日経テクノロジーonline SPECIAL

音声通信で磨いた高品質をIoTに生かす

本格的なIoT時代が、いよいよ幕を開けようとしている。家庭やオフィス、工場など、あらゆる場所に配置したセンサーやカメラなどが、当たり前のようにインターネットにつながり始めた。さまざまなモノをネットにつなぐための通信手段には、Wi-FiやBluetoothなど既存のIT機器でなじみ深い無線技術が検討されることが多い。ただし、これらは万能ではない。IoT機器、特に高い信頼性が求められる用途では、音声通信をベースに絶えることなく品質を磨き続けてきた無線通信規格「DECT(デクト)」を提案したい。DECTは、まさに旬と成熟を同時に迎えた技術である。そのIoT機器への適性、および応用事例と将来の可能性を2回シリーズで紹介する。

 高齢者や子供の見守り、電力消費の把握、体調管理、戸締まりや留守宅の監視―。家庭やオフィスの中では、さまざまな用途でIoT機器が使われるようになった。技術系調査会社であるIHS Technologyは、インターネットに接続して利用する機器が、2013年時点での150億台から、2025年には850億台へと急増すると予測している。IoT機器の利用シーンの拡大と普及によって、人々の豊かな暮らしや競争力の高いビジネスが生み出されることだろう。

 ひとくくりにIoT機器と言っても、その利用シーンや機器の形態は多様だ。高精細な映像データを取り込む監視カメラもあるし、体調や活動量のような個人情報を常時モニタリングするウエアラブル端末もある。これら多様なIoT機器をインターネットにつなぐ入り口となる部分では、それぞれの機器仕様に合った、最適な無線通信技術を選択する必要がある。もちろん、Wi-FiやBluetoothなどIT機器で多用される技術は、その有力な候補となる。しかし、それだけで多様なIoT機器のあらゆるニーズをカバーできるわけではない。

 これから利用が拡大するIoT機器と既存のIT機器、それぞれに向けた通信技術のニーズを比較すると、IoT機器ではより高い信頼性が求められる傾向がある。個人や家庭、オフィスや工場の活動状況を、リアルタイムで、ありのままに伝えることがIoTシステム全体の価値に直結するからだ。このため、IoTシステムの末端(エッジ)部分、データを取り込む場所では、周囲を飛び交う電波との干渉や雑音の混入、遅延などによる情報品質の低下を最小限に抑えられる通信技術が求められる。

高信頼性の要求にDECTが応える

 IoTシステムの中で、インターネットとモノや人の間をつなぐ「ラストワンホップ」。こうした高い信頼性が求められる場所で使う無線技術として提案したいのが、DECTである(図1)。

図1 IoTシステム中で、確かなラストワンホップを実現するDECT
[画像のクリックで拡大表示]

 DECTとは、欧州電気通信標準化機構(ETSI)が、元々デジタルコードレス電話の親機と子機をつなぐ技術として1992年に策定した、時分割多元接続方式の無線通信規格である。その通信プロトコルや識別符号、セキュリティーなどの仕様は、「ETSI EN 300 175シリーズ」として標準化された。現在に至るまで、インターネットへの融合、超低消費電力化など、規格の改善・更新が継続的に行われ、今ではIoT機器に適した無線通信技術へと進化した。

 他の無線技術と比べたときのDECTの特長は、クリアな音声を伝えるべく、高信頼性の実現に注力した仕様が策定されている点にある。そして2008年には、VoIP対応の高音質通話とデータ通信を可能にした規格「CAT-iq」が策定され、インターネットとの親和性が高まった。これによって、ビデオ会議やセンサーネットワークなどへと、その応用が拡大。さらに、2013年には、超低消費電力化を推し進めた「DECT ULE(Ultra Low Energy)」が登場。電力供給ができないような機器でも長期にわたって利用できるようになった。単三電池2本で、非同期モードでは最大10年、2秒おきに間欠周期起動する同期モードでも最大2年利用可能だ。

 DECTは着実な進化を遂げてきたことで、本格的なIoT時代の到来を前にした今、まさに旬を迎えようとしている。

IoTに適した周波数帯を利用

 電波干渉が少ない1.9GHz帯を利用し、しかも専用バンドであること。これこそが、Bluetooth LE(Low Energy)、Zigbeeなど、IoT機器向け無線技術としてよく候補に挙がる技術に対するDECTの最大の特長である。多くの無線機器が共用する2.4GHz帯のISM機器と干渉することがなく、Wi-FiやBluetoothなどの無線技術を使っている機器にも別の無線チャネルとして利用することが可能だ。

 近年、身の回りで使われる無線機器は、その種類と数が増える一方だ。DECTの高信頼性は、無線機器が増えれば増えるほど際立ってくる。実際、「以前は2.4GHz帯を使っていたデジタルコードレス電話がDECTに置き換わりました。最近ではワイヤレスドアホンなどをDECTに換える動きが急速に進んでいます」(DECTフォーラム ジャパンワーキンググループ 代表の森川和彦氏)という。

 さらに、用意されたチャネルの使用状況を常にモニタリングし、最適なチャネルを自動選択することで効率よく帯域を利用する機能、DECT ULEの同期モードでは起動後数十m秒、非同期モードでも数百m秒のオーダーで通信を完了できる高速接続性など、高い信頼性を実現する数々の特長を備えている。

データ通信用として魅力的な特長

 IoT向け無線技術として、信頼性以外の仕様も魅力的だ(図2)。

図2 DECT ULEの他のIoT向け無線技術候補との比較
[画像のクリックで拡大表示]

 通信距離は、見通しで300m以上、屋内でも数十mと長い。これは、Bluetooth LEの10m、Zigbeeの100mを大きく上回る。中継によってさらに延長することも可能だ。さらに最大データレートも、1.152Mbps(標準のGFSK)とBluetooth LEと同等であり、6.912Mbps(64QAM)まで規格化されている、また、もともとデジタルコードレス電話向けとして規格が作られた経緯から、音声とデータ、さらにはビデオまでを1つのプラットフォームでやり取りできる。

 DECTは、規格が作られて以来、欧米をはじめとする世界中で広く利用されてきた。Wi-FiやBluetoothなどパソコンなどで使われている規格に比べれば、消費者の目には映りにくい技術だが、世界110カ国以上で認可・運用され、対応機器は年間1億台以上生産されている。まさに、隠れたベストセラー技術と言える。このため、対応デバイスの安定供給や、その利用や対応機器の相互接続に向けた技術支援体制など、成熟したエコシステムが既に整っていることも、DECTの魅力として見逃せない。

図3 J-DECTのロゴマーク

 実は日本でのDECTの利用は歴史が浅い。2010年10月に省令が改正されて、DECT準拠方式の利用が可能になり、まずは家庭用のコードレス電話機を中心に普及した。日本での無線局の無線設備の標準規格は、2011年に「ARIB STD-T101」として一般社団法人 電波産業会によって策定された。そして現在は、DECTの特徴を活かしたホームセキュリティーシステム、ワイヤレスマイク、インターカム、高信頼性オーディオ伝送、また企業向け電話機など、さまざまな分野での利用が急速に広がっている。 DECT準拠の機器の普及や技術のさらなる進化に取り組むDECTフォーラムは、同フォーラムのメンバー企業が製造または販売するARIB STD-T101準拠の日本国内向けの製品に、「J-DECT」のロゴを付与して日本での普及を後押ししている(図3、図4)。

図4 DECTフォーラム ジャパン ワーキンググループ
[画像のクリックで拡大表示]

 また、2013年には、ULEアライアンスが設立された。参加する会員は、規格に準拠し、異なるベンダー間での相互接続性を完全に担保した製品やサービスを短期間かつ低コストで開発できる。こうした支援体制を活用することで、DECTを効果的に利用したIoT機器が、日本でも次々と生まれてくることだろう。

ワイヤレスジャパン2016に出展

5月25日(水)~5月27日(金) 東京ビッグサイト 西3・4ホール

DECTフォーラム ジャパン ワーキンググループ
ブース番号:7-2-6

お問い合わせ