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着々と進む応用の社会実装、新構造投入で勢いづくSiCデバイス

着々と進む応用の社会実装、新構造投入で勢いづくSiCデバイス

 鉄道、高速エレベータなど、SiCデバイスの社会実装が着々と進んでいる。電力損失の低減や電源回路の小型化など、目に見える成果が出ている。さらに自動車や太陽光発電システムなどへと応用を広げる実証実験も加速。SiCデバイスのユーザー企業には、利用技術が確実に蓄積されつつある。こうした中、NE先端テクノロジーフォーラム「次世代パワー半導体のインパクト~勢いづくSiCデバイス~」が、SiCへの期待感を映す満員の聴講者を集めて開催された。機器メーカーからの一歩突っ込んだ要望と、それに応えるデバイスメーカーの新技術。SiC技術と利用技術の最前線を垣間見た。

 SiCデバイスを活用した、電力損失の低減や小型・軽量化を図った機器や設備の社会実装が相次いでいる。

 2012年の東京地下鉄 銀座線の車両へのSiCショットキーバリア・ダイオードとSi IGBTで構成した定格電圧600Vのハイブリッドインバータの採用を皮切りに、2014年には小田急電鉄 小田原線の車両に1500VフルSiCインバータが採用された。さらに2015年には、東海旅客鉄道(JR東海)が、SiCデバイス搭載の3300V新幹線車両用駆動システムを開発し、2018年完成、2020年実用化を目指して動き始めた。鉄道では、SiCデバイスの活用が広がり、より高い効果を実現する技術へと発展している。

 高速エレベータの制御装置にフルSiCパワーモジュールが採用され、電力損失を65%低減、装置の接地面積を40%低減する絶大な成果を上げた。自動車分野では、トヨタ自動車による、ハイブリッド車や燃料電池車のパワーコントロール・ユニット(PCU)にSiCデバイスを採用した走行実験が始まった。その他にも、住宅用の太陽光発電システム向けパワーコンディショナ・システム(PCS)が発売されるなど、大きな電力を扱うあらゆるシーンでSiCデバイスの活用が始まっている。

ユーザー視点でSiCデバイスに要望

 広範な分野でSiCデバイス活用の機運が高まり、機器や設備を開発するメーカーには、SiCデバイスの潜在能力を引き出すための利用技術が蓄積されつつある。今回のNE先端テクノロジーフォーラムでは、メガソーラーと産業用モータの分野から、実際にSiCデバイスを扱うエンジニアが登壇。ユーザー企業での取り組みと、SiCデバイスに対するユーザー視点からの要望を語った。

 東芝三菱電機産業システム パワーエレクトロニクスシステム事業本部 環境・エネルギーパワーエレクトロニクスシステム部の木下雅博氏は、大容量のメガソーラーで使うPCSでのSiCデバイス利用に向けた検討状況を語った。同氏によると、世界中に建設されるメガソーラーは、年々、大容量化していく傾向にあり、2020年には1MW以上のプロジェクトが全世界の70%を占めるようになるという。ただし、そこに導入される設備には、政府などからの補助金に頼らなくても採算が合う低コスト化と高効率化が求められている。PCSでは、PVモジュールの高電圧化、直近では1500V化によって、ケーブルでの損失削減と配線工事コストの削減に対応する必要がある。

 PCSの開発では、これまでSiベースのIGBTや回路技術上の工夫によって、高電圧化や高効率化に対応してきた。しかし、「より大きな損失低減効果を得るため、SiCデバイスの活用に期待しています」(木下氏)と言う。そして、実用化に向けたSiCデバイスへの要求として、低コスト化と低損失化の両立、オン抵抗特性の温度依存性の改善、稼働20年以上の長寿命化を期待できるパワーサイクル耐量の向上、大容量PCSにおけるPWMの高周波化、1500V直流システムに合ったSiCデバイス、さらに高圧への対応を挙げた。

 安川電機 技術開発本部 開発研究所 パワーエレクトロニクス技術部の原 英則氏は、産業用モータのドライブ開発からみたSiCデバイスへの要望を語った。同社では既に、産業用インバータや機電一体の電気自動車向けモータなど、さまざまな分野で試作品を開発。SiCデバイスの効果的な利用シーンを見定め、そこで求められる利用技術を確立してきた。こうした実績を背景にして、SiCデバイスをより多くの応用で活用するためには、「200℃以上の高温での動作、IGBT比1/2の低損失、30kHzの高キャリア動作が欠かせません。このうち1個でも欠けると価値が減ってしまいます。すべてを同時に満たすSiCデバイスの登場を望んでいます」(原氏)とした。

充実進む技術開発と供給体制

 応用をより拡大していくためには、SiCデバイス自体の進化と、メーカーの供給体制の充実が欠かせない。

 パワーデバイス最大手であるインフィニオン テクノロジーズは、これまで慎重だったSiC MOS FETの量産に踏み切ると発表。数あるSiC MOS FETの素子構造の中でも、より大幅な損失低減を見込めるトレンチ型構造で生産する。SiC MOS FETの製品で一般的なプレーナー型に比べて、オン抵抗を数分の1に小さくできるとする。さらに同社は、米Cree社のSiC基板事業およびパワーデバイスとRFデバイスの部門Wolfspeedを買収することで合意。技術開発力と、ウエハー開発からデバイスを作り込める開発・生産体制を構築できるようになる。

 国内でも、産官学が一体となって、一歩進んだSiCデバイスの開発や利用技術の確立を進めている。国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) IoT推進部の間瀬智志氏は、経済産業省と内閣府がそれぞれ主導しているパワーデバイスの技術開発プロジェクトを紹介した。同氏は、「過去の技術開発の成果を最大限に活かし、それを補完するプロジェクトを拡充していきます」とし、プロジェクトへの参画を促した。

 京都大学 名誉教授の松波弘之氏は、「SiCでは、モノポーラデバイスの開発と実用化にメドがつき、いかに応用するかに視点が移っています。これからは、応用回路を開発する人材の育成が重要になります。一方、デバイス開発では、今後はバイポーラデバイスの開発へと焦点が移っていくでしょう」と総括した。