日経テクノロジーonline SPECIAL

リニアテクノロジー

顧客の課題に寄り添い解決策を提供、アナログ技術をリードし進化と共に歩む
Yasushi Mochizuki

パソコンがまさに登場した1981年に、これから発展していくであろうデジタル技術を生かすには電源やセンシングなどを支える高性能なアナログ技術が一層重要になるとの考えの下、高性能なアナログ半導体の開発を目指してシリコンバレーに創業したリニアテクノロジー。この会社では、卓越したアナログ技術者のことを「アナログ・グル」と呼んでいる。今回は、3人のアナログ・グルを招いて、同社の強みやこれからの取り組みについて日本法人代表取締役の望月靖志氏が聞いた。

望月 今日は、リニアテクノロジー社内で「アナログ・グル」(グル=導師・第一人者)と呼ばれている3人から話を伺います。最初にそれぞれの自己紹介をお願いします。

ドブキン リニアテクノロジーの創業者の一人で、現在はCTO(最高技術責任者)を務めるロバート・ドブキンです。

ペトケビッチ 電源製品関連の副社長兼ゼネラルマネージャを務めるスティーブ・ペトケビッチです。

レイ ロバート・レイです。ミックスド・シグナル事業の副社長兼ゼネラルマネージャを務めています。

顧客の課題を設計者が直接把握

望月 まずドブキンさんに伺います。リニアテクノロジーを創業した1981年は、最初のパソコンが登場するなど、いわばデジタル時代の夜明けとも言える年でした。そのような時に、なぜリニアテクノロジーを創業してアナログ半導体を手掛けようと考えたのですか。

ドブキン 当時、デジタルの大きな波がやってきていることはもちろん認識していました。アナログはデジタルに押されて、いずれは消えてしまうだろうと揶揄(やゆ)する人もいました。しかし電源回路に代表されるように、アナログ技術がなければあらゆるデジタルシステムは動作することすらできません。アナログのマーケットは確実に存在するわけです。

Steve Pietkiewicz
スティーブ・ペトケビッチ氏
米Linear Technology
副社長 兼 パワー製品担当
ゼネラルマネージャ

 そこで、アナログ半導体の会社を新たに始めようと決めたわけです。普及品ではなくて、他の半導体ベンダーが追従できないような高性能なハイエンド市場を狙うことで、当時私と一緒に旧ナショナル セミコンダクター社でアナログ半導体の製造を担当し、現在はリニアテクノロジーのエグゼクティブ・チェアマンを務めているロバート・スワンソン、数々のオペアンプを設計したことでも知られる故ロバート・ワイドラーと共に、リニアテクノロジーを創業しました。

望月 創業から現在まで34年の間にどのような変化がありましたか。また、なぜ大きな成長を遂げることができたとお考えですか。

ドブキン リニアテクノロジーは創業以来大きな成長を遂げてきました。しかし、決してなにかマジックがあったわけではありません。お客様のあらゆる課題に対して、誰もが思いつかない方法で解決策を提供してきたからだと考えています。リニアテクノロジーは常にお客様の課題を聞き、何を開発すべきかを学び、そしてお客様をサポートしてきました。創業当初も今も、リニアテクノロジーでしか実現できない製品を提供している点では、何ら変わりはありません。

望月 お客様のニーズや課題を常に聞いて、優れた製品を開発してきたわけですね。

ペトケビッチ その通りです。リニアテクノロジーの設計エンジニアや設計マネージャは、いつもお客様を回っています。リニアテクノロジーでは、お客様の話を伺うことが、エンジニアにとって重要な仕事のひとつだからです。とはいえお客様が新製品の仕様書を書いてくれるわけではありません。お客様の課題を元に、画期的な解決方法を考え実装するのは当社のエンジニアの役割です。そうした仕事の進め方は昔も今も変わっていません。

レイ 他の半導体ベンダーでは、マーケティング担当者が顧客を回っては、「どんなICが必要ですか?」とニーズを聞き、スペックを決めるやり方が当たり前になっています。一方で当社はエンジニアがお客様と直接会話します。このため、表面的なニーズからでは見えてこない、お客様が抱えている課題の本質を探ることができます。その結果、出来上がってきた製品には大きな付加価値が生まれます。つまり、お客様の期待を上回る、より優れた製品を実現できるわけです。

電源回路ノイズを従来の1/10に

望月 次に製品について伺います。リニアテクノロジーは2013年に「Silent Switcher」(サイレント・スイッチャ)というアーキテクチャーを採用した「LT8614」というスイッチングレギュレータIC を開発しました。パワー製品の開発責任者であるペトケビッチさん、LT8614はどのような経緯から生まれたのですか。

Robert Reay
ロバート・レイ氏
米Linear Technology
副社長 兼 ミックスド・シグナル製品担当
ゼネラルマネージャ

ペトケビッチ スイッチングレギュレータは電源回路の一種で、その名のとおりスイッチング動作を利用して入力電圧を所望の出力電圧へと変換します。エネルギーの変換効率が優れているという長所がある一方で、スイッチング動作の過程で不要な電磁ノイズ(EMIノイズ)が、どうしても発生してしまう欠点もあります。他の回路に影響を与えることがあり、システム設計を担当するエンジニアにとっては頭痛の種になっていました。

 お客様からスイッチングレギュレータ回路のEMIノイズを何とか抑えて欲しいというご要望があり、そうした課題を解決しようとリニアテクノロジーが開発したのが、EMIノイズを従来のおよそ1/10に低減する画期的な「Silent Switcher」アーキテクチャーです。少し技術的な話になりますが、「ホット・ループ」と呼ぶ、EMIノイズの発生原因となる電流ループをICの左右に対称に形成して、両者の間で磁界の向きを打ち消し合うようにしたのがポイントです。

望月 このアーキテクチャーは特許にもなっているそうですが、磁界を打ち消しあうというアイデアはどうやって発想したのですか。

ペトケビッチ エンジニアのひらめきですね。「Silent Switcher」は設計チームの打ち合わせ中に生まれました。アイデアをラボでテストしてみたところ、EMIノイズが1/10以下に小さくなることが確認できたのです。

ドブキン エンジニアは、いつも何かを考えているものです。ベッドに入った時や、クルマを運転している時にふと思いつくのです。そうしたアイデアをみんなで共有し、アイデアの本質を理解して、よりよい仕組みへと具体化していきます。

望月 次はレイさんに伺います。リニアテクノロジーは2014年8月に、温度センシングに必要な回路をワンチップに集積したマルチセンサー対応の高精度デジタル温度測定IC「LTC2983」を発売しました。精度0.1℃、分解能0.001℃という高い性能を実現したこともあって、業界誌の賞も受賞しています。この製品を開発した背景を教えてください。

レイ 温度情報は私たちの生活や社会活動にとても重要です。ところが、これまでは、温度を正確にセンシングしようとすると多くの部品を組み合わせなければならず、しかも熱電対や白金抵抗など温度センサーの種類ごとにセンサーから読み取ったデータを処理するソフトウエアも必要でした。そこでリニアテクノロジーでは、センシング回路に加えて、センサーのタイプを問わずに正確な温度情報に変換するソフトと、ソフトを実行するマイクロプロセッサーとを集積したLTC2983を開発したのです。

 要は、アナログ技術、デジタル技術、そしてソフト技術のすべてが詰まった製品といえます。

課題解決にデジタル技術も活用

望月 リニアテクノロジーはアナログ技術で知られていますが、先ほどのLTC2983はマイクロプロセッサーやソフトも統合されたフルソリューションのICと言えます。今後はデジタルを統合したこうした製品も増えていくのでしょうか。

ドブキン 増えていくとは思いますが、デジタルはあくまでも手段のひとつにしかすぎません。アナログだけでは問題が解決できないときに、必要に応じてデジタルを使っていきます。

レイ LTC2983ほどの高機能なデジタル回路やソフトウエアを統合するようになったのはここ数年のことですが、私がリニアテクノロジーに入社した28年前から一部のアナログICには小規模ながらデジタル回路も入っていました。ですからリニアテクノロジーにとって、デジタル技術は決して新しい取り組みではないのです。

望月 ペトケビッチさん、電源ICにもデジタルは取り込まれていくのでしょうか。

ペトケビッチ 既に入り始めています。数年前から提供しているソーラーパネル用のパワーマネージャーおよびバッテリチャージャーICが一例で、内蔵のマイクロコントローラーを使って、ソーラーパネルから取り出す電力を最大化する「MPPT」(最大電力点追従)という制御を行っています。

望月 デジタルに取り組むには人材も必要です。

レイ お客様から見たICの価値や性能を決めるのはあくまでもアナログ部分ですから、優秀なアナログエンジニアの存在こそがリニアテクノロジーにとって重要です。

 とはいえ、私のチームにはデジタル回路やソフトのエンジニアも在籍しています。彼らは当社のアナログエンジニアと並ぶ優秀さを持ち、例えばLTC2983の開発では、極めて高精度な温度測定の実現という難しい課題に対応してきました。なお、一般的なデジタルやソフトの機能は、ほとんどがIPとして外部から調達できますから、すべてを社内で抱える必要はありません。あくまでもリニアテクノロジーならではの優れた人材の育成にこれからも努めていきます。

まだまだ進化するアナログ技術

望月 さて、今後の展望についてお尋ねします。まずドブキンさん、アナログ技術を今後進化させる要因はなんだとお考えですか。

Robert C.Dobkin
ロバート・ドブキン氏
米Linear Technology
CTO 兼エンジニアリング担当副社長

ドブキン アナログ技術は、さらなる性能や機能を求めようとする飽くなきニーズと、その実現に必要な新しいテクノロジーの登場とが相まって進化を遂げてきました。まさにリニアテクノロジーは34年間にわたって、そうした進化に取り組んできたといえます。そして、10年前には想像もしなかったアプリケーションが実現されています。

 一方で、デジタルの世界もプロセスの微細化をはじめとして進化を遂げています。しかし、それらは必ずしもアナログの世界に恩恵を与えてくれるわけではありません。なぜなら、たとえばリニアテクノロジーが手掛けている電源ICが扱う電圧や電流はデジタルの世界に比べて大きいため、微細化は適さないからです。ただし、ADコンバーターなどの分野では、コストとの兼ね合いもありますが、微細化によって性能が向上する可能性があります。

 いずれにせよ、必要に応じてさまざまなテクノロジーを取り入れながら、これからもアナログは進化していくでしょう。

望月 最近はIoTや自動運転などのキーワードが頻繁に聞かれます。そうしたアプリケーションもアナログ技術の進化に一役買うと思いますか。

レイ アナログ技術はクルマから宇宙船、スマートフォンまであらゆるところで使われています。つまり、ひとつのアプリケーションだけがアナログ技術を進化させるということはありません。あらゆるテクノロジーが進化していくことで、アナログもまた進化していくのだと思います。10年後を予測することは簡単ではありませんが、私たちを取り巻く実際のアナログ世界とインターフェースするという意味でも、10年後にもアナログが存在していることは間違いありません。

望月 電源ICの今後の技術的な課題はいかがでしょうか。

ペトケビッチ お客様は製品や装置の小型化や開発期間の短縮といった課題を常に抱えています。一方で、お客様にとって本来の業務ではない電源回路の設計については、残念ながら技術力が少しずつ低下しているように感じます。

 したがってリニアテクノロジーは、回路サイズがよりコンパクトで、お客様にとって設計がより簡単で、EMIノイズがより小さい電源ICを提供していかなければなりません。

 技術的には決して簡単ではありませんが、まさにリニアテクノロジーが創業以来目指してきた方向であり、現在は従来に比べて多くの機能を統合できるようになっています。必ずやお客様の課題を高いレベルで解決できると考えています。

望月 質問は変わりますが、半導体業界では大型の企業買収が噂を含めて話題になっています。こうした動きをどう捉えていますか。

ペトケビッチ 確かにいろいろなニュースが業界を賑わしていますね。ただ、それらの半導体ベンダーとは市場で既に競合しているわけですから、買収や合併があったとしても当社の事業に今以上の影響が及ぶとは考えていません。2社が1社になったら製品数が増えてシナジーが生まれるかというと、決してそうともいえないと思います。

日本の技術力と強みを生かす

望月 リニアテクノロジーの文化や技術開発の取り組みを扱った「誰もやめない会社」(片瀬京子・蓮田宏樹著)という本が2012年11月に日経BP社から刊行され、一時は企業経営カテゴリーで5位にまでランキングされたことがあります。シリコンバレーでは複数の企業を渡り歩いたり、自ら起業するエンジニアも少なくありませんが、リニアテクノロジーではそうした話はあまり聞きません。

ドブキン みんなリニアテクノロジーで働くことが楽しいんですよ。待遇も悪くなく、職場の雰囲気もよく、社内政治もありません。競合製品よりも何倍も性能が高く、お客様が欲しいと思ってくれるであろう優れた製品を開発することができるのですから。

レイ お金だけが人生ではありませんしね。3年ごとに会社を移っている社外の友人もいますが、浮き沈みのあるキャリアを過ごすよりは、私個人は素晴らしい部下たちとリニアテクノロジーで働く方を選びます。どのエンジニアもお客様の課題に自由な発想で取り組むことにとてもやりがいを感じています。誰も辞めないのは、そんなところに理由があるのではないでしょうか。

望月 最後に日本のお客様に向けて一言ずついただけますか。

レイ 世界中のお客様を訪問する中で、日本のエンジニアの皆さんの優秀さや技術力の高さをいつも感じています。自動車や産業用ロボットなど日本の製品は世界のトップを走り続けています。日本にしかできない新しい製品や技術に、これからも期待しています。

ペトケビッチ 日本は大好きな国のひとつで、既に40回ぐらいは訪れているでしょうか。リニアテクノロジーには優れた製品を生み出し長期間にわたって供給するという文化がありますが、これは日本人の持つ責任感にとてもよく合っていると感じています。なお、私の開発チームにいつも言っているのですが、さまざまな壁にぶつかるとしても、優れた製品を生み出すには、ハードルを高く設定することが重要です。日本のお客様にもぜひお伝えしたいと思います。

ドブキン 日本企業は組織力に優れていますが、そろそろ変革を考えてみてはいかがでしょう。リニアテクノロジーがやっているように、優れたエンジニアを結集し、営業やマーケティングではなくエンジニア自らがお客様と接し最終製品を考えていくことが重要ではないでしょうか。

 エンジニアが働きやすい環境を整え、一人ひとりに責任を与えることで、エンジニアには誇りが生まれてきます。日本の大きな企業でもそうした取り組みはきっとうまくいくのではないかと思います。

望月 リニアテクノロジーが誇る「アナログ・グル」の3人から貴重なお話を伺うことができました。日本においても、リニアテクノロジーが持つ優れた技術力と製品のご紹介を通して、お客様の課題解決に取り組んでいきます。

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