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競争力のあるIoT機器や産業機器の設計に貢献

 ルネサス エレクトロニクスは、市場の変化にともなって多様化するユーザーの開発アプローチに合わせて大きく二つの方向でマイコンを展開している。一つは、IoTの普及とともに増えつつある「サービス起点のモノづくり」に取り組むユーザー向けの展開。つまり「開発期間短縮」「TCO(Total Cost of Ownership)削減」「開発着手時の障壁解消」といった付加価値を提供することを前提にハードウエア(マイコン)、ソフトウエア、開発環境を最適化したうえで、一つの統合環境プラットフォームとして提供する。主なターゲットは、IoTサービスを支える組み込み機器など、新しい分野の技術を導入する機会が多い一方で、開発効率を重視されるシステムの設計者である。具体的には2015年6月(日本では12月)に発表したリアルタイムOS(RTOS)ベースのRenesas Synergy™プラットフォームと、現在開発中であるLinux OSベースのRZ/Gプラットフォームである。

 もう一つの方向は、「機器の価値を追究するモノづくり」に取り組むユーザー向けの展開。つまり、組み込み開発の技術やノウハウをある程度蓄積しており、機能や性能を軸に製品の競争力強化に取り組む設計者に向けた展開である。デバイスの選定、ハードウエア設計、ソフトウエア開発まで一貫して手がける従来の開発フローを踏襲して組み込みシステムを開発する設計者が主なターゲットである。低消費電力マイコンRL78ファミリから高いパフォーマンスを発揮するRZファミリまで複数のマイコン・ファミリを中心に多様なソリューションを用意して、ローエンドからハイエンドまで幅広いアプリケーションを網羅する。この中で、ミドルレンジからハイエンドの幅広い領域を受け持っているのがRXファミリである(図1)。

図1 ルネサス エレクトロニクスの主なMCU/MPU ラインナップ
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互換性を確保して高いスケーラビリティを実現

黒田昭宏氏
ルネサス エレクトロニクス 第二ソリューション事業本部 インダストリ・ソリューション事業部 シニアエキスパート

 2009年に市場に登場したRXファミリは、産業用途から民生用途まで幅広い分野で採用されている。製品ラインナップが充実するにつれて、RXファミリの用途は一段と広がりつつあるという。「製品化当初は優れたパフォーマンスと信頼性が市場で高く評価されたことから、産業用アプリケーションでの採用が進みました。2015年以降は、ミドルレンジからローエンドを網羅する製品展開も進めてきました。それらの展開が進むにつれて、民生用アプリケーションへの広がりが加速しています。今後、IoT機器の普及とともに、この動きに拍車がかかると見ています」(ルネサス エレクトロニクス 第二ソリューション事業本部 インダストリ・ソリューション事業部 シニアエキスパートの黒田昭宏氏)。

 RXファミリには、大きく四つのシリーズがある。フラッグシップに位置づけられている高速かつ高機能を重視したRX700シリーズ(動作周波数240MHz)、品種が最も多いメインストリームのRX600シリーズ(同120MHZ)、低消費電力と高性能のベストミックスを追求したRX200シリーズ(同54MHz)、低消費電力を重視して設計したエントリシリーズのRX100シリーズ(同32MHz)である(図2)。これら四つのシリーズ間でピン配置や周辺機能の互換性を確保しているうえに、全シリーズに共通に使える開発環境も構築できるようになっている。つまり、ソフトウエアやハードウエアの設計資産を活用しながら、効率よく様々なシステムを開発できる環境を実現できるわけだ。

図2 RXファミリのラインナップ
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従来品の1.3倍の性能と2倍の電力効率

亀川秀樹氏
ルネサス エレクトロニクス 第二ソリューション事業本部 インダストリ・ソリューション事業部 産業ドライブ・ソリューション部 部長

 RXファミリの大きな特長は、CISC(Complex Instruction Set Computer)とRISC(Reduced Instruction Set Computer)の長所を兼ね備えた独自開発のCPUコアを搭載していることだ。独自コアならではの利点を最大限に活用し、高い電力効率と優れたパフォーマンスを両立させている。しかもRXファミリのCPUコアは、すでに第2世代に移行しつつあり、この特長は一段と進化している。「第1世代のRXv1コアはパフォーマンス重視の設計でしたが、2013年以降の製品に実装している第2世代のRXv2コアでは、市場のニーズに応じて『効率』を強化。サイクル性能を向上させることにより電力効率の向上を図りました」(ルネサス エレクトロニクス 第二ソリューション事業本部 インダストリ・ソリューション事業部 産業ドライブ・ソリューション部 部長の亀川秀樹氏)。

 パイプライン、DSP(Digital Signal Processor)命令、FPU(Floating Point Unit)命令の強化することなどによって、RXv2では4.55CoreMark/MHzと、RXv1コアの約1.5倍に性能を引き出した。RXv2コアのCoreMarkスコアを同じ動作周波数(120MHz)の他社製品と比較すると、RXv2は他社CPUの1.6倍と優れた演算能力を発揮している。さらに、電流当たりのCoreMark値を比較すると、RXv2コアは他社CPUの4.9倍にも及ぶ(図3)。「高精度のモータ制御のために必要なフィルタ演算やDSP処理についても、同じ動作周波数の他社製品に比べて約1.6倍の処理性能を実現できました」(亀川氏)。

 効率を強化したRXv2コアの設計は、IoTシステムのエッジデバイスにおけるセンシングシステムなど、バッテリで長期間にわたって稼働させる機器で威力を発揮する。こうした機器では、限られたバッテリの電力を有効活用するためにマイコンを間欠動作させることが多い。「RXファミリでは、スタンバイ電流を抑えながら復帰時間を短縮しました。10msの周期で間欠動作させたときのバッテリの持ち時間を、RX200シリーズの新製品RX231と同等の他社製マイコンで比較すると、RX231の方が最大で8倍も長くできるという結果が得られました」(亀川氏)。

図3 RXv2コア搭載製品とのCoreMark比較
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強力な周辺機能を豊富に用意

 RXファミリの特長でもう一つ見逃せないのが、マイコンに実装されている周辺機能が充実していることだ。例えば、ロボットのアプリケーションが産業用から家庭用へと広がる機運が高まるとともに重要性が高まっているモータ制御である。高度なモータ制御に欠かせないインバータ回路を構成するための周辺機能を搭載した品種を豊富に揃えている。これらの品種には、3相インバータ制御のための3チャネル同時サンプリング対応A/D変換器、CPUを介さずの外付けのホールセンサ入力のみで制御波形を自動出力する回路(PWM制御タイマ)などが組み込まれている。

 洗濯機、冷蔵庫、エアコンなどモータを搭載した家電製品において誤動作や誤操作が発生しても安全な状態を維持するためのフェールセーフをサポートする機能をハードウエアで実装した製品もある。この製品を使えば家電製品の安全規格「IEC60730 Class B」に対応した製品を効率よく、しかも合理的な形で実現できる。

 また、産業機器の機能安全規格「IEC61508 SIL3」に対応したシステムを開発する設計者のためには、マイコン故障診断ライブラリなど含む「セーフティ・パッケージ」や安全システム設計・認証の素材集「セーフティ・リファレンス・キット」が用意されている。「マイコンだけでなく、ハードウエア、ソフトウエア、開発環境まで含む包括的なソリューションをRXファミリと合わせて提供しています」(亀川氏)(図4)。

 産業用や民生用など幅広い分野で採用が進んでいるタッチキー。このタッチキー制御を実現するタッチIPを搭載した品種も用意している。「現在のところ、タッチIPを実装した製品を、RX100シリーズとRX200シリーズの中で、合わせて4グループで展開しています。これらの製品で、産業用、民生用、住宅設備、ヘルスケアなど幅広い分野のニーズに対応できます。同時に普及機から高級機まであらゆるグレードのニーズにも対応できるようにしました」(亀川氏)。実装されているタッチIPは、「自己容量」と「相互容量」の2種類の静電容量式検出システムのいずれにも対応できるように設計されている。しかも、ノイズ耐性や感度を向上する独自の工夫が盛り込まれている。「厚さ10mmのアクリル板や木材などを間に挟んでも高精度で操作を検出できるシステムを実現できます」(亀川氏)。タッチキーの評価に必要なツールなどを集めて同梱したタッチキー評価キットも用意されているので、高性能のタッチキーを利用した新機軸のHMI(Human Machine Interface)を効率よく開発することができる。

図4 モータ駆動システムの開発を支援する包括的ソリューション
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IoTをにらんだ高度なセキュリティ機能

 最新製品のRX231には、IoT機器に不可欠のセキュリティ機能を高度なレベルで実現するための「トラステッドセキュアIP」が組み込まれている。「低消費電力と高機能の両立が求められるIoTシステムのエッジデバイスは、RXファミリの需要をけん引するアプリケーションの一つとして注目しています。IoT機器向けに展開するならば強力なセキュリティ機能は欠かせません」(亀川氏)。

  トラステッドセキュアIPは、外部からの不正アクセスの有無が常時監視されている安全な領域を構築するためのIPである(図5)。同IPを利用することで、暗号鍵の管理を強化できる。例えば暗号通信、不正プログラムの実行を防止するセキュアブート、不正なプログラムのインストールを防ぐセキュア・アップデートといった動作では暗号機能を使う。ここで必要な暗号鍵データを、そのままマイコンの内部に格納しておくのはセキュリティ対策上、必ずしも安全とは言えない。そこでRX231では、暗号鍵データをそのまま格納するのではなく、デバイス固有の「ユニークID」と呼ばれるデータを使って暗号鍵を解読不可能な情報「鍵生成情報」という安全な形に変換したうえでフラッシュメモリ等の不揮発メモリ上に格納する。「鍵生成情報」を盗まれても暗号を解読することは出来ない。このように暗号鍵データを強固に守ることで、セキュリティ・システムの安全性は格段に向上する。

図5 トラステッドセキュアIPを利用した暗号鍵データ管理
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 市場の動向やアプリケーションの進化を先取りした特長を数多く備えたルネサス エレクトロニクスの汎用マイコンRXファミリ。IoT機器の普及によって、その特長を生かせる機会は、ますます増える。RXファミリの市場での評価はさらに高まりそうだ。

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