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組み込み開発ユーザーの競争力強化に貢献

 「Renesas Synergy™」は、デバイス(マイコン)、ソフトウエア、ツールやキットをはじめユーザーサポートなども含めて組み込み開発を支える様々な要素を丸ごと包含した組み込み機器向け統合プラットフォームである。IoT(Internet of Things)など新しい概念の普及とともに加速する市場の変化に適応しようとしている組み込み機器メーカーに向けて開発したものだ。「開発期間短縮」「TCO(Total Cost of Ownership)削減」「開発着手時の障壁解消」の大きく三つの価値を組み込み開発の現場に提供する。

動作保証されたソフトウエア群を提供

 Renesas Synergy™プラットフォームを構成する要素は大きく五つある。「Renesas Synergy™ ソフトウエア」「Renesas Synergy™ マイクロコントローラ」「開発環境(ツール&キット)」「Renesas Synergy™ソリューション」「Renesas Synergy™ギャラリー」である(図1)。

図1 組み込み開発の現場が直面する三つの課題を解決
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 このうち、「開発期間短縮」に大きく貢献するのが、同プラットフォームのもっとも大きな特長となっている「Renesas Synergy™ ソフトウエア」である。これは「Renesas Synergy™ Software Package(SSP)」「Qualified Software Add-ons(QSA)」「Verified Software Add-ons(VSA)」の大きく三つのカテゴリのソフトウエアで構成されている。この中のSSPと呼ばれるソフトウエア群は、同プラットフォームの核として標準で提供され、同社が指定した開発環境における動作と性能が保証されている。QSA、VSAはSSPに機能を追加するアドオン・ソフトウエアである。SSPは、リアルタイムOS(RTOS)、アプリケーションフレームワーク、GUIライブラリ、IPv4/IPv6やTCP/IPなどの通信スタック、USBなどのプロトコルスタック、ファイルシステム、ハードウエア抽象化ドライバなど基本的なソフトウエア群のほとんどを網羅しており、これらをそのまま利用することで低層ソフトウエアの開発にかかる時間や工数を大幅に削減できる。同社の見積では、ドライバ開発、ミドルウエア開発、リアルタイムOSの実装、クラウド接続などに費やしていた時間を3分の1~4分の1に短縮できる。

 「TCO削減」については、組み込み開発に必要な要素を一括して提供していることがポイントとなる。デバイスだけではなくソフトウエアから開発ツール、メンテナンスやサポートにいたるまで組み込み開発に必要な要素は多岐にわたるが、Renesas Synergy™はそれらすべてを抱合したプラットフォームであるため、仕様検討や調達、メンテナンス/アップデートなどにかかる費用および時間を合理化でき、開発費、保守費といった、表立っては見えにくいコストを抑えることができる。

 さらに、同プラットフォームの高いスケーラビリティを利用して製品展開にかかるコストと時間を短縮することでもTCOが削減できる。例えば、Renesas Synergy™プラットフォームで提供している「S1(動作周波数最大32MHz)」「S3(同100MHz)」「S5(同200MHz)」「S7(同300MHz)」の4シリーズのマイクロコントローラの間では、SSPを利用して開発したソフトウエアは共通に使える仕様になっている。これによって効率良く品種展開や派生機種の開発ができる。

 「開発着手時の障壁解消」に役立つのが、登録制の専用サイト「Renesas Synergy™ギャラリー」(登録無料)である。Renesas Synergy™に関するすべてのソフトウエアやツールがダウンロードできることをはじめ、マニュアル類や各種サポートも提供している。RTOSや基本的なミドルウエアを含むSSPや開発ツールが無償で提供されるためそれらを個々に準備した場合にかかる初期費用が不要になり、開発着手時の導入費用の心配がなくなる。ソフトウエアのライセンス契約も同サイト内でのクリックラップで簡単に締結できるため、契約に係る煩わしさも大きく軽減される。

ハードウエアに不慣れなソフトウエア技術者でも短期間で開発

升方幹雄氏
ルネサス システムデザイン 第二開発事業部 IoTシステム開発部 技師

 Renesas Synergy™プラットフォームが提供する三つの大きな価値を具体的に示すため、同社は電子ドアロックシステムのデモセットを、同プラットフォームをベースに開発した(図2)。「Renesas Synergy™プラットフォームは、幅広いアプリケーションに対応可能です。今回は、既存の評価ボード『DK-S7G2』のPmod™インタフェースを利用してハードウエアを構成できるアプリケーションの例として、電子ドアロックシステムを選びました」(デモセットを企画したルネサス システムデザイン 第二開発事業部 IoTシステム開発部 技師の升方幹雄氏)。

図2 デモセットの構成
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  このドアロックシステムは、ドアハンドルの周辺に設けたタッチパネルに表示されたテンキーから暗証番号を入力すると、電動で解錠するようになっている。超音波センサーを搭載しており、人がドアに近づいたときだけタッチパネルが起動する。加速度センサーも搭載しており衝撃を検知した場合はアラームを鳴らす。また、同じくRenesas Synergy™を使い、スターターキット『SK-S7G2』上にモニターシステムを構築、操作した時刻、距離、イベント、動作状態などの情報をBLE(Bluetooth Low Energy)で送信する仕組みを実現。さらにスマートフォンの操作で解錠できるようにした。つまり、このシステムには、鍵の制御のほか、タッチパネルのGUI(Graphical User Interface)、無線通信などの多彩な機能が盛り込まれている。

 このシステムの開発を担当したのは入社2年目で、主にアプリケーション開発を担当するソフトウエア技術者の冨士原照久氏である。同氏は、ハードウエアの構築、ミドルウエアやドライバなど低層のソフトウエア開発にかかわった経験はほとんどなかった。

アプリ開発以外の時間はゼロ

冨士原照久氏
ルネサス システムデザイン 第二開発事業部 IoTシステム開発部

 開発に使用したツールは、ルネサス製のEclipseベースの統合開発環境「e2 studio」である。アプリケーション以外のソフトウエアは、すべてRenesas Synergy™ギャラリーからダウンロード。具体的には、SSPとして提供されているBSP(Board Support Package)やドライバなどを始め、Express Logic社のリアルタイムOS(RTOS)「ThreadX®」、GUIミドルウエア「GUIX™」、TCP/IPスタック「NetX™」などである。「煩雑なライセンス契約や購入の手続きは必要ありません。Renesas Synergy™ギャラリーからクリックラップ契約にてダウンロードすれば、すぐに開発を始めることができます。RTOS、ミドルウエア、ドライバ、BSP、開発ツールなどは、すべてRenesas Synergy™ギャラリーで揃います」(ルネサス システムデザイン 第二開発事業部 IoTシステム開発部 冨士原照久氏)。結局、今回のデモセットの場合、「マイコンの仕様調査」「ドライバ開発」「RTOS搭載」「ミドルウエア開発」といったアプリケーション開発以外の作業に要する時間はほぼゼロだった(図3)。「従来ならば約2ヶ月を要していた作業です」(冨士原氏)。

図3 開発期間を短縮して余裕あるアプリケーション開発が可能に
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ハードウエアや周辺機能を抽象化

 マイコンの仕様を調べる時間がかからないのは、Renesas Synergy™プラットフォームのAPI(Application Programming Interface)がアプリケーション開発に必要な機能を揃えているからだ。しかも、CPUや周辺機能を、HAL(Hardware Abstraction Layer)ドライバやRTOSが隠蔽しているので、アプリケーションからレジスタを直接操作することがない。「このためハードウエアやCPUのマニュアルをほとんど読まずに開発を進めることができました。また、APIはopen, read, write,…などのように抽象化されているため、UNIX/UNIX系プログラミング経験者にもなじみ深いAPIです。Linuxプログラミング経験がある私は、すぐにAPIの使い方が理解できました」(冨士原氏)。

 今回のデモセットの場合、タッチパネル、超音波センサー、BLEモジュール、加速度センサーといった四つのデバイスを使用しているが、マイコンの周辺機能のドライバ一式がSSPに含まれている。「このため、使用するデバイスの仕様調査や実装に集中することができました(冨士原氏)。

 タッチパネルの制御に必要なミドルウエアも、ドライバと同様にRenesas Synergy™ギャラリーに動作保証済みの形で揃っている。「タッチパネルの部分も、アプリケーションの開発に専念することができました」(冨士原氏)。

 アプリケーション開発以前の工程を大幅に短縮できたうえに、アプリケーション開発の期間も短縮できたと言う。「APIの使い方が理解しやすかったことなどから、当初の予定よりも前倒しで開発を進めることができました。その短縮できた期間を利用してスマートフォン用アプリも開発することができました」(冨士原氏)。

 IoTの普及などを背景に、組み込み機器の多様化は一段と進むと同時に、小回りの利く開発体制が、今後ますます求められるようになる見込みだ。こうした課題に直面している組み込み開発の現場にとって、効率的な組み込み開発を可能にするRenesas Synergy™は、不可欠と言っても過言ではない先進的な統合プラットフォームと言えそうだ。

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