日経テクノロジーonline SPECIAL

3Dプリンタがロボットを作る時代がやって来る~DDMがもらたした「10」の変化~

急拡大が続く3Dプリンティングの市場。その市場拡大は果たしてこの後も持続するのか。ロボット工学の研究者で3Dプリンティングにも造詣の深い米Columbia大学のHod Lipson教授は、3DプリンティングによるDDM(Direct Digital Manufacturing)が広まった理由を分析するとともに、DDMが今後どのような分野で適用されるか、長期的な観点で見通した。Lipson氏によると、部品だけでなく素材や複合的なシステムをDDMで作る時代が訪れるという。

米Columbia大学 Hod Lipson教授

 3Dプリンティング自体は、決して新しい技術ではない。既に30年前には3Dプリンティングの手法は確立していたからだ。しかし「30年間会社の倉庫に眠った状態で、知っているのは研究者ぐらいだった」とLipson氏は言う。

 普及の最初のきっかけになったのは、2005年前後に始まった3Dプリンティング技術のオープン化。さらに2009年には、「MakerBot」の3Dプリンタが登場し、低価格化も進んだことで認知度が高まった。コンシューマ向けの3Dプリンタの出荷台数が産業向けを初めて上回ったのは2011年だが、2014年にはコンシューマ向けが産業向けの14倍に達するなど、指数関数的に市場が拡大しているという。

 Lipson氏はこの2~3年の市場拡大の背景に、素材、スケール、用途それぞれの拡大があると指摘した。素材の面では、以前は限られた樹脂しか使えず、強度や機能性の側面からもプロトタイプへの利用が主だった。しかし現在はULTEMなど強度に優れた素材も使えるようになり、最終製品に適用可能になった。スケールの面では、以前は1メートル前後のワークしか作ることができなかったが、今はミクロン単位の小さいものから建築物のような大きなものまで制作可能になっている。

 用途の面では、骨や臓器など体の部位や食品のカスタムメイドへの適用が始まっている。インプラントを3Dプリンティングで作るほか、3Dプリンティングで作った脊椎による動物実験も始まっているという。また教育分野も新たな用途の一つで、教育の中でものづくりを可能にすることで、ものづくりに関心を持たせることができる。

 伝統的な機械を3Dプリンティングで複製することも可能だ。歴史的な産業遺産のため容易に手に取ることができないような機械でも、3Dプリンティングでレプリカを作ることで、その機械を誰でも体験できるようになるという。

歴史的に貴重な機械も3Dプリンティングでレプリカを作ることで容易に手に取れる
[画像のクリックで拡大表示]

「イノベーションの民主化が進む」

 Lipson氏は、3DプリンティングによるDDMがものづくりにもたらした変化を、10の点に整理して示した。1つめは「複雑さからの解放」だ。作る際の労力は、形状が簡単なものでも複雑なものでも変わらない。「円を描くのもモナリザを描くのも同じ」(Lipson氏)というわけだ。

 2つめは「多様性への対応」だ。インプラントのようにユーザ一人ひとりが求める形状が違うようなものは、従来のものづくりで作るのはコスト的に非現実的なものにならざるをえない。しかし3Dのデータさえあれば1個単位で制作できるDDMならば可能であり、「新しい機会が広がる」(Lipson氏)。

 3つめは「アセンブリ不要」な点だ。部品を組み立てて作るのではなく、最終的な完成形を直接作ることができるのはDDMの特徴の一つであり、それにより労働コストや保守コストを低減できる。あるメーカは燃料インジェクタをDDMで製造することで、20個の部品の組み合わせ作業を不要にしたという。溶接などが不要になったことで、完成品の性能も高まったとしている。

 4つめは「リードタイム削減」だ。組み立て作業などが不要になるため、完成までのリードタイムは短くなる。「リードタイムがゼロに近づけば近づくほど、イノベーションが起きやすくなるだろう」(Lipson氏)。5つめは「制約からの解放」。アイデアがあっても実現するのにコストがかかりすぎるようなものでも、DDMならばその心配はない。

 6つめは「スキル不要」という点。デザインさえできれば誰でもものづくりが可能になるため、「イノベーションの民主化が進む」(Lipson氏)という。7つめは「ポータブル」な点であり、製造に必要なデータをやり取りすることでサプライチェーンに変化が起きるとする。

 8つめは「ムダの削減」だ。素材を必要な分だけ使用して製造するため、切削などで素材をムダにすることがない。特に素材に金属を使用する場合はその効果は大きいという。9つめは「素材の混合」が可能なことで、ユニークな素材によるものづくりができるようになる。

 最後の10個めのポイントは「再現性」だ。再現したい対象物を3Dスキャンすることでデータ化すれば、それを3Dプリンタで出力することで同じものを容易に作ることができる。デジタルのコンテンツが劣化を伴うことなく複製できるのと同じようなことが、ものづくりでも可能になるというわけだ。

「電報の受信機をDDMで作った」

 こうした点を踏まえて、Lipson氏は今後のDDMが進む方向を長期的な観点で予測した。Lipson氏によると、DDMの発展の方向は3つのステージに分けられるという。最初のステージは「どんな形でもプリントできる」点であり、現在はこのステージの終盤にあたるとする。このステージでは、製造にまつわる制約はなくなったものの、製造に必要なデータをデザインする部分では変わりない。「デザインと製造の間にギャップがあり、デザインするための創造力を高めていかなくてはならない」とLipson氏は協調する。

 その次にくる2つめのステージは、「材料そのものをプリントする」段階だ。基礎的な素材で繊維や毛皮、布やジッパーのような材料を、DDMで作る時代がやってくるとLipson氏は予想する。多様な素材を複雑に組み合わせることも3Dプリンタならば容易なため、新しい材料の可能性が広がるとしている。

DDMで素材を編んだ布を作る
[画像のクリックで拡大表示]

 材料をプリントする時代の次に到来するとLipson氏が指摘する3つめのステージは、「動くもの、感じるものをプリントする」段階だ。ワイヤやバッテリなどのアクティブな素材や組み込みエレクトロニクスもプリントするようになり、それらを組み合わせた複合的なシステムもDDMで製造できるようになるとする。その方向性を検証するため、Lipson氏は試しに電報の受信機を3Dプリンティングで作ってみたという。「ワイヤもマグネットもスピーカーも全部3Dプリンティングで作ったのだが、ちゃんと受信できた」(Lipson氏)。

 Lipson氏は「ロボットをDDMで作るのが個人的な目標」に掲げているという。「3Dプリンタで作ったロボットが、自らプリンタの中から登場するような時代が来ると考えている」とし、3DプリンティングによるDDMが無限の可能性を秘めていることを強調した。

お問い合わせ
  • ストラタシス・ジャパン
    ストラタシス・ジャパン

    〒104-0033 東京都中央区 新川2-26-3
    住友不動産茅場町ビル2号館8階

    TEL:03-5542-0042

    FAX:03-5566-6360

    URL:http://www.stratasys.co.jp/