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IIoTで爆発的に増えるアナログデータ エッジコンピューティングが有効活用の道を拓く

工業製品の開発/生産やプラント、インフラにおける「IoT(Internet of Things)」。いわゆる「インダストリアルIoT(IIoT)」に注目が集まっている。IIoTを実践する上での課題は、センサーによるリアルな世界から収集する大量のアナログデータ、すなわち「Big Analog Data」を有効活用できる環境の整備である。ナショナルインスツルメンツ(NI社)は、テスト・計測・組込システム用のツールを提供する会社としての豊富な知見を元に、Big Analog Dataの利用を支援する合理的かつ効率的な環境をいち早く提供している。

岡田 一成 氏
日本ナショナルインスツルメンツ株式会社 マーケティング部 シニアテクニカルマーケティングマネージャ

 工業製品の開発現場では、センサー計測を通じて得られるエンジニアリングデータが爆発的に増加している。工場の生産ラインやプラント、電気・ガス・水道といったライフライン、交通インフラなどの運用、管理においても、大量の計測データが刻々と集まってくる。

 世界の産業界は、計測機器や産業機器をインターネットにつなぐIIoTを活用して、より詳細なデータを取得。これを利用した、効果的で効率的な開発、生産、運用、メンテナンスの実現、さらには新しいビジネスモデルの構築を目指し始めた。

 例えば、IIoTの代表的なアプリケーションである「オンライン状態監視」では、発電機やポンプなど、定期的なメンテナンスが欠かせない産業システムの動作状態をオンラインで監視している。そして、リアルタイムで収集した多くのデータを解析して故障の予兆を捉えることで、故障に至る前にメンテナンスを施す「予知保全」が可能になる。そのため、IIoTでは、センサー計測とデータ解析がポイントとなる。

 それゆえ、IIoTに取り組むほどに、計測データがこれまで以上に増えるのは確実と言える。しかも、こうした計測データの多くは、センサーを通じてリアルな世界から収集したアナログデータである点に注意する必要がある。NI社では、センサーから得られるアナログデータを「Big Analog Data」と呼び、サーバーに蓄積されたビッグデータ(デジタルデータ)と区別している。このBig Analog Dataといかに向き合うかが、IIoTを実現する上での重要なテーマになる。

集めたデータは5%しか活用されていない

 IIoTの本格的な導入が始まるまでもなく、既に取得したデータを持て余す状態に陥っている。IDC社によると、大半の企業では、収集したデータのうち、実際に解析されたデータは平均でわずか5%程度にとどまっていると報告している(図1)。解析されないまま放置されたデータの中には、重要な意味を持つものが多く埋もれていた可能性が高い。こうした状況下でIIoTの導入に踏み切っても、思い通りの効果が得られないのは明らかだ。

図1 収集したデータの5%しか解析されていない
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 95%ものデータが活用されていない原因は何か。一因として、データを収集する末端の部分にあたるエッジノードでの計測に課題があるからである。具体的には、各種センサー間でタイミング同期を取らずに計測したり、測定条件などを付加せずに生データのままクラウド上に保存してしまうことで、第三者が再利用できないデータを大量生成してしまっているからだ。結果として、再度計測するという作業が発生し、活用できないデータがさらに増えていくという悪循環が起こっているのが現状だ。

Big Analog Dataを有効活用するカギは「エッジコンピューティング」

 莫大なデータを有効活用するためには、クラウドへデータ転送する前に、センサーに近い部分で分析に適したデータに変換する演算処理が求められる。そのキーワードが「エッジコンピューティング」だ。

 図2はエッジコンピューティングの概念図である。現実世界には、温度や色、振動など、無限のアナログデータが存在する。しかも、それは時々刻々と途切れることなく変化している(左端)。例えば風力発電用風車の状態監視を例にあげて紹介しよう。風車の軸受けの振動は連続したアナログデータであるが、加速度センサーを用いて計測することにより、毎秒1万点ものBig Analog Dataが得られる。しかし、このままではデータの効果的な活用ができない。

図2 Big Analog Dataとエッジコンピューティングの関係
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 Big Analog Dataを効果的に活用するためには、以下のような2段階での情報処理をしておく必要がある。

 まずStep1として、重要データのみを取得する必要がある。演算能力の高い計測・制御装置を用いることにより、莫大なデータを意味のある情報に変換する処理である。例えば、周波数解析では、加速度センサーの生データを演算し、周波数解析する事により、ギアやベアリングの状態監視ができる。そして、この診断結果のみをクラウドに転送すればよいのだ。さらに、測定条件など付加情報や、検索用のタグ情報を付加することもBig Analog Dataの効率的活用のために重要なデータ処理となる。

 ここで重要なことは、こうした処理を、データを蓄積したサーバー上で測定を終えてから行うのではなく、データを取得するその場で、リアルタイムで行う必要があることだ。こうした処理のことを、「エッジコンピューティング」と呼ぶ。

 なぜ、こうした処理を現場、リアルタイムで行う必要があるのか。例えば、IIoTを生産ラインなどの装置の制御に活用する場合には、単にデータを取得するだけではなく、分析結果を現場にフィードバックすることになる。ロボットや自動運転車では、実際にこうした仕組みが求められる。制御処理を迅速に行うためには、転送したりサーバーで解析したりするデータを極力減らす必要があるため、エッジコンピューティングが不可欠になる。

エッジコンピューティングを可能にするNI社の計測システム

 エッジコンピューティングは、まさに今、求められている技術領域であり、新しいソリューションの登場が渇望されている。「一歩進んだBig Analog Dataの活用に向けて、NI社はエッジコンピューティングを実現するパワフルで柔軟な計測システムを提供します」(日本ナショナルインスツルメンツ マーケティング部 シニアテクニカルマーケティングマネージャの岡田 一成 氏)と言う(図3)。同社では、この分野に向けた製品として、再構成可能な制御・監視システム「CompactRIO」を提供している。

図3 NI社のエッジコンピューティング向け製品
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 CompactRIOには、データの取得作業を管理するマイクロプロセッサーと共に、専用ハードウェアを自由に構成できるデバイス、FPGAが搭載されている。FPGAでハード処理することで、負荷の大きなエッジコンピューティングの演算処理も高速で実行できる。また、さまざまな通信規格に対応したインターフェース回路も柔軟に構成可能だ。I/Oモジュールも約200種類用意しているため、多様なセンサーやバスを接続した計測ができる。処理内容や構成するインターフェースは、システム開発ソフトウェア「LabVIEW」を使って、自在に指定することが可能だ。計測器と同等の高精度のデータを取得し、エッジノードで処理をして重要なデータを取り出すための「エッジコンピューティング」のシステムが構築できる。さらに、ソフトウェアベースの計測システムであるため、柔軟性と拡張性を備えており、将来にわたってシステムを進化させることができるのも強みだ。

計測データ分析時間を1/20に短縮したジャガー・ランドローバー社

 さらにStep2として、重要データの管理を行うことだ。高度なデータ管理ソリューションを利用することで、重要データを必要としている方々にデータを届けることだ。ただし、Step2に関しては、各業界のトップクラスに位置する企業を中心に実践例が出てきている。

 例えば、英国の自動車メーカーであるJaguar Land Rover(JLR)社は、エンジン開発の現場で活用している(図4)。同社では、エンジン開発を進める課程で取得するデータの量が1日当たり500ギガバイトにも達していた。そのうち使いこなしていたデータは10%に過ぎなかったと言う。品質チェックのデータを自動的に整理するNI社のシステムを導入することで、その割合を95%にまで向上させている。

図4  Jaguar Land Rover(JLR)社での計測・管理システムの処理フロー
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 こうした先進的な取り組みをしている企業では、今後ますますBig Analog Dataの大規模化が進むことだろう。このため、より効果的なデータの活用を進めるには、手つかずであるStep1のエッジコンピューティングを進める仕組みの整備が欠かせない。

 IIoTが普及する機運が高まる中で、クローズアップされてきたデータの計測および管理に関する課題。これにいち早く取り組むことで「Big Analog Data」の活用の道が拓け、企業の競争力強化がぐっと高まるはずだ。そのための合理的で効率的な環境を提供するNI社の製品群に対するニーズは、今後ますます高まるに違いない。

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