日経テクノロジーonline SPECIAL

第4回 アンドリュー・ストーム氏 インタビュー

製造業の中でも特に高い精度や品質が要求される自動車分野。DDM(Direct Digital Manufacturing)の適用が難しいように思える分野だが、実は3Dプリンターのユーザを業界別に分類すると、2番目に多いのが自動車分野である。なぜ自動車分野でDDMが採用されるようになったのか、DDMで作られたクルマは何を可能にするのかなどについて、米Stratasysで自動車などミッションクリティカル分野を担当するAndrew Storm氏に聞いた。

――精度や品質が第一の自動車分野で、3Dプリンティングが既に珍しくなくなっているのは少し意外な感じがします。DDMのどのような点が自動車業界に評価されているのでしょうか。

自動車業界における最新動向をエネルギッシュに語るStorm氏

Storm氏 自動車関連メーカが3Dプリンティングを取り入れている目的は、大きく分けて3つあります。一つは「Learning」、設計の試行錯誤を速いサイクルで繰り返してノウハウを蓄積していくことです。自動車関連メーカの技術者は、設計の過程でアイデアを実際のかたちにしてみて、外観や質感などを確認しながら製品を作り込んでいきます。その試行錯誤の繰り返しでクルマの完成度は上がっていきますが、確認のための試作に相当な時間がかかります。数週間から1カ月ぐらいかかるのが普通です。

 しかし3Dプリンターを使えば、試作はわずか数時間で終わってしまいます。それだけ試行錯誤のスピードが上がり、最適なデザインを短期間で追求することが可能になるのです。

 また、部品点数を大幅に削減できることにも理由があります。60~70種類の部品を作って組み合わせるような試作品でも、DDMでは10~20種類で済んでしまうことも少なくありません、3Dプリンターは複雑な形状の製品を容易に作ることが可能なためです。

 二つめは「Tooling」、これは試作の枠超え、DDMとして治具や工具への適用に有効という認識が広まっている点です。欧州のある自動車メーカは、製造現場で使う治具の納期に50~60日を要していたのを、FDM(熱溶解積層)により納期の70%短縮化を実現しました。同時にコストも半減しています。北米の自動車OEMメーカは、FDMでコスト60%減を果たしています。

 切削加工に使用するアルミなどの素材に比べて、DDMで使う樹脂素材の方が安価なこともその理由の一つです。しかも切削加工では削り出す部分も含めて素材を必要としますが、アディティブマニュファクチャリングに基づくDDMでは、必要な部分だけを造形するため、素材をムダにすることがありません。切削加工中は機械にオペレータが立ち会う必要がありますが、DDMは装置の無人運転が可能な点もコスト削減要素と言えます。

――確かにDDMはコストや納期には効きそうですね。

Storm氏 それだけでなくDDMで作った治具は、使いやすさも提供します。第一に重さが違います。アルミなどの金属に比べて、DDMで使う樹脂の重さはだいたい3分の2です。さらに、複雑な形状を作ることができるDDMでは、治具を使う作業者にぴったり合った形状を実現できます。

 例えばある部品を取り付ける治具を開発する際、作業者が握る部分を指の形状に合わせて作るようなことが可能です。マシニングセンタによる切削加工では、どうしても直線中心の形状にならざるをえません。作業者が長時間握ると手が痛くなってしまい、疲れやすくなります。しかし3Dプリンターならば作業者が握りやすい治具を容易に作ることができ、それによる作業効率アップも期待できます。作業改善のために治具の形状を後から変更することも容易です。

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――DDMが自動車業界に取り入れられるようになった理由の三つめは何でしょうか。

Storm氏 「Research & Developing」、研究開発です。クルマの基本骨格を設計して鉄やアルミの部材で試作する際、溶接などの作業も含めて22週間ほどを要すると言われています。異なる車種の間でプラットフォームが共通化されている時代は、これぐらいかかっても研究開発業務はこなしていけるかもしれません。しかし現在はユーザのニーズが細分化される傾向にあります。クルマを自分の好みに合わせてカスタマイズしたいというユーザの声に応えるには、さまざまな部材を選択肢として用意しなくてはなりません。そうすると当然のことながらリードタイムは長くなってしまいます。DDMを研究開発のための試作に取り入れることで、バリエーションを増やしてあらゆるユーザ層のニーズに応えることが可能になります。

 研究開発という点では、今のクルマの開発で大きなテーマである「環境」にも、DDMは効果をもたらします。重い金属の部品を樹脂に置き換えることで、車体の軽量化をはかることができるからです。

 北米では、2025年までに1ガロンあたり54マイルという燃費を達成することが、自動車メーカに求められています。2009年にスタートした規制ですが、2016年時点でもその達成率は30%にも満たないと予測されています。燃費規制のクリアは容易ではありません。

 燃費改善に有効な方法の一つが車体の軽量化ですが、DDMは樹脂の使用によりこれを推進します。当社の3Dプリンターでは、ULTEMのような強度に特に優れたハイパーエンプラも使えます。

――一方で3Dプリンターは、精度を不安視する向きもあります。精度が特に重視されるクルマ作りの世界で、本当に実用が可能なのでしょうか。

ULAは、広範な極限的温度環境にも耐えられるULTEM 9085を選択した。
画像提供: ULA
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Storm氏 当社の3Dプリンターは、自動車同様に高い精度が求められる航空宇宙分野でも利用されています。当社は2015年4月、ロケット製造を手がける米United Launch Allianceとのパートナーシップを発表しました。ロケットでそのまま使えるコンポーネントを、当社の3Dプリンターで製造するというものです。例えばロケットブースタに窒素を供給するダクトの製造では、FDMで製造するために設計変更を行った結果、部品点数を従来の140点から16点に大幅に削減。コストも57%低減することが可能になりました。

 航空宇宙の分野含め、当社はミッションクリティカルな分野でも実績を積み重ねてきました。3Dプリンター自体の精度もプラスマイナス0.019mmレベルにまで高まっており、自動車業界が求める高精度のものづくりにも応えられると考えております。

――日本の自動車業界にはどのようなアプローチをしていく方針ですか。

Storm氏 私はマサチューセッツ工科大学で、トヨタ生産方式の研究で実績を持つSteven Spear氏に師事しました。私自身も米GMでクルマづくりに長年携わった経験があります。トヨタ生産方式を広めているSpear氏とともに日本の自動車業界をまわり、DDMの有効性を説明していきたいと思っています。

 日本の自動車関連メーカは常に新しい製造法を模索しており、そのためにベンダにも広く門戸を開いてくれています。当社もその流れの中に加わり、DDMでクルマづくりがどう変わるかを提案していきたいと考えております。

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