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dSPACE Japan

クルマは電子化により各機能の連携が容易になったことで、燃費改善や安全性向上などが進んでいる。しかし、機能を連携させようとすると、開発段階での機能の検証が複雑化し、開発負担が増大してしまう。「モデルベース開発」はそうした複雑な制御の検証に有効なツールだ。そのツールの代表的ベンダーであるdSPACEの宮野隆社長に、クルマづくりの場で導入が広がるモデルベース開発の最前線を聞いた。

――社長就任後、最初の新年を迎えることになりました。まずはこれまでを振り返っていただけますか。

宮野 モデルベース開発のメインユーザーである自動車業界は活況で、積極的な開発投資が続いています。モデルベース開発についても、パイロット的なプロジェクトでの導入からプロジェクト全体に展開しようとする動きが強まっており、おかげさまで当社の事業も順調に拡大した2015年でした。

 モデルベース開発の導入が広がる背景にあるのは、クルマの電子化の流れです。ハイブリッド車(HEV)や燃料電池車、ここ数年では先進運転支援システム(ADAS)の広がりが、モデルベース開発の必要性を再認識させています。

――そもそもなぜ、HEVやADASなどエレクトロニクスが関係したクルマの開発に、モデルベース開発が有効なのでしょうか。

宮野 エレクトロニクスがクルマの制御を担うためには、複数の電子制御ユニット(ECU)が協調しなければならず、その設計・検証には膨大な工数がかかります。従来はこれを改善するためにシミュレーションを導入し、検証したうえで紙の仕様書を作成し、その仕様書を基にECUに実装していました。この方法では、紙とデジタルの間を何度も行き来しなくてはなりません。あらゆる対象物やシーンごとにこうした繁雑な作業が必要になります。

 モデルベース開発は、紙の仕様書とデジタルのシミュレーション環境を統合します。シミュレーションができる仕様書、つまり「動く仕様書」を作ることができるのです。さらに当社のモデルベース開発ツールでは、その仕様書代わりのモデルから直接C言語のコードを自動生成することが可能で、コーディングの際のヒューマンエラーを防止できる利点もあります。シミュレーションで使用した資産を、コーディングなど後工程に生かすことで、開発効率やソフトウエアの品質を高めることが可能になります。

 また自動車業界は海外展開を進めるために、AUTOSARやISO26262などの国際標準に非常に敏感になっています。機能安全のISO26262では、要求仕様とそれを満たしていることを示した試験結果のトレーサビリティーが求められます。しかし従来の開発では、要求仕様と試験結果は別のファイルで管理されており、リンクさせることができません。モデルベース開発なら、要求仕様から試験、その結果を結びつけることができるのです。

力技ではもはや検証できない時代

――特にADASは周囲の環境に合わせて複雑な制御が必要なので、モデルベース開発の効果は大きそうですね。

宮野 欧米で導入されていた自動車の安全性評価制度「NCAP」が予防安全性アセスメントを含むようになっています。日本でも2014年末から導入されたことで、ADASに対する自動車業界の注目度が一層高まりました。現在のNCAPはクルマとクルマ(走行中、停止中)の衝突回避を評価しますが、欧州では2016年からクルマと人、あるいは自転車などの障害物の衝突回避もNCAPの対象になります。クルマや障害物と違って、人はレーダーの情報だけでは向きを判定しにくいうえに、動きも予想がつきません。カメラの場合、天候による見え方の違いもあり、テストすべきシーンがさらに増えるのは確実です。もはや実機を使って力技で検証するのは不可能で、モデルベース開発の必要性がさらに増すでしょう。

 次世代のクルマのテーマである自動運転も、モデルベース開発なしには実現し得ないものです。あるメーカーの方は、前方の走行車を追うクルーズコントロールに対し、高速道路における完全自動運転の機能開発でも、テストケースは100万倍増えると語っていました。実機で到底完結できるものではありません。

――自動車分野でのモデルベース開発の重要性はもはや疑いの余地はないようですが、あえて普及の課題を挙げるとすれば何でしょうか。

宮野 認知度向上はまだまだ必要と考えています。学会や展示会などを通じた普及活動に継続して取り組んでいきます。また業界固有の用語が多く、分かりにくいという指摘もいただいているので、その解消も課題と考えております。

 MATLAB/Simulink以外のシミュレーションツールへの対応も必要です。自動車業界では制御システム開発にMATLAB/Simulinkが標準的に使われていますが、他にも分野ごとにさまざまなツールがあります。各種シミュレーターとの共通インタフェースであるFMI(Functional Mock-up Interface)を介したモデルベース開発を推進し、用途拡大を図っていきます。

 FPGAへの対応も進めます。ECU(電子制御ユニット)の前処理としてFPGAを使うケースが増えているためです。開発したモデルから直接FPGAへと実装できる環境を整備しています。

――それら課題も含めて、改めて2016年に向けた重点目標を教えてください。

宮野 やはり1つはADASの開発支援の強化です。テストケースが爆発的に増えるADASの開発で、どのような要素技術が必要かを突き詰めて、当社のツール群に反映させていきます。

 もう1つは、モデルベース開発そのものの効率化です。当社のツールのラインアップ拡充により、モデルベース開発のフロー全体をカバーできるようになりました(図)。今後は、そのツール群を意識したテストケースづくりの支援などに取り組んでいきます。

図 自動運転により検証プロセスが変化する
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 自動車以外への適用も目標の1つです。既に建機や農機では実績が出始めています。これらは仕向地や使用目的によってハードの組み合わせが変わるため、バリアントが多いことが、モデルベース開発が支持される背景にあります。今後はロボットや鉄道などの分野にも提案を拡大し、モデルベース開発の効果を広めていきたいと考えています。

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