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IoTシステムの開発者の理想を具現化、産業・科学・生活を支える「Olive」

慶応義塾大学 街中を動き回る清掃車を「社会の目」に、行政課題の解決を目指す「Olive」

 現在の自治体は、実に様々な行政課題を抱えている。地域社会では、ゴミの不法投棄や公共施設への落書き、インフラの老朽化など、対策すべき行政課題は山のようにある。その一方で、住民の高齢化が進むと共に、住民同士の結びつきが希薄になり、その分自治体の仕事が増えている。

 こうした現状を解消するため、地域社会で起こっていることをいち早く、正確に把握し、適切で効率のよい対応をしていくための仕組みづくりが求められるようになった。そして、地域社会から多種大量のデータを収集し、それを処理して生み出した価値ある情報を、地域へとフィードバックする地域IoT技術の活用に期待が掛かっている。

清掃車が街の状況を調べて回る

 慶應義塾大学 徳田・高汐・中澤研究室のグループは、藤沢市のゴミを収集する清掃車にセンサーを搭載し、そこで計測したPM2.5の濃度など地域の環境情報を可視化する実証実験「スマート藤沢プロジェクト」に取り組んでいる(図A)。

図A 清掃車にセンサーを取り付け街の状況をリアルタイムで把握
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 これまで藤沢市では、市内5カ所にある大気汚染物質濃度常時監視局で計測した環境情報を提供していた。しかし、大気の汚染状況は一様なものではなく、もっときめ細かい情報を提供したいと考えていた。だからといって、街中にセンサーを設置するようなコストの掛かる手法は使えなかった。そこに応えたのが、常に地域を動き回っている清掃車にセンサーを搭載するというアイデアだ。バスやタクシーなどに比べて、ずっと広い地域をきめ細かく、高頻度で動き回っている。地域情報の収集には打ってつけだった。

 慶應大のグループが開発したシステムでは、清掃車にGPSレシーバー、PM2.5濃度、紫外線、照度、加速度、地磁気などのセンサーを搭載し、1秒間に100回と高頻度で計測したデータをリアルタイムで収集。地図上に計測結果を表示する。収集できる情報は、これまでとはケタ違いに細かい。このため蓄積したビッグデータを解析することで、大気汚染情報以外の行政課題の解決にもつながるのではないかという期待が掛かる。つまり、清掃車を街の目や耳として活用しようという発想だ。

Oliveでさらに高度なサービスを提供

 今年の11月18日, 19日に開催された慶應義塾大学 SFC Open Research Forum (ORF)では実際にOliveを活用した同グループのデモが展示された(図B)。デモでは、インターネットへ接続したOlive内で、慶應大で開発されたセンサデータのリアルタイム流通基盤SOXFireを動作させ、事前に保存しておいた収集データを、SOXFireを介して送信した。このデータをPCで受信して可視化し、清掃車の位置や環境情報を細かく把握できることを示した。

図B 慶應義塾大学 2016年 SFC Open Research Forum (ORF)でのOliveのデモ 
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 将来は、環境情報を収集している現在の装置にOliveを追加することでさらに高度な行政サービスの提供につなげようとする構想が進んでいる。清掃車で収集した計測データをリアルタイムに送信するとともに、Olive内に1年分以上の計測データを蓄積し、それをその場で高度に処理して、市民の生活や行政の活動の支援に生かそうというものだ。こうした地域情報を収集しているエッジ側に大規模なストレージを備えて活用する事例はこれまでにない。そうした機能が低消費電力、省スペースで実現できれば、今後様々な応用が広がることだろう。


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