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FAや車載用に最適なハードウエア自動設計ツール

高速性やリアルタイム性が求められる車載システムや制御システムの開発に適したハードウエア自動設計ツールを豪Veltronix社が開発した。Cコードで書かれた制御ロジックやアルゴリズムをFPGA実装に最適な形でRTL化するのが特徴で、ラピッドプロトタイピングにも適するとして、国内ではすでに先行導入が始まっている。同社の共同創業者の二人と、日本で代理店を務めるアドバンスド・データ・コントロールズに話を聞いた。

 制御システムや車載システムに欠かせない要件のひとつがリアルタイム性である。すなわち、ある決められた時間内(デッドライン内)に処理を終えなければならず、制御の対象によっては、デッドラインはかなり厳しく規定される。リアルタイム性を確保するには制御ロジックやアルゴリズムをハードウエアで実装することが望ましい。ソフトウエアで実装すると割り込みやキャッシュミスヒットなどによって実行時間が変動してしまい、ディターミニスティック性(確定性)が得られなくなってしまうからだ。そのため、設計者が記述した制御ロジックやアルゴリズムをいかに高速なハードウエアに落とし込むかが鍵を握る。

 産業分野や自動車分野のこうしたニーズに応えて、リアルタイム性あるいは高速性に特化したハードウエア自動設計ツールの開発を手掛けているのが、オーストラリアのメルボルンにて2015年に創業されたVeltronix(ヴェルトロニクス)社である。自動車分野の制御システムの研究開発に10年以上の経験を有するAaron Cleaver氏とPeter Montagner氏が共同で創業した。ちなみに社名のVeltronixとは、Velocity(速さ)とElectronicsとを組み合わせて付けられたという。

 「近年の制御システムや車載システムは処理量が増大しつつあり、高性能化やリアルタイム性の実現が課題になっています。また、既存の高位合成ツールはどちらかといえば回路エンジニア向けに作られていて、ソフトウエアエンジニアや制御システムエンジニアにとっては使いやすいものではありませんでした」とCEO(最高経営責任者)のCleaver氏は指摘する。

 同社が開発したのが、FPGAをターゲットとした自動設計ツール「Veltronix Accelerate(ヴェルトロニクス・アクセラレート)」である。その名前のとおり高性能なアクセラレータ・ハードウエアの開発を目的としたハードウエア自動設計ツールで、Cコードで記述した制御ロジックやアルゴリズムを論理合成し、Altera社のFPGAに最適化して出力するのが特徴だ(図)。ソフトウエアエンジニアや制御システムエンジニアにとっての使いやすさを意識したツールでもある。

図 Veltronix Accelerate の製品構成
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5万行のCコードからRTLを生成

 「FPGAベンダーが提供する高位合成ツールはビデオストリーミング処理や信号処理などを得意としている一方で、Veltronix Accelerateは制御ロジックの高速化を得意としています」と、CTO(最高技術責任者)を務めるMontagner氏は既存のツールとの違いを説明する。

 具体的には、Cコードから並列性を抽出して制御フローの最適化を行うとともに、グローバル変数の最適化を行ってメモリアクセスの高速化を図るほか、処理に必要な演算器を自動的に設計するなどの機能を備えるという。

 オプションとして、32ビット単精度および64ビット倍精度に対応した浮動小数点ハードウエアサポートツールボックスが提供される。「このツールボックスは、Cコードが浮動小数点型(単精度、倍精度)または処理(加減乗除など)を含む場合に、最適化された浮動小数点ハード(RTLコード)を自動的に生成するものです。FPGA内蔵のDSPは、その多くが整数演算のみを対象としていますが、こうしたハードウエア浮動小数点DSPのないFPGAターゲットに対しては、IEEE754に準拠したVeltronix独自の浮動小数点ハードウエアにより、浮動小数点処理を実装できます」(Montagner氏)。

 性能最適化のターゲットデバイスとしては、2016年4月時点で、Altera社の「Stratix IV」「Arria V」がそれぞれサポートされる。Cコードを特定ターゲット用に最適化する必要はなく、ツール実行時に選択したデバイスに対して最適な形でRTL化される。ユーザーがターゲットを変更したい場合は、ツールを再実行してデバイスを特定する必要があるものの、Cコードの変更は不要だ。対応品種は今後増やしていくという。

 テストベンチの自動生成のためのシミュレーションツールボックスも用意される。ハードウエア設計検証用の「高速シミュレーションモデル」を作成できる。このモデルはCコードテストベンチと結合でき、RTLシミュレーションをより早く実行することが可能になるという。また、分析やレポーティングのツールを現在開発中で、使い勝手のさらなる向上を目指す。

 Cleaver氏は、「Veltronix Accelerateは2016年4月21日に正式リリースをしましたが、先行的に導入しているある日本のお客様は、55,000行のCコードからRTLを生成、FPGAに実装してラピッドプロトタイピングを行っていると聞いています」と述べ、実際の開発現場で同社のツールの活用がすでに始まっていることを明らかにした。

ADaCが日本の代理店を務める

 上記のVeltronix社の各ソリューションを日本国内で取り扱うのがアドバンスド・データ・コントロールズ(ADaC)だ。

 「最適なソフトウエア開発環境」の提供を使命とするADaCは、Green Hills Software社の統合開発環境「MULTI」をはじめとするさまざまな開発環境を取り扱っており、自動車分野およびFA機器などの産業分野に多くの顧客を持つ。ADaC代表取締役社長の河原隆氏は、Veltronix社と販売代理店契約を締結した背景を次のように説明する。

 「クルマの開発を例に挙げると、これまでの『走る・曲がる・止まる』に加えて最近は『見る・測る・感じる』にまで制御の範囲が広がっていて、複雑化する制御をいかに高速に実行するかが課題となっています。制御システムの性能最適化を目的にVeltronixが開発したソリューションは、瞬時の認識や判断を必要とする次世代のADASアルゴリズムなどの開発に最適と考え、このたび代理店契約を締結しました」。

 また、ADaCでビジネス開発を担当する名知克頼氏は、「ハードウエアの実装を気にすることなく自動的に並列化が行われますので、ソフトウエアエンジニアや制御システムエンジニアにとっても使いやすいツールになると考えています。日本語のドキュメントの整備も進めながら、制御の高性能化を求める自動車分野やFA分野を中心にご紹介していきます」と述べる。

 Cleaver氏によると先行ユーザーのほとんどが日本企業で、ラピッドプロトタイピングをより効率的に進めたい、あるいは、ソフトウエアで実装したロジックをハードウエア化したい、といった目的での導入が多いという。

 なお、Cleaver氏とMontagner氏ともに、かつて日本での勤務経験があり、日本語が堪能なだけではなく日本の文化をよく理解しているという。日本企業の開発現場への知見を踏まえ「ADaCの協力を得ながら、日本のお客様のニーズに応えられるよう努めていきます」とCleaver氏は語る。

 高速性やリアルタイム性がなお一層求められる次世代の制御システムの開発において、Veltronix社の製品は強力なツールとなってくれるに違いない。

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