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スマートグラスで現場の業務を革新、導入が広がるエプソンの「MOVERIO Pro」

製造や保守の現場において作業効率の向上は永遠の命題のひとつといえる。製品の多様化を背景に、作業手順も増えているため、ベテランといえども覚えられないことがある。そこで、品質および確実性を高める手段として、製造や保守の現場に導入が広がっているのが、エプソンのスマートグラス「MOVERIO Pro BT-2000」だ。

ものづくりの変革に向けた備えを

 消費者ニーズの多様化やグローバル競争の激化などを背景に、ものづくりの現場ではこれまで以上の変革が求められている。

 たとえば、大量生産をベースにしながら顧客の個別ニーズに応えて一品ずつ異なる製品を生み出す「マス・カスタマイゼーション(個別大量生産)」も、変革を促している重要なトレンドのひとつといえるだろう。設計や生産の標準化を図りつつ、ITシステムを導入するなどしてピッキング指示や生産指示を個別化し、市場のニーズに応える多様な製品を生み出す仕組みを構築していかなければならない。

 同時に、人手不足が叫ばれる昨今がゆえ、経験の浅い作業員が組立を担当した場合でも製品の品質を維持できるような仕掛け作りも重要になってくる。

 また、生産設備や機械のメンテナンスも課題として挙げられる。設備の面倒を長年に亘って見続けてきたベテラン従業員の退職や転籍によって、メンテナンス作業のノウハウが手薄になっている現場は多いとされ、経験に依存しない手順の確立が急務となっているからだ。なお、ラインの停止による機会損失を最小化しようと、設備や機械にセンサーを装着しておき、センシングしたデータから異常動作や故障の予兆をとらえて予防的にメンテナンスを行おうという取り組みも一部には見られるが、多額の投資が必要である。

作業を効率化するスマートグラス

 ものづくりに伴うこうした課題を解決する手段として、メガネ型のウェアラブルデバイスである、いわゆる「スマートグラス」を導入し活用する企業が少しずつ増えている。

 スマートグラスは、超小型プロジェクターを組み込んだフレームと、プロジェクターで投映した映像を視野の中に光学的に重ね合わせる特殊レンズで構成されている。投映した画像や文字などが目の前に浮かんで見えるのがスマートグラスの特徴で、両手が塞がらないのが大きなメリットだ。

 スマートグラスを通じて指示や手順を作業者に効率的に伝えることができることから、組立作業、メンテナンス作業、ピッキングや棚卸しなどの倉庫作業などの効率化を図ることができる。

 そこで、業務用のスマートグラスの代表的なモデルであるエプソンの「MOVERIO Pro BT-2000」(図1)を活用している企業事例を紹介しよう。

図1. エプソンのスマートグラス「MOVERIO Pro BT-2000」
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ラインの停止で生じる損失が課題に

 大阪市に本社を置くケーブルメーカーのJMACS株式会社(http://www.jmacs-j.co.jp/)は、同社兵庫工場(兵庫県加東市)の生産設備のメンテナンス作業の効率化を目的に、2015年に「MOVERIO Pro BT-2000」を導入した。

 ケーブルは一般に、熱で溶かした難燃性ポリマーなどの樹脂を導体(銅線など)に被覆して製造する。ただしケーブル種によっては、撚り合わせ、シールド編み組み、シース(保護被覆)といった複雑な工程を経る場合もある。

 ケーブルの用途によって、導体(芯線)の太さや本数、撚り数や張力、絶縁体材料の誘電率、シールドの有無や構造、被覆樹脂の厚みなど、仕様が細かく異なっているため、段取り替えや各製造装置の微妙な調整を行いながら多品種の生産に対応しているが、製造装置の軽微な不調などでラインが停止するという問題が少なからず起きていたという。

 「年間の生産停止時間は60時間に達していました」と、同社の取締役で電線事業部 兵庫工場長を務める松本雅博氏は以前の課題を振り返る。ライン停止が発生した場合は、顧客納期に対応するため工程を組み替えて生産順を変えることも多く、緊急的な組み換えに要する時間を含めると年間の延べ停止時間は100時間ほどに達し、損失額は1500万円以上と推定されていた。

 ライン停止の原因は軽微なものが多く、簡単な調整やパーツの交換だけでほとんどが解決するものの、「対応する技量がある管理監督者が遠隔地にいた場合など、復旧に時間がかかることが課題となっていました」と松本氏が説明するように、迅速な対応ができないことがライン停止を長引かせてしまう原因のひとつになっていた。

MOVERIO Proの導入で年間500万円の損失削減を見込む

 そうした課題を解決するために同社が選択したのが、エプソンのスマートグラス「MOVERIO Pro BT-2000」である(図2、図3)。作業者はメンテナンス指示書などの映像を観ながら両手が空いた状態で作業ができること、および、作業者視点で撮影した映像を遠隔地にいる管理者に送信することが可能なため、管理監督者が現場にいなくても遠隔で状況を把握し指示を与えられること、などが選定の理由だ。

 同社では、「問題が発生した直後に復旧できれば、損失時間を50%低減できると考えています」(松本氏)との見通しのもと、導入の翌年度となる2016年度には年間500万円程度の損失削減を見込んでいる。また、製造装置の迅速な修復だけではなく、たとえば被覆工程での標準書や注意事項を工程作業者の「MOVERIO Pro BT-2000」に投映することで、人的ミスを原因とする不良の排除にもつなげられるとの期待を示している。

 JMACSではソフトウェアの受託開発も行っており、「MOVERIO Pro BT-2000」用のソフトウェアも自社内で開発したという。開発を担当した同社取締役でトータルソリューション部 部長を務める浦井清一氏は、高解像度カメラと高輝度ディスプレイが採用されているため視認性が良く、小さな文字も遠隔側と作業者の双向が読むことができる点や、ヘッドセットの装着性や堅牢性が優れている点などを評価している。

図2.BT-2000を通じて制御盤のリレーに問題があることを遠隔で把握
図3.被覆工程の状況を遠隔で伝えながら問題を解決