日経テクノロジーonline SPECIAL

アナログ・デバイセズ

IoTや5Gの時代で求められる技術革新は、顧客とサプライヤーのビジョン共有から
Osamu Mawatari

IoTや5G無線通信が、社会活動や人々の生活に大きなインパクトを与える時代が到来しようとしている。さまざまな場所から大量のデータを確実に伝送するシステムの開発には、より高度な半導体と計測器が欠かせない。センサーや無線通信でのキーデバイスの提供を通じてシステム開発に貢献するアナログ・デバイセズ代表取締役社長の馬渡修氏と、計測器の提供で貢献するアンリツ代表取締役社長の橋本裕一氏が、IoTや5Gの時代での両社の取り組みを議論した。

馬渡 アンリツさんは2015年で創業120周年を迎えられたそうですね。おめでとうございます。情報通信技術や計測技術分野のまさに老舗といえるかと思います。

橋本 ありがとうございます。当社は1895年に設立した合資会社の「石杉社(せきさんしゃ)」を祖としているのですが、くしくもこの1895年は、イタリアのグリエルモ・マルコーニという当時21歳だった技術者が無線通信に成功した記念すべき年でした。当社もそのような時代から出発して、スマートフォンの元祖といえる世界初の実用無線電話機「TYK式無線電話機」を製作するなど、120年にわたり、通信全般で先進の取り組みを行ってきたと考えています。今ではLTEやLTEAdvancedに対応した開発向け計測ソリューションにおいて、当社調べで、世界市場の中でおよそ50%ものシェアを獲得するまでになりました。120年は人間でいうと2回目の還暦に相当します。次の60年、3回目の還暦を迎えられる企業になるためにも、最先端の情報通信分野で常に世の中に貢献をしていく、というアンリツの使命をあらためて決意する節目と感じています。

馬渡 私たちアナログ・デバイセズは1965年の創業で、2015年で創業50周年を迎えました。アンリツさんに比べれば歴史は短いのですが、創業者で現会長のレイ・ステータが唱える「サステナブル・グロース(持続的な成長)」をもたらすであろうアナログ技術に注力して技術を蓄積。アナログとデジタルの懸け橋となって、イノベーティブなテクノロジーで業界をリードするため、トップクラスの性能や機能を誇るA/DコンバータやD/Aコンバータ、アンプや高周波部品などを開発・供給してきました。10月末締めのワールドワイドでの2015年度の売上高が、前年比20%アップしたように、現在も成長し続けています。

橋本 アナログ・デバイセズさんの高性能な部品は、計測器をはじめとする当社の製品に今や欠かせないものとなっています。変化の激しい半導体業界で50年にもわたってトップのポジションを維持されてきたことは、本当に素晴らしいと思います。

馬渡 こちらこそ当社の製品を活用していただきありがたく思っています。半導体業界全体でさまざまな動きがあった中で、一貫してアナログという技術に特化して、こだわり続けてきました。同時に、そこを中心として周辺の技術を広げてきた50年間だったと思います。今では、センサーから信号処理、さらにクラウドにも広がりつつあります。ところで120年を超えた先では、どのような取り組みをされていく予定でしょうか。

橋本 まずは2020年に向けて目指す企業像「2020VISION」を策定し、その中で「グローバル・マーケットリーダーになる」および「事業創発で新事業を創造する」という目標を掲げました。そしてこの活動の旗印となるのが「envision:ensure」という新たなブランドステートメントであり、「お客様と将来にわたってビジョンや夢を共有するパートナーシップづくりを行い、ともにその実現に向けて進んでいく」という思いを込めています。

 実はその前のブランドステートメントは「Discover What's Possible」でした。ただ、探すという意味の「Discover」には、受動的なニュアンスを感じました。今回は、もっと能動的なメッセージに変えました。そうしたらアナログ・デバイセズさんが「AHEAD OF WHAT'S POSSIBLE」を打ち出してこられた。そうか、この手があったかと思いました。

馬渡 そのようにおっしゃっていただけると、うれしいです。アナログ・デバイセズでは、50周年を機に「AHEADOF WHAT'S POSSIBLE」というスローガンを掲げました。日本では「想像を超える可能性を」と言い換えています。世界をリードするアナログ信号処理技術によって、お客様と夢と方向性を共有しながら、イノベーションを加速し、ブレークスルーを生む新たなソリューションを切り開いていこう、という思いを込めています。お客様に対するメッセージであると同時に、社員に対するメッセージでもあります。「お客様を成功に導く熱意があること、イノベーティブであること、優れた想像力を持ってやること、起業家マインドを忘れないこと」を心に抱きながら、このスローガンの下、想像を超える可能性を生み出す製品開発に、取り組んでいきたいと考えています。

IoTや5Gの時代を好機と捉える

橋本 裕一氏
アンリツ
代表取締役社長 グループCEO

馬渡 アナログ・デバイセズは2万品種を超える製品を世界中のお客様に供給しています。なかでも重要な役割が「アナログとデジタルの懸け橋となる」ことだと考えています。実世界のアナログ情報を、コンピューターやクラウドでの処理に適したデジタル情報に正確に変換するためのセンシングやプロセッシングに関連したさまざまなソリューションを取りそろえています。

 特に今注目しているのが、さまざまなセンサーからデータを収集し、クラウドで処理を行って、新たな価値を生み出そうという「IoT」です。センサーが捉えた微弱なアナログ信号をデジタルに変換する「ラスト1インチ」の性能が、後段の解析や分析の精度を左右します。その部分での私たちの役割が、より重要になると考えています。

 また、センサーのデータをクラウドに上げるところも重要です。プロセッシングやコネクティビティのソリューションを生かした「センサーTOクラウド」のシグナルチェーンについても、重点的に取り組んでいます。

橋本 アンリツの社内では、IoTなどのこれからの社会づくりに向けて、カスタマーエクスペリエンスの向上を大きなテーマとして掲げています。通信環境が良くてコネクションが切れにくいという基本がしっかりしていないと、その上で付加価値やサービスを提供することができません。こうした課題は、IoTだけではなくて、早ければ2020年にも実用化されると見込まれている5Gでも同様です。高い通信品質の上で、どのような情報が流れて、最終的に私たちの社会や生活にどう使われていくかをきちんと思い描きながら、計測ソリューションとしてアンリツに何ができるかを考える必要があります。

 例えば、自動運転車や遠隔医療などでは、「安全に走る車」「高度な医療」の提供が求められると思います。この領域は、単につながった・つながっていないを問う世界ではありません。人の生活に潤いを与える、生活の質を向上させるテーマに取り組んでいくことが重要になってくると捉えています。いずれにしてもIoTや5Gで市場の裾野が広がることは、当社にとってもアナログ・デバイセズさんにとっても好機だと思いますね。

馬渡 今、橋本社長からも挙がった5Gというキーワードに関連しますが、アナログ・デバイセズは2014年7月に、米ヒッタイト・マイクロウェーブ社を買収しました。これまで当社は高速のコンバータ製品やアンプ製品を数多くそろえてきました。今回のヒッタイト社の買収によって、将来の5Gで利用されると見込まれるミリ波帯をカバーするさまざまな製品が、ラインアップに加わりました。これによって、DCから100GHzクラスまでのシグナルチェーンを、すべて当社製品で構成できるようになったのです。アンリツさんを含めて、5Gに取り組もうとしているお客様に対して、さらに高い価値を提供できるようになりました。

橋本 ヒッタイト社を買収してラインアップが全方位になったことは、御社のさらなる強みですね。5Gは、従来の2Gや3Gのような独立した規格とは違って、4GであるLTE およびLTEAdvancedの上に新技術を加えていくものであり、まさに「Long TermEvolution」の言葉通り、LTEやLTEAdvancedに続くロングタームなビジネスとして捉える必要があります。その意味でもアナログ・デバイセズさんと、これからの社会づくりを担うテーマでお話しできるようになったことはとても大きいと思います。

馬渡 ますます周波数が高くなり、帯域が広くなっていく中で、信号処理の精度の向上、ノイズの低減、さらに消費電力の削減といった難しい技術開発を同時に進め、それらを高いレベルで実現していかなければなりません。仮に消費電力が大きければ、それだけでアプリケーションが限定されてしまいますから、5G 時代にはさらに責任が重くなるなと。

有機的なコラボレーションを推進

橋本 2015年5月に、弊社のグローバル本社棟が完成しました。主に計測事業の研究開発部門とマーケティング部門が入っていますが、パートナー企業の皆さんとの連携をより密にしたいとの考えから「コラボレーションルーム」というセキュリティーの高いエリアを新たに設けました。アナログ・デバイセズさんの担当者の方々にも利用していただいております。

馬渡 コラボレーションルームには、当社のエンジニアと営業担当が、定期的に滞在させていただいています。アンリツさんのエンジニアの皆さんとフェース・ツー・フェースで、タイムリーにコミュニケーションできる機会が増え、当社としても大変有意義に感じています。私と橋本社長とのトップレベルの情報交換はもちろんのこと、実務レベルでもコミュニケーションを密にすることで、アンリツさんの製品のロードマップ策定に、私たちから提供する情報を役立てていただけるのではと期待しております。当社としても、お客様の真のニーズにじかに接することができる貴重な場です。同じ問題意識を持ったお客様とビジョンを共有できれば、担当者のモチベーションも向上します。アンリツさんとは、イノベーションに向けて、強力なコラボレーションが実現できています。

図 アンリツのラジオ コミュニケーション アナライザ「MT8821C」
[画像のクリックで拡大表示]

橋本 製品モデルにもよりますが、アナログ・デバイセズさんの高性能なA/Dコンバータなどを、数多く採用しています。部品レベルの技術的課題に直面する場面などでは、御社のエンジニアにフォローしていただいております。一方で、部品を組み合わせたり、モジュールとして構成したり、計測システムとして組み上げるところでは、当社のノウハウを生かしています。馬渡 おっしゃるようにお互いの強みや役割を明確にして、ロードマップやビジョンを共有しつつ、5Gなどの次のターゲットに向けてさらにコラボレーションを進めることが大切ですね。

 一方で当社は、アンリツさんのお客様やパートナー企業、その他の業界のお客様とお話をする機会もたくさんあります。今までとは、プレーヤーの顔ぶれが、少し変わってきています。以前であれば、通信分野ならば大手のキャリアさんや通信機器メーカーとだけ話していれば済みました。ところが最近は、自動車業界やロボット業界など、IoTや5Gでサービスをしようという企業とのお付き合いも広がってきています。そうやってさまざまな分野からニーズを吸収し、そうした企業の競争力を高められるように製品企画を擦り合わせて、次の製品開発に反映していきたいと思っています。

ビジョンを共有し価値を生み出す

馬渡 2016年を迎えるに当たって、アンリツさんが長年にわたって培ってきた技術をIoTや5Gの時代に生かせるように、当社としてもできる限りご要望にお応えしていきたいと考えております。例えば、ほかの分野と共通した課題を抱えたときなど、幅広いラインアップをそろえている当社ならではの価値や解決策を提供できるのではないかと思っています。また、先ほど出たコラボレーションルームでの活動に加えて、ハイレベルでのエンジニアによる情報交換の機会を設けるなど、より活発なコミュニケーションも続けていければと願っています。

橋本 アンリツとしてもアナログ・デバイセズさんとビジョンを共有し具現化するという、まさに「envision:ensure」な関係を続けていけたら幸いです。

 また、2016年は、IoTが流行語ではなくて、実際のサービスとして定着していく元年になると見ています。当社もアナログ・デバイセズさんと取り組むべきテーマがますます増えてきます。ぜひお互いに形あるものを生み出していきましょう。

馬渡 当社は2016年もいろいろな製品を展開していきます。アンリツさんの新製品や取り組みも楽しみにしています。

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  • アナログ・デバイセズ株式会社
    アナログ・デバイセズ株式会社

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