体リサーチ 編集長として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆。三菱商事と日経BP合弁のコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパルとして、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2014年独立し、株式会社エンライトを設立。
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