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精緻なCGで道路や天候を再現、自動運転機能向けの検証環境

自動運転機能の実用化が進む中、開発環境を提供するアドバンスド・データ・コントロールズ(ADaC)と、ゲームやCMなどの映像制作を手掛けるwise(ワイズ)が、自動運転のAIエンジンの網羅的な検証を実現する映像シミュレーターを開発した。画像認識ECUなどにCG 臭さのないリアルな映像を与えることができるほか、車両運動シミュレーターとの連動も可能だ。新会社のVERTechs(バーテックス)を通じて提供する。

 ADASや自動運転に関する機能の開発では、刻々と変化する道路状況や天候をどのように再現して検証を進めるかが大きな課題となる。基本的にはテストコースなどで一定の安全を確認したのち、それぞれの国や地域の機関が定めるガイドラインを順守したうえで公道テストを実施する。

 しかし、前方車両の急制動や歩行者の飛び出し、自転車のふらつき、強引な割り込みや幅寄せなど、突発的なシーンを網羅した機能検証も必要だ。こうした事故に直結しかねない条件の再現はテストコースでもなかなか難しい。さらに、雨、濃霧、雪、強烈な西日といった天候条件の組み合わせまで考えると、再現はほぼ不可能になってしまう。

自動運転機能向けの検証環境を提供

 こうした課題を解決すべく、自動車業界と太いパイプを持つアドバンスド・データ・コントロールズ(ADaC)と、映画やCM などの映像制作に多くの実績を持つwise(ワイズ)は、自動運転機能を対象に検証環境を提供するVERTechs(バーテックス)を2016年5月に設立した。

 その狙いについてADaC の代表取締役会長を務める河原 隆氏は次のように説明する。「自動運転の中核となるAIエンジンを進化させていくには、時々刻々と変化するさまざまな道路シチュエーションを網羅しながら開発と検証を進めていく必要があります。そこで両社の強みを融合して、高度なコンピューターグラフィックス技術を駆使した仮想的な検証環境を自動車業界のお客様に提供しようと、VERTechsを設立しました」。

 VERTechsでは次のようなソリューションの提供を予定している(図)。

図. VERTechsが提供するソリューションの構成
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(1)地図データや実写画像などを基に、実際の道路(例えば首都高速や銀座通り)を高精度にデータ化した、バーチャルなテストコース

(2)現実世界の代替としてAIエンジンの学習データとなる精緻な映像を生成する、リアルタイム映像シミュレーター

(3)車両シミュレーターやモデル記述言語と映像シミュレーターとの連動を実現する専用プラグイン

CG臭さのないリアルな映像を生成

 VERTechsのソリューションの中核を成すのが、AIエンジンの学習データとなる映像を生成するコンピューターグラフィックス技術である。従来技術に見られるいわゆる「CG 臭さ」がほとんどなく、自動運転機能の厳しい検証にも耐え得る精緻な映像を画像認識ECUに与えることができる。

 「自動運転機能の開発や検証を効率的に進めるには、道路状況や天候などのあらゆるシチュエーションを低コストかつ事故リスクなしで再現できる仕組みが必要です。従来のCG 技術を使ったソリューションは既に市場にありますが、現実世界の代替になり得る高品質なレンダリング処理をリアルタイムで実現したことがVERTechs最大の強みです」と、wiseの代表取締役およびVERTechsのCEOを務める尾小山良哉氏は説明する。

 具体的には、英Epic Games社が提供するゲームエンジン「Unreal Engine 4」を用い、物理ベースレンダリング法によって、現実に極めて近いCG 映像をリアルタイムに生成する手法を確立した。

 ちなみに尾小山氏は、実写映像を扱うCM 制作とCG 映像を扱うゲーム制作の両方の経験を持っており、そうしたノウハウを今回のソリューション開発に注いでいるという。

 生成した映像の品質についてADaCの福原隆浩氏は、「PSNR(Peak Signalto Noise Ratio)やSSIM(Structural Similarity Index for Image)などの画像評価指標を用いて、実写画像と映像シミュレーターで生成したグラフィックス画像とを比較するなど、類似性の検証を進めてきました」と説明する。

 なお、Unreal Engine 4では、単眼映像やステレオ映像のほかレンズの焦点距離(画角)や画素数などを、カメラプロファイルを用いて任意に設定できる。このため、クルマに搭載予定のカメラデバイスを模した映像を簡単に生成できる。

車両やAIエンジンのモデルとも連携

 ソリューションのもうひとつの特徴が、自動車業界で広く使われている米Mechanical Simulation 社製の車両シミュレーター「CarSim」や、米MathWorks社製のモデル記述言語「MATLAB/Simulink」、前記の映像シミュレーターを米EST社のESSE Systems Workbenchを用いて統合し、分散シミュレーションしたことだ。

 ADaC の中西康之氏は、「シミュレーターを使った検証サイクルにおいて、例えば生成した映像に映る前方車両をAIエンジンが認識し、ブレーキECUに仮想的に指令を出したときに、車両の運動モデルが減速しても、映像の動きに変化がなければシミュレーションのループは閉じません。それらを連動させて、『camera-in-the-loop』とでも言うべき環境を構築することが重要と考えました」と説明する。

 VERTechsは、さまざまな運動シミュレーターやモデル記述言語に対応した米Embedded Systems Technology社の統合環境「ESSE Systems Work bench」に着目。Unreal Engine 4用のプラグインの開発を共同で進めているという。

 「複数のCarSimとそれぞれのAIエンジンのモデルをESSE上に構築すれば、複数のクルマが動的に反応しながら走行している状態を作り出すことも可能です」と尾小山氏は説明する。

 なお、連動の整合性を高めるために、バーチャルなテストコースデータはCarSimとUnreal Engine 4 の双方に与える。

自動車業界から大きな期待を集める

 VERTechsではこうしたソリューションを2017年から順次提供する予定だ。特定の道路区間を対象にしたバーチャルなテストコースデータ作りも請け負う。また、映像シミュレーターの対象を、可視光線からミリ波レーダーやLiDAR(レーザーセンシング)へと広げていく考えだ。

 「VERTechsの取り組みはこれまで誰も成し得なかったイノベーションを引き起こします。自動運転車向けAIエンジンの開発だけではなく、建機、鉄道、航空、産業機器など、さまざまな分野のお客様にも活用していただきたいと考えています」と、河原氏は展望を述べる。

 現在、自動運転の実用化が一気に進もうとしている中で、安全性や信頼性に対して不安を感じる人も多い。時代の要請に応え、さまざまな運転状況を網羅的に再現し、膨大なシミュレーションを効率的に実行できるVERTechsのソリューションの重要性は、今後さらに増していくに違いない。

お問い合わせ
  • バーテックス株式会社
    バーテックス株式会社

    〒106-0047 東京都港区南麻布2-13-12 EM南麻布ビル

    TEL:03-4582-2014

    URL:www.vertechs.jp/

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