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IoTシステムの開発者の理想を具現化、産業・科学・生活を支える「Olive」

IoT(モノのインターネット)は極めて広い分野で応用が進み、産業、科学、そして生活まで大きな変革をもたらしつつある。こうした中、フィックスターズが開発したフォグコンピューティング向けサーバー「Olive」は、小さな筐体の中に、大容量フラッシュストレージと高速演算が可能なFPGA(大規模PLD)を搭載するという、一歩先ゆくスペックで、IoTシステムの開発者たちの注目を集めてきた。Oliveの魅力を紹介する連載の第3回は、最先端のIoTシステム中でのOliveの活用事例を紹介する。

 現在、ものづくりにまつわるIoTや人工知能(AI)の応用分野の中で最も熱いテーマが「予知保全」である。工場の中に置いた製造装置にセンサーを取り付け、そこで収集したデータを分析することで、不具合や故障の発生を事前に予知するものだ。

 工場で使う生産設備の不具合や故障は、多くの場合、突然起こる。予期せずこうした事態が起きると、原因究明や部品手配などに手間取り、長期間の操業停止を余儀なくされる。当然、メーカーが被る損害は大きい。これが予知保全によって、まだ動いている状態で予測できるようになれば、計画的な点検や修理を進められて、損害を最小化できる。

工場で予知保全を実証実験

 日本における第4次産業革命をリードする業界団体IVI(Industrial Value Chain Initiative)では、ものづくりとITの融合による基盤技術の創出と現場への実装を目指している。IVIには、日本のものづくりを担う194社(2016年12月1日現在)が参加しており、フィックスターズもそのメンバーである。

 IVIが検討する12のテーマの中でも、予知保全は日本の産業競争力の強化に直結するテーマとして、様々な議論と実証実験が精力的に進められている。現在、IVI内のワーキンググループの1つ「WG-2K02:みんなの予知保全」では20社が共同で、次世代センシング技術による予知保全データの活用というテーマで、実証実験に取り組んでいる。

 実証実験のスケジュールは2016年12月に開始し、2017年1月~3月に実用化検証、4月からは実用化展開する。予知保全システムを実際の工場の中に実装し、その有効性を検証するまでを行う。内容は工場内の生産工程の中から溶接、溶着、ロボット、加工など10の要素に分けて進める。また、次世代センシング技術としては、AEセンサーを活用したものが中心だ。AEセンサーとは、材料や構造物が変形・破壊する時に発生する弾性波を検出する検査装置である。これを使えば、破壊に至る前の原因となる小さな欠陥を見つけられる。Oliveは検査データを分析するシステムに採用された。

 実証実験は、予知保全に関心のあるメンバー企業とのマッチングを行いメンバー20社を中心に設定、課題を明確にしたうえで具体的なゴール(TO BE)を目指して実証検証を行う。まずは包装機械などを生産しているメンバー企業から実証検証を開始している。(IVI公開シンポジウム 2016年10月13日で紹介)

溶接工程での不良を非破壊で発見

 一般的に溶接工程での品質管理は、板材同士の溶接部分の溶け込み量の管理が要になる。ところがこれまでは、溶接した製品の一部を抜き出し、破壊検査しないと溶け込み量を管理できなかった。このため、溶接不良を見つけるため、抜き取りでの破壊検査を実施するのが溶接業界の常識であった。しかし、製品のすべての板材同士の溶け込み量を調べることはできない。それを補完するため、溶接の条件や目視での検査によって、溶接の合否を判定していた。これからは溶接不良の検査を全数に対して非破壊で行うべく匠のデジタル化が切望されていた。

 IVI活動の最初は「お困りごとシート」というものを各企業が出し合い、それを基に問題解決のためのビジネスシナリオを研究し、企業間を「ゆるやかな標準」でつながることを考えて、サイバーフィジカルな生産システムで各企業のバリューを高める活動を目指している。今回その一環として、IVIによる予知保全ソリューションの実証実験に参加している。

 工場への導入を検討している予知保全ソリューションでは、AEセンサーを使い、溶接時の溶け込み量を1サンプル当たり2μ秒~20μ秒でリアルタイム計測する。短時間なので全製品を対象にできる(図1)。

図1 溶接工程での実証実験に使った予知保全ソリューションのシステム構成例
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 IVIでは、1台当り約2Mバイト/秒でデータを取得することを想定している。このデータ量を工場全体の装置それぞれから取得すると、容量が大き過ぎてすべてをクラウドに上げることができない。このため、判断や学習などほとんどの処理を現場で実行する必要がある。そこで、AEセンサーで取得した膨大なデータを分析するシステム「EIS-AE-AI」を開発した。EIS-AE-AIは、Oliveの2.5インチフォームファクターにデータが全て収まるため、設置対象となる溶接機を改造することなくアドオンで取り付けられる。

ほとんどの処理を現場で実行

 収集したデータは、4段階の特徴抽出処理を、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)と強化学習を組み合わせたAIを使ってリアルタイムで実行する。こうした一連の処理は、EIS-AE-AI内に搭載されているFPGAで実行する。必要な情報をAIで自動的に切り出し、逐次処理することで、溶接異常をリアルタイムで判定する。

 開発した予知保全ソリューションの特徴は、AIを使った予知保全のための判断やAIの学習に、クラウド側の高性能なコンピューターをほとんど使っていないことだ。溶接機に1台ごとにEIS-AE-AIを設置し、その中のFPGAにAIを入れ、現場で学習し、現場で予知保全に向けた判定をしていく。

 溶接機に限らず、製造装置には同じ機種であっても個々に癖がある。しかも、加工内容によっては、一瞬で作業が終わってしまうため、その短い時間の中で不良を見つけなければならない。高いサンプリング周波数でのデータ取得と、その分析が必須になる。

 この実証実験で使った予知保全ソリューションでは、AEセンサーで検知したデータをEIS-AE-AIに長期保存し、これをビッグデータとしてAIに再学習させている。いわばAIを宿したフォグコンピューターを工場に置いていることになる。

 EIS-AE-AIを作るうえで、Oliveが採用されたのは必然だった。WG-2K02のファシリテータである東芝の松岡康男氏は、東芝でロボットなどの動作制御の学習に向けたAI技術「SolidMind」を開発している。そして、開発したAI技術をチップ化するための前段階として、FPGAに実装する状態にあった。さらに、学習用のデータを大量に蓄積しておくための、大容量ストレージが不可欠だった。このため、FPGAと高速・大容量なストレージを搭載し、なおかつセンサーも取り付けることができるOliveはうってつけのコンピューターだったのだ。

装置間、工場間をつないでさらに賢く

 将来的には、工場内に設置されているすべての工作機械、製造装置(例:溶接、溶着、ロボット、加工など)の間で、あるいは日本と海外を含む工場間をまたいでビッグデータを共有しながらAIが学習し、なおかつ装置1台1台が持つ特有の癖を反映させながら、異常判定のしきい値などを自動設定できるようになるという。その時、ビッグデータは上位階層のフォグコンピューターに保存する必要がある。松岡氏は、「さらに大容量で、低消費電力、高速通信が可能な『NEO-Olive』と呼べる新しいコンピューターが必要になります。クラウドを通さない自律型フォグコンピューターをフル活用する世界がまもなくやってくるでしょう」という。