日経テクノロジーonline SPECIAL

コンピュテーショナル・デザインの到達度を示す事例が数多く紹介

日経ものづくり主催によるセミナー「これまでにない設計 コンピューターの設計は技術者を超えるか」が2016年9月26日に開催された。コンピューターを使った設計は、単なる図面引きやシミュレーションにとどまらず、設計の新しいインスピレーションを得るツールに変わろうとしている。「コンピュテーショナル・デザイン」といわれる、製品設計をコンピューター考えさせる時代が現実のものになってきたのだ。先進ユーザーと先進ベンダーによる講演では多くの事例が紹介された。

CAEの役割は設計支援から価値創造へ エンジニアの役割にも大きな変化
小石 正隆 氏
横浜ゴム
理事、研究本部 小石研究室 研究室長

 基調講演には横浜ゴムの研究本部で小石研究室 研究室長を務める小石正隆氏が登壇して、「横浜ゴムのこれまでにない設計への挑戦」と題し、同社がタイヤ開発に取り入れている多目的設計探査法を紹介した。

 小石氏は、CAE(シミュレーション)を設計支援ツールとして使うだけでは、ある条件での最適解は得られても新たな気付きや革新的な発想は生まれないと指摘。

 その代わりに同社が目指しているのが価値創造ツールとしての使い方であり、ひとつの手法として、独自の「多目的設計探査法」をタイヤ形状やゴム素材の開発に導入していることを明らかにした。

 具体的には、設計者がある問題設定を行ったのち、多数回のシミュレーション(多目的最適化)で得られた大量のパレート解を含むデータをデータマイニングにかけ、そこから設計の知見や発想を得て、設計開発の意思決定に反映しようという取り組みである。データマイニングでは、フィンランドのKohonen博士が提案した自己組織化マップにより高次元のデータを2次元として可視化したり、決定木と呼ばれる機械学習を用いて設計の知見を得るという。

 例えば、タイヤの開発では、転がり抵抗の最小化、横バネの最大化、縦バネの最小化、前後バネの最大化を目的関数として設定。自己組織化マップを使った可視化によって、転がり抵抗とバネ特性の関連性を得て、具体的な設計に反映するという流れになる。

 すでに同社は低燃費タイヤやスポーツタイヤの形状設計にこの手法を適用済みである。

 また同氏らは、タイヤの内側側面に突起(フィン)を設けて走行時の車体下面の乱流を減らし空気抵抗を低減するという、まったく新しい考えに基づいた「フィンタイヤ」の形状設計にも本手法を適用したところ、抵抗(CD)と揚力(CL)の双方の低減に成功したという(試作品は東京モーターショー2015に参考出品)。

 ゴム素材の開発においても、本手法を用いて充填剤の決定などを行っていると述べた。

 結びとして小石氏は、「CAEは単なる設計支援ツールではなくプロセスとプロダクトのそれぞれのイノベーションを実現する価値創造ツールと位置付けるべき」と述べる一方で、ツール任せでは期待した結果は得られないとも指摘。従来にない新たな発想や知見を獲得するためにも、解決すべき問題を明確に設定することがこれからのエンジニアが果たすべき重要な役割になっていくだろうと展望を示した。

金属3Dプリントは応力との戦い 造形時の予見が欠かせない
柳澤 郷司 氏
トリプルボトムライン
サステイナブルデザイナー、プラクティショナー

 3Dプリンターを活用したものづくりの事例が増えてきた。これに伴い、3Dプリンターならではの使いこなし術、課題と克服法といったものが着実に蓄積されつつある。3Dプリンターをフル活用して、これまでにない設計に取り組むトリプルボトムラインの柳澤郷司氏は、「ジェネラティブデザインによって導かれる新しいものづくりの未来」と題して、3Dプリンターの利用を前提とした設計での最新の知見を、事例を挙げながら紹介した。

 最初の事例は、金属3Dプリンターで製造した、Cerevo社から販売予定の自転車「ORBITREC」である。ORBITRECでは、ペダル軸、ステアリング軸などの要所に3Dプリンターで作成したチタン合金製の部品を使い、その間を炭素繊維強化樹脂(CFRP)製のパイプで接続した構造を採用した。自転車は規格化や標準化が進んだ製品である。ここに3Dプリンターで作った斬新な形状・構造の部品を持ち込むことで、イノベーションの創出を狙った。

 柳澤氏は「金属3Dプリントとは、全工程にわたって“応力”との戦いである」という。レーザー溶融によって作った部品には、造形時の熱による残留応力が発生する。これによって、精度の高い部品の製作が困難になるだけではなく、シワの発生、サポート部材の脱落、座屈などが起こる。

 こうした課題を解消して金属3Dプリントを活用するためには、設計段階で造形時の予見が欠かせない。トリプルボトムデザインでは、NTTデータエンジニアリングシステムズに協力し、造形時の応力変化を予見するシミュレーターの開発に携わった。解析データを基にして、応力を分散し、不良の発生を防ぐ構造を設計している。

 2番目の例は、自然現象で見られる形を照明の意匠に活用したものだ。流体力学の方程式に入力するパラメータを変えて、揺れる水面や波紋、渦などを再現し、これを吊り下げ照明のシェード内部の反射板の設計や、卓上灯の拡散板においてなるべく少ないLEDで満遍なく照らす設計に生かしている。これによって、魅力的な意匠と実用的な機能を兼ね備えた設計を実現している。

 こうした自然現象を生かしたデザインは、欧州企業などが取り入れているが、商品の表面を魅力的に見せるための味付けとして利用しているのがほとんどだった。この例では、意匠とともに、機能も同時に実現している点が特長である。トリプルボトムデザインでは、こうした手法で新規製品のデザインと制作を短期間で行っているという。