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未来を拓く夢を、日本企業に描いて欲しい、キッカケはSEMICON Japan 2015で用意する

IoTやビッグデータ、クラウド。こうした言葉を冠して、金融、医療、農業、建設といったさまざまな業種で、人々の生活と社会活動の姿を変えるサービスやビジネスが提案されるようになった。こうした産業界全体の動きの中で、半導体業界、ひいては日本企業にも新しい事業機会が生まれていくことになるだろう。SEMICON Japan 2015は、来るべき新時代に何をしていくべきかを考える上で、とても貴重な場となる。今起きていることを知り、熱気を肌で感じることができる。現在の日本の半導体産業を取り巻く状況と、その中でのSEMICON Japan 2015が果たすべき役割を、SEMICON Japan 推進委員会 委員長を努めるディスコ 代表取締役の関家一馬氏に聞いた。

──現在の半導体産業を取り巻く状況をお聞かせください。

関家 一馬 氏
ディスコ 代表取締役社長

関家氏 足下の市況だけで見れば、急成長はしなかったが、可もなく不可もなくといった状況です。欧米で大きなM&Aが相次ぎ、半導体メーカーの数は減少しますが、今後の半導体市場の成長については疑う余地がありません。自動車や医療など、半導体デバイスの利用が急拡大している市場があるからです。例え半導体メーカーが絞り込まれても、1社当たりの装置の導入台数や材料の消費量が増え、装置や材料の市場は確実に大きくなります。5年後10年後には、現在見えていないドライブ要因も生まれることでしょう。

 一方、技術開発の面から見れば、装置・材料に対する半導体メーカーの要求はますます厳しくなり、乗り越えるべき技術のハードルが高まっています。特に日本の装置・材料メーカーは、海外メーカーの懐に深く入って、要求を的確に捉えることが一層重要になっています。

半導体メーカーの生き方が多様に

──半導体産業が今、チャレンジすべきことは何でしょうか。

関家氏 かつての半導体業界は、DRAMの大容量化を実現するための微細加工技術の進歩といった、業界全体で取り組むべき共通の技術開発目標がありました。ムーアの法則に沿って半導体デバイスを進化させていくために、デバイス・装置・材料の各メーカーが何をすべきか、はっきりと見えていたのです。

 しかし、現在の半導体業界は、半導体メーカーそれぞれが扱うデバイスの種類や応用、技術的な強みが多様化し、業界全体が一丸となって問題解決に当たる状況ではなくなりました。まだまだ微細加工技術を進歩させようとするメーカーもあれば、200mmウエハーに対応した“レガシーファブ”を活用してニーズに合ったチップを製造しようとするメーカーもあるわけです。ひとつの成長市場に多くのメーカーが群がる時代ではなく、それぞれのメーカーが独自の色を見せていく時代になりました。これは、好ましい方向に向かっているのだと考えています。多様性の中から、半導体業界を引っ張っていく技術の将来の機軸が生まれてくると考えるからです。

 装置メーカーや材料メーカーは、多様な要求に応えていくため、技術の引き出しを増やすことが重要になりました。これは困難が伴うチャレンジではありますが、一方で革新的な独自技術を提案できれば、その価値を認めてもらえる機会が増えたと、ポジティブに捉えることもできます。ビッグユーザーの要求に応えるために、同じような装置で複数社が競合する状態は、技術トレンドに沿っている安心感はありますが、価格競争に陥り易い状態でもあります。そういった意味では、これからは、装置や材料のメーカーそれぞれの技術戦略がとても重要になります。

──世界の半導体産業の中での国内企業の状況をどう見ていますか。

関家氏 世界の活況を横目に寂しい状態です。現時点でも、車載半導体のように、世界の中で国内のデバイスメーカーが強い競争力を持った分野があります。こうした市場が拡大基調にあることは、国内メーカーにとって追い風です。ですが、残念ながら国内メーカーの数が減っています。一方、装置や材料の分野では、海外のメーカーと協力できる体制と体力を持った国内メーカーが多く、依然として国際競争力を維持できています。ただし、国内デバイスメーカーが減少したことで、技術開発がやりにくくなっているのは確かです。

 こうした状況を打開するためには、日本企業は、改めて自社内でのものづくりにこだわることが重要になると考えています。じっくりと現場力を養い、独自の技術やノウハウを蓄積していくことで、世界の中で重要なポジションを維持できます。短期的な経営を考えれば、派遣社員や外注を多用すれば利益が出し易いかもしれません。しかし、長期的には技術力は弱体化し、競争力を維持できません。建築業界では、外注を多用するゼネコンであっても、新入社員は必ずサブコンと共に現場に出向き、現場を知る習慣があると聞きます。デバイスメーカーであっても、装置・材料メーカーであっても顧客の現場を熟知できるよう努力すべきだと思います。

日本企業が夢を描く素地は足下にある

──半導体産業の状況とその中での国内メーカーの状況を鑑みて、SEMICON Japan 2015をどのような場にしたいとお考えでしょうか。

関家氏 IoTや車載向けの半導体市場の拡大は、日本の半導体業界にとっては追い風です。SEMICON Japan 2015では、この点に気付き、半導体事業をもう一度成長事業として取り組む企業や人たちが増えてくればと願っています。

 装置と材料の分野では、日本に有力企業が集中しています。半導体メーカーから見れば、世界の先頭を走るサプライヤーが周りにいるわけです。この地の利を生かさない手はないと思います。母国語でサプライヤーとコミュニケーションしながら、最先端の装置や材料の優れた性能と機能を、デバイスの価値創造に転化させることができるのですから、海外メーカーよりも圧倒的に有利なはずです。先ほどお話したように、現在の装置や材料のメーカーでは、多様な技術を提供していくことが重要になっています。海外の巨大な半導体ユーザーのみ利用できる技術だけが、最先端技術ではないのです。SEMICON Japan2015では、日本の優れた装置・材料の技術を使って、新市場を拓き、成長市場を獲得する、夢を描いていただきたいのです。

──例えば、どのような最先端の装置・材料技術が今の国内デバイスメーカーに向いているのでしょうか。

関家氏 0.5インチのウエハーを用いて、最先端工場の1000分の1の投資額で半導体製造ラインを構築する「ミニマルファブ」が代表例ですね。産業技術総合研究所の原史朗氏が、Apple社のスティーブ・ジョブズ氏のような指導力を発揮して出来上がった究極の多品種少量生産に向けた製造システムです。ウエハーの大口径化にまい進する半導体業界の中で、このような斬新な発想の製造システムが、日本の技術だけを集めて短期間で出来上がったことは、日本の底力を示す誇るべきことです。ミニマルファブ自体が夢を具現化した技術であると言えます。

 IoT時代に必要とされる半導体デバイスは、データセンターで使うプロセッサーやメモリーのような大口径ウエハーの上に微細化を極めた技術で作るものばかりではありません。データを吸い上げるためのセンサーなどには、扱うデータの種類や置く場所に合わせて、多種多様なデバイスが必要になります。ここで、多品種少量生産に向く、ミニマルファブの特長が生きます。

 また、半導体は開発に資金が掛かりすぎて、いつの間にかベンチャー企業が扱えない技術になってしまいました。ミニマルファブならば、ベンチャー企業が発想した革新的なデバイスを、安価に試作できます。ネット経由で設計データを送れば1週間後にはサンプルが送られてくる、といったビジネスモデルが出来上がれば、日本にベンチャー企業を育てる上での強力な武器になることでしょう。多品種少量生産の最先端の形であり、日本の半導体産業が再生する鍵を握っている技術であると思います。SEMICON Japan 2015で、ぜひ見ていって欲しい技術のうちの一つです。

──革新を生み出す素地が足下にあるというのはすごいことです。

関家氏 これまでは、中国のように人件費が安い地域に、ものづくりの拠点が世界中から集中してきました。これが最近では、現地の人件費が高騰し、逆に世界中の各地域へと、ものづくりの拠点が分散していく傾向が見られるようになりました。こうした中、日本のものづくりの拠点は、高品質なものを作り上げる美点が生かして、一定のポジションを確保していくことでしょう。これから日本企業が日本の中で作っていく世界をリードする製品につながるアイデアにつながる種を、SEMICON Japan 2015で提供できればと考えています。

Profile
関家 一馬(せきや かずま)氏
1989年ディスコ入社、1992年 PS事業部長付 Xプロジェクトリーダー、1994年 PS事業部 技術開発部長、1995年 取締役就任、2002年 常務取締役 PSカンパニーバイスプレジデント兼同 技術開発部長、2009年 代表取締役社長 兼 技術開発本部長(現)