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組み込み開発ユーザーが見逃せないプラットフォームとは

漆間耕治氏
ルネサス エレクトロニクス グローバル・セールス・マーケティング本部 日系戦略・マーケティング部 エキスパート

 2015年6月(日本では12月)にルネサス エレクトロニクスが発表した「Renesas Synergy™プラットフォーム」は、組み込み機器向けに提供する統合プラットフォームのブランドである。つまり、デバイス(マイコン)、ソフトウエア、ツールやキットをはじめユーザーサポートなど組み込み開発を支える様々な要素を丸ごと包含したプラットフォームを指している。「IoT(Internet of Things)のような新しい概念が広がってきたことなどから、組み込み機器の市場ニーズが大きく変わりつつあります。こうした市場の変化を先取りして有利にビジネスを展開しようとしている組み込み機器メーカーの皆さんには、これまでとは違う新しい付加価値を提供する必要があると考えました。これを大前提に、新たなアプローチで私たちの製品やサービスを提供するために実現したのがRenesas Synergy™プラットフォームと名付けた統合プラットフォームです」(ルネサス エレクトロニクス株式会社 グローバル・セールス・マーケティング本部 日系戦略・マーケティング部 エキスパートの漆間耕治氏)。

 Renesas Synergy™プラットフォームが提供する付加価値として同社が位置付けたのが、いま組み込み開発の現場が直面している大きな課題を根本的に解決し、市場の変化に対する組み込み機器メーカーの適応性を高めることだ。それを具体的にしたのが、Renesas Synergy™プラットフォームで提供する「開発期間短縮」「TCO(Total Cost of Ownership)削減」「開発着手時の障壁解消」の大きく三つの利点[価値提案]だ。「市場調査のデータから、これら三つが、これからますます組み込み開発において重要な課題になることが分かりました」(漆間氏)(図1)。

図1 組み込み開発の現場が直面する課題を一気に解決する三つの価値提案
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 例えば、市場データから一つの製品の開発期間が年々延びているのと同時に、遅延しているプロジェクト件数が増加の一途を辿っていることが分かった。「ドライバやリアルタイムOSなど低層のソフトウエア開発にかかる時間が、開発期間全体の20%~40%も占めていることも明らかになりました」(漆間氏)。ソフトウエア開発や、従来手掛けていなかった新技術の導入に多くの開発リソースを取られていることを示すデータもあったという。さらにもう一つ見逃せなかったのが、組み込み開発に必要なソフトウエアのために年間で費やす費用が増えていることだ。「これらの課題を解消することで、組み込み機器メーカーの市場における競争力は格段に向上するはずです」(漆間氏)。

動作保証されたソフトウエア群を提供

 Renesas Synergy™プラットフォームを構成する要素は大きく五つある。すなわち「Renesas Synergy™ソフトウエア」「Renesas Synergy™マイクロコントローラ」「開発環境(ツール&キット)」「Renesas Synergy™ソリューション」「Renesas Synergy™ギャラリー」である(図2)。それぞれが、このプラットフォームならではの特長を備えている。この中で、Renesas Synergy™ソリューションは、リファレンスとなる実製品設計例やサンプル・アプリケーションの数々、Renesas Synergy™ギャラリーは、各種ソフトウエアやツールを提供する登録制の専用サイトを指す(登録無料)。

図2 「Renesas Synergy™プラットフォーム」の概要
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 このプラットフォームのもっとも大きな特長となっているのが「Renesas Synergy™ソフトウエア」である。Renesas Synergy™ソフトウエアは、「Renesas Synergy™Software Package(SSP)」「Qualified Software Add-ons(QSA)」「Verified Software Add-ons(VSA)」の大きく三つのカテゴリのソフトウエアで構成されている。SSPは同プラットフォームの核として標準で提供され、且つ同社が指定した開発環境における動作と性能がデータシートに基づいて保証されているソフトウエア群だ。QSA、VSAはSSPに機能を追加するアドオン・ソフトウエアである。標準で提供されるSSPにはリアルタイムOS(RTOS)、アプリケーションフレームワーク、GUIライブラリ、IPv4/IPv6やTCP/IPなどの通信スタック、USBなどのプロトコルスタック、ファイルシステム、ハードウエア抽象化ドライバなど、基本的なソフトウエア群が広く網羅されている。「動作保証されているSSPを利用することで、低層ソフトウエアの開発にかかる時間や工数を大幅に削減できます。空いた分でアプリケーションの開発に注力し、製品の差別化に時間を割くことができます」(漆間氏)。つまり、三つの課題のうちの一つ、「開発期間短縮」への貢献である。同社の見積では、ドライバ開発、ミドルウエア開発、リアルタイムOSの実装、クラウド接続などに費やしていた時間を一気に3分の1~4分の1に短縮できる。

スケーラビリティとコンパチビリティを確保

 二つの目の課題であるTCO削減に貢献する特長も数多くある。「コストというと部品代を中心とした原価に目が向きがちですが、実はこれは氷山の一角にすぎません。水面下には、開発費、保守費といった莫大な、しかしながら商談時に議論の対象となることは少ない、見えないコストがあります。デバイスだけではなくソフトウエアや開発ツール、メンテナンスやサポートにいたるまで組み込み開発に必要な要素を網羅したRenesas Synergy™プラットフォームを活用することで、こうした見えないコストを大幅に削減できます」(漆間氏)。

 例えば、SSPは、リアルタイムOSや基本的なミドルウエアをパッケージとして提供し、しかも動作保証されているので、これまで組み込まれた各ソフトウエアの個別のアップデート毎に必要であった統合テストの手間も省ける。「これによって、大幅なコストを削減できるはずです」(漆間氏)(図3)。

図3 開発に必要なソフトウエアをパッケージとして提供
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 マイクロコントローラ各シリーズ間の高いスケーラビリティとコンパチビリティを確保している点も、TCO削減に貢献する。Renesas Synergy™プラットフォームには、「S1(動作周波数最大32MHz)」「S3(同100MHz)」「S5(同200MHz)」「S7(同300MHz)」とパフォーマンスが異なる4シリーズのマイクロコントローラを専用に用意している(図4)(下記のコラム「ルネサスの汎用MCU/MPU戦略、ユーザー重視で複数の選択肢を提供」を参照)。これら4シリーズの間では、SSPを適用して開発した低層ソフトウエアは共通に使える。アプリケーションソフトウエア層とハードウエアを変更するだけで、製品展開が可能だ。つまり製品展開する際のトータルコストを削減できる。このために、レジスタマッピング、APIや機能などのスケーラビリティとコンパチビリティが、全シリーズにわたって確保されている。置き換えたときに実装するプリント基板の設計変更が最小限になるように、ピン配置にも工夫している。

図4 4シリーズのマイクロコントローラを専用に用意
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新規導入時の初期投資を最小限に

 三つめの課題である開発着手時の障壁解消に対しては、様々な方向からサポートする仕組みを提供している。「IoTに対応するためにマイコンを新たに導入するお客様はこれから増えると思います。ただし新規導入の場合、開発着手時に多くの障壁があります」(漆間氏)。例えば、新たに採用するベンダの製品に関する市場調査や必要となるソフトウエアの比較など事前の検討、開発環境の整備、技術トレーニングや既存の設計資産の移植作業など、立ち上げ時に多く作業が発生する。さらに新規導入するリアルタイムOSやミドルウエア、ツール、それらのメンテナンスやサポート契約に必要となる初期費用や個別の契約の煩わしさも開発着手時の大きな障壁となる。

 これに対して、Renesas Synergy™プラットフォームでは、ユーザー登録のみで、動作保証され最終製品に適用できるSSPはもとより開発環境を含む全てのソフトウエアを専用Webサイト「Renesas Synergy™ギャラリー」を通じて無償で提供する。同サイトを通じてユーザーを無償でサポートする様々な仕組みも用意している。「Renesas Synergy™ギャラリーを介して提供しているソフトウエアについては、同サイト上でクリックラップにて正規のライセンス契約が結べます。これによりライセンス契約にかかる手間も大幅に少なくなります」(漆間氏)。同社が提供する検証済みアドオン・ソフトウエア(QSA)やサードパーティー製のアドオン・ソフトウエア(VSA)も同サイトから有償で入手できる。「VSAは、厳選したパートナーが開発し、ルネサスにて動作検証したアドオン・ソフトウエアです。これを利用して社外の優れた技術や、自社にない技術を素早く製品に展開することができます」(漆間氏)。

 IoTの普及とともに機器の多様化が加速する見込みだ。これにともなって組み込み機器メーカーは、より一層の開発効率化を迫られるはずだ。ルネサス エレクトロニクスが提供するRenesas Synergy™プラットフォームは、こうした市場の変化にいち早く適応しながら、有利にビジネスの拡大を図ろうとする組み込み機器メーカーにとって強力な味方になりそうだ。

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ルネサスの汎用MCU/MPU戦略
ユーザー重視で複数の選択肢を提供

 短TATを追求する機器設計者向けのプラットフォームソリューションは、まさに、汎用MCU/MPUのリーディングカンパニーとして活躍するルネサスならではのイノベーション提案である。その先駆けとなったリアルタイムOSベースのRenesas Synergy™プラットフォームにつづき、HMIソリューション向けにLinuxベースのRZ/Gプラットフォームも準備中である(図A)。これにより、熟練のマイコン・ユーザーだけで無く、アイデアをすぐに形にしたいと思っているもののマイコンを扱った経験が浅いという新たなユーザーも取り込む。

図A ルネサス プラットフォームソリューション マップ
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 同社の製品展開で注目すべきは、これらプラットフォームソリューションが、既存のMCU/MPUロードマップとは独立に存在し、競合するものではないという点である。デバイスの性能を最大限に引き出したい機器設計者ならば、ルネサスのこれまでの技術資産を継承した「RL78」「RX」「RZ」ファミリのラインアップから選択すべきだ(図B)。

図B ルネサス MCU/MPU ラインアップ
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 こうした異なるアプローチのソリューションを同時に展開するルネサスの取り組みは、変わり行くユーザニーズに的確に応えた展開であり、組み込み機器の開発の多様化をとことんサポートしようとする同社の姿勢がうかがえる。

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