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加速する家電、産業機器のインバータ化、IPMの活用が製品価値向上の鍵

加速する家電、産業機器のインバータ化 IPMの活用が製品価値向上の鍵
藤原 エミリオ氏
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン インダストリアルパワーコントロール事業本部 アプリケーションエンジニアリング ヘッド

消費電力の削減や環境規制のクリアを狙って、家電製品や産業機器への搭載が加速するインバータでの、インテリジェントパワーモジュール(Intelligent Power Module、IPM)の活用が欠かせなくなってきた。より高度な制御を、より少ない部品、より小型の回路で実現できるからだ。インフィニオン テクノロジーズ ジャパン インダストリアルパワーコントロール事業本部 アプリケーションエンジニアリング ヘッドの藤原エミリオ氏が、IPM事業での同社の強みと今後の方向性について、実例を交えながら解説した。

 調査会社であるIHSによると、2014年の世界の家電製品のインバータ化率は34%に達し、2019年には57%に達すると言う。こうしたインバータ化率の向上と歩調を合わせて、電源回路の小型化を推し進めるIPMの市場が急成長。年率18%での成長が続き、今後5年間で228%大きくなると予想されている。

 産業機器の分野でも、欧州市場でインダクションモータの効率に規制がかかり、7.5kW以上の比較的効率が低いIE2(IEC 60034-30)モータを対象にして、2015年からインバータの搭載が義務づけられた。2017年からは、対象が0.75kW以上に強化される。これによって、産業機器でのインバータの需要が高まることは確実だ。特に小型機器の低出力モータの駆動では、IPMの利用が拡大するとみられる。

部品集積化で多角的なメリット

 こうした市場の成長、変化に対応するためには、「駆動回路を構成する部品の集積化を推し進め、市場の要請に応えるより集積度の高いモジュールへと進化させていく必要があります」と藤原氏は言う(図1)。

図1 3相モータドライブに向けたIPMの集積化の進展
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 3相モータを駆動するためには、少なくとも6個のスイッチを利用することになる。この6個のスイッチを1つのパッケージに集積したのが、通常のスイッチモジュールである。IPMでは、回路を構成するデバイスの集積をさらに進め、ゲートドライバも搭載している。さらに、コンバータや高調波制御機能も集積したIPMも増えてきている。加えて、コントローラまでも集積した製品も既に登場している。ゆくゆくは、バイアス・パワーサプライ回路も集積したオールインワンのモジュールが求められるだろう。

 集積度の高いIPMを利用するメリットは、部品点数の削減、筐体の小型化、製品開発や製造での生産性の向上と多岐にわたる。さらに、信頼性の向上やシステムコストの削減も見込める。加えて、故障時のマイコンへのフィードバックやノイズの低減、ストレインインダクタンスの低減、EMIの低減、回路全体の温度の一括管理といった付加価値を作り込むことさえできる。

多彩な要素技術を全て保有

 より価値の高いIPMを作り上げるためには、パッケージ内に集積する一つひとつのデバイスの技術が優れていること、加えてそれらをまとめるパッケージ技術や回路技術、システム技術も優れていることが重要になる。つまり、広い分野の技術を高いレベルで取りそろえるメーカーだけが、価値の高いIPMを開発・供給できる。インフィニオンは、まさにこうした厳しい条件を満たす、数少ない企業である。

 IPMの中でコアとなる機能が、スイッチである。インフィニオンは、さまざまな要求に応えられる、多彩なスイッチデバイスを保有している。高短絡耐量、高速、低飽和電圧、小型化を目指した逆導通ダイオード内蔵(RC)といった多様な特長を持ったIGBT、または高速な内蔵ダイオード、高速で低損失なスーパージャンクションFET、SiCデバイスやGaNデバイスなどこれまた多彩なFETの数々。要求される動作周波数や電圧レンジなどに合わせて味付けしたスイッチデバイスの中から、最適なものを選んでIPMに盛り込むことができる。

 ドライバについても同様である。インフィニオンは、ハーフブリッジや3相ドライバなど、さまざまな用途の要求それぞれに、きめ細かく応えるドライバを保有している。レベルシフトの技術も、コストパフォーマンスに優れた接合分離型の他に、デバイス自体の信頼性をより高め、周辺部品の削減にも寄与するSOI(Silicon on Insulator)型も用意している。さらに、2チップ構成で完全に絶縁した構造を取り、なおかつ1200V、6Aまでの駆動能力を持つコアレス・トランスフォーマ(CT)型もある。

 マイクロコントローラでは、リアルタイム制御にも適用できるDSPやFPU、DMAといった機能を内蔵する「ARM Coretex-M4」を搭載した「XMC4100シリーズ」と、コストパフォーマンスに優れた「ARM Coretex-M0」を搭載した「XMC1300シリーズ」を持っている。さらに、モータの制御アルゴリズムを専用ハード化したエンジン「iMOTION」も、1個または2個のモータを制御する用途に向けて用意している。iMOTIONは、利用に際して複雑なソフト開発は不要であり、ユーザーインタフェースの開発だけで済む。比較的簡単に、システムを開発できる。

 パッケージに関しては、最大30Aまでの、さまざまな用途に適応できる技術を用意(図2)。小型の表面実装型を含むリードフレームタイプ、金属またはセラミックスの基板の上にチップをハンダ付けする基板タイプ、リードフレームにパワーデバイスを搭載し、基板には制御部を搭載するハイブリッドタイプがある。

図2 インフィニオンが用意するIPM用のパッケージ
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 インフィニオンは「CIPOS(Control Integrated Power System)」と呼ぶ3相モータ用のインバータやPFCへの応用を想定したIPMを投入している。サイズは36mm×21mm×3.1mmと小型である。基板タイプもしくはハイブリッドタイプのパッケージに、最低でも7個のデバイスを集積している。スイッチには、実績のあるIGBTを、ドライバには信頼性の高いSOI型を内蔵している。

IPMでインバータを隅々まで行き渡らせる

 藤原氏は、家電製品を中心に、IPMが製品開発の価値向上にどのように寄与しているのか紹介した。

 最初に紹介したのは冷蔵庫の例である。冷蔵庫のインバータは、低い周波数で動作しているものが多い。また、パワーが低いため、低電流で高い効率が得られるMOS FETがスイッチとして利用される。これまでは、部品コストの低減と2社購買体制を狙って、スイッチにはディスクリート製品が使われる傾向があった。しかし今後、規制強化によって力率改善回路(PFC)の利用に迫られるようになる可能性が高く、部品点数を削減できるIPMの利用が進むと思われる。

 次の例は、洗濯機である。洗濯機のインバータでは、制御の高速化を狙って、15kHz以上のスイッチング周波数で動かす場合が多くなった。主に日本市場向けの洗濯乾燥機では、ドラム、コンプレッサ、ファンをそれぞれ動かすモータを、個別に搭載する。そして、そのそれぞれでIPMが使われる。このうち、ドラムを回すモータを駆動するIPMには、スイッチング損失の低減が求められる。「CIPOSはこの点で、特に高い競争力を持っています」(藤原氏)。

 最後の例は、エアコン。エアコンには、コンプレッサ、室内機のファン、室外機のファンに、それぞれ個別のモータとIPMが使われている。スイッチング周波数は、5もしくは6kHzと低い。特に日本では通年エネルギー効率の向上を狙って、MOS FETを利用する場合が増えているという。さらに、PFCの搭載も求められる。

さらなる小型化を追究

 インフィニオンでは、さらに小型のIPM製品として、「μIPM」も投入している。出力の小さいエアコン用ファン、天井に付けるシーリングファン、空気清浄機、小型のポンプやコンプレッサなどへの応用を想定している。

 μIPMは、MOS FETとドライバが、12×12×0.9mmの小さなパッケージに集積されたものだ。μIPMのパッケージは表面実装型である。一般には、放熱性が悪いと思われがちだが、μIPMを搭載するプリント基板の銅箔を通常35μm厚であるものを70μmに厚くすることで、基板へと熱を逃がしやすくしている。効果的な放熱が実現することによって、効率は従来の表面実装型パッケージに比べて、23%向上する。さらに空冷すれば44%、無風でもグラファイトのフィルムで熱を逃がせば37%のパワーアップが実現するという。

 コントローラを内蔵した「Smart μIPM」も製品化している。シーリングファン用の基板は、μIPMでも基板面積を半分にできるが、Smart μIPMならば1/3にまで小型化できるとする。

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