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ルネサス あらゆる機器をUSBで給電する新しい世界へ

情報機器をはじめ、様々な機器の給電スタイルを革新的に変えて、消費者に多くの利点をもたらすことが期待されているインタフェース仕様「USB Power Delivery(USB PD) Specification」。小型のコネクタを介してデータ通信と同時に100Wまでの大電力を供給可能にする。モバイル機器はもとより、様々な電化製品や電子機器を携帯する昨今、同仕様の普及が加速する機運が高まってきた。USBインタフェースの黎明期から技術開発をリードしてきたルネサス エレクトロニクスが、既存の規格から一段踏み込んだ先進的な安全対策を盛り込んだソリューションを実現したからだ。

 USB PDは、1ポートのUSB端子で最大100Wの給電を可能にする仕様である。2012年7月にUSB Implementers Forum(USB-IF)によって正式に発表された。USB PDは、情報機器を初め、様々な機器の給電スタイルを大きく変える可能性を秘めている。例えばノート型パソコンや30インチ程度のモニターやテレビを、USBケーブル1本で駆動できるようになるからだ(図1)。つまり、現状では、データ通信のために機器間を接続するケーブルと、それぞれの機器に電源を供給する電源ケーブルなどが集中し、情報機器周辺ではケーブルが煩雑になっていることが多い。しかも、機器ごとに専用ACアダプタが使われていることから、電源コンセントには多数のACアダプタが接続されていることも珍しくない。

従来の結線
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USB PDを利用した結線
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図1 情報機器の結線を革新的に変えるUSB PD

 USB PD対応のUSB端子とUSBケーブルを使えば、ケーブル1本でデータ通信と電源供給が可能なので配線を一気に簡素化できる。しかも、現状では機器ごとにコネクタや電源の仕様が異なるACアダプタの仕様を、USB PDの規格を軸に1本化し、あらゆる機器で共用できる汎用ACアダプタを実現することもできる。出張や旅行の際に、何種類ものACアダプタを携帯する煩わしさから消費者は解放される。さらに、供給電力が格段に増えたことで、2次電池への充電時間が短縮できるという利点もある。

友田嘉幸氏
ルネサス エレクトロニクス 第二ソリューション事業本部 ICT・ソリューション事業部 エキスパート

 「東京五輪が開催される2020年には海外から多くの旅行者が訪れるでしょう。それまでに、ホテルや電車、航空機内など様々なところに充電可能なUSB PD対応のUSB端子が設置されていれば、旅行者の皆さんがUSBケーブルだけを持参すれば、どこでもモバイル機器を充電できる便利な環境が整います。これまでACアダプタが必要だったカムコーダなどの大容量機器までも充電きるのです」(ルネサス エレクトロニクス 第二ソリューション事業本部 ICT・ソリューション事業部 エキスパート 友田嘉幸氏)。現状では世界中に30億台ものACアダプタが使われずに眠っていると言われている。この技術の普及は、使われないACアダプタの数を減らし、地球環境の改善にも貢献する可能性がある。USB PDの採用は、ノート型パソコン、モニター、プロジェクタなどのOA機器はもちろんのこと、スタンド照明、扇風機、加湿器などの家電、電動ドリル・ドライバーなどの工具、ハンドヘルド機器、玩具まで広がっている。(図2)。

図2 USB PDの可能性 
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安全対策の強化が不可欠

 USB PDが登場する以前のUSB端子も給電機能を備えている。ただし、「USB2.0」では、給電できる電力は2.5W(5V,500mA)。その進化版である「USB3.0」も、最大4.5W(5V,900mA)に過ぎなかった。さらにUSB端子を使ってモバイル機器を駆動したり、内蔵2次電池を充電したりするために扱える電力を増やした仕様「USB Battery Charging(USB BC)」でも、最大7.5W(5V,1.5A)までである。これに対してUSD PDの仕様では、扱える電圧と電流を高めて、より大きな電力を供給できるようになった。具体的には、USB PDには、15W(5V×3A)、27W(9V×3A)、45W(15V×3A)、60W(20V×3A)、100W(20V×5A)を基本とした「パワールール」を設けている(図3)。

図3 USB PDの特長
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大谷聡氏
ルネサス エレクトロニクス 第二ソリューション事業本部 ICT・ソリューション事業部 課長

 このようにケーブル1本で大電力の供給が可能で、多くの利点を消費者にもたらすUSB PDだが、普及に向けて対応機器の設計者が懸念すべき課題がある。「安全対策」だ。「大電流を扱うので、故障によって短絡が発生したときに、異常な電流や発熱、それにともなうケーブルの溶断が発生する可能性が従来よりも高いと考えるべきです」(ルネサス エレクトロニクス 第二ソリューション事業本部 ICT・ソリューション事業部 課長 大谷聡氏)。実際に、小型のマイクロBタイプ・コネクタの場合、ユーザーが向きを間違えたまま無理に挿入部に押し込んでコネクタを破壊し、回路の短絡を発生させてしまう事例が市場で数多く発生していると言う。また規格で定められた仕様を満足していない粗悪なケーブルが市場に出回る可能性がある。こうしたケーブルに大電流を流したときに、発熱や溶断が発生する可能性もある。

 このような問題を踏まえて、2014年8月に仕様が固まったUSBの小型コネクタ仕様「Type-C」では、上下方向どちらでも挿入ができるようにした。さらに、メーカーなどを識別するための半導体デバイスをケーブル内に実装することも義務つけた。だが、こうした対策を施した最新仕様のコネクタやケーブルでも、大電流を扱ううえでの安全対策は気が抜けないと言う。「机上で電子機器を使っている際にACアダプタを机から落としてしまったり、ケーブルを引っ張って機器を移動させてしまったりするユーザーが少なくありません。こうしたときに接続部に大きな力が加わり、コネクタが変形。これが故障につながることがあります。不正に複製したメーカー識別用の半導体デバイスを搭載して、規格外の粗悪品であるにもかかわらず規格対応品として機器に認識させてしまうケーブルが市場に出回る可能性もあるでしょう」(友田氏)。

業界に先駆けて高度な安全対策

 こうした課題を乗り越えUSB PDの普及を加速するためにルネサス エレクトロニクスは、USB PDの安全性を一段と高めるソリューションを業界に先駆けて開発した。このソリューションは、大きく3つの技術で構成されている。

黒井芳啓氏
ルネサス エレクトロニクス 第二ソリューション事業本部 ICT・ソリューション事業部 技師

 第1は機器間の認証機能の強化。USB PDの最新規格「USB Power Delivery 3.0 Specification」に取り込まれている暗号技術を採用した機器間認証で不正行為に対する耐性を高めた(図4)。具体的には、USB PDコントローラとセキュリティ機能を搭載したマイコンが連携する回路を機器側に実装する。「ルネサス エレクトロニクスは、『ISO 15408 Common Criteria EAL(Evaluation Assurance Level)5+』と呼ばれるハイレベルの認証を取得した製品を量産しています。そのノウハウを、このソリューションに投入しています」(ルネサス エレクトロニクス 第二ソリューション事業本部 ICT・ソリューション事業部 技師 黒井芳啓氏)。

図4 安全を先取りした提案
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 第2は、ケーブルにも暗号技術をベースとした認証機能の搭載。ケーブルに関する不正対策を強化した。ケーブルを正しく認証できなかった場合、ケーブルに供給する電流を最大0.5Aに抑える制限機能を設けた。第3は、物理的な強度を高めた新設計のコネクタをパートナー企業と共同で開発。接続部に意図しない力が加わったときの耐性を高めた。

いち早く開発環境を整備

 ルネサス エレクトロニクスが提供しているUSB PDソリューションは、安全対策以外にも市場のニーズを先取りした技術を準備している。その1つが、回路の合理化に貢献するUSB PD専用電源ICである(図5)。USB PD対応の回路は、5V~20Vの複数の種類の電圧に対応する必要がある。ただし、各電圧に電源回路(DC-DCコンバータ)や保護回路を設けると、部品点数が増えるうえに、回路の実装面積が大きくなってしまう。そこで同社は、USB PDで対応するすべての電圧を発生する回路を1チップに集積したICを開発。このデバイスを利用することで、回路の大幅な合理化を実現できるうえに、実装面積を削減できる。

図5 システムの合理化に貢献
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 さらにもう一つ、同社のUSB PDソリューションで見逃せないのは、デバイスだけでなくUSB PD対応機器の開発を支援するための環境が充実していることだ。具体的には、ACアダプタ、内蔵用電源、複数の機器に電力を供給するパワーバンクなどの給電機器のリファレンス・キットを提供。さらに汎用USB機器用コンバータ、USB端子搭載のハードディスク装置、パソコン用コンバータ、認証機能付きケーブルなど受電機器のリファレンス・キットも揃えている。「USB PDが提供する様々な利点に対する消費者の認知が広がるにつれて、USB PD対応機器のニーズが市場で高まるでしょう。こうした中、有利にビジネスを展開するには、開発期間を短縮し、効率良く機器を開発することが重要です。そこに貢献できるように、素早くUSB PD対応機器を製品化するための環境を用意しました。USB PDは、情報機器だけでなく多種多様な機器に広がる見込みです。幅広い分野のお客様に私たちのソリューションを活用していただきたいと思っています」(友田氏)。

 なお同社では、USB PDの採用を検討している開発者向け特別セミナーを、2016年6月に東京/豊洲にて開催予定。カリキュラムは、業界の最新動向からシステム開発のトラブル解析事例まで、非常に実践的な内容となっている。本記事の読者向けに、6月14日のセミナーへの無料ご招待を用意しているので、是非応募をしてほしい。

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