日経テクノロジーonline SPECIAL

5G開発は量産機開発に備えるフェーズに突入 テストでの課題を一掃するNIの第2世代VST

第5世代移動通信システム(5G)の技術開発が、いよいよ大詰めを迎えつつある。2020年のサービス開始を目指し、対応機器を開発するメーカーは、5Gで導入される高度な無線技術を、確実かつ効率よくテストできる環境の整備に着手すべき時期になった。5Gで導入される新技術は、高度であるだけではなく、極めて多様だ。個々の技術に対応したテストシステムを、それぞれ別途用意したのでは、テストコストが膨れ上がる一方である。こうした課題に応える高い汎用性と高度な機能・性能を兼ね備えたPXI計測モジュールが、ナショナルインスツルメンツ(NI)が提供する第2世代VST(ベクトル信号トランシーバ)「PXIe-5840」である。

 5Gの技術仕様の全貌が徐々に定まり、2020年のサービス開始を目指して標準規格策定に向けた検証作業が進められている。そして、5Gに対応した機器を製品化する各社は、市場投入する端末の開発で用いるテスト環境の準備に着手する時期に差し掛かってきた。

 5Gでは、3つのユースケースが定義されている。そして、いずれのユースケースにおいても、これまで以上に高度なテストを実施することになる(図1)。

図1 5Gの3つのユースケースで直面するテストの課題
[画像のクリックで拡大表示]

 1つ目のユースケースでは、データ伝送の高速化、大容量化を追求する。4Kの動画やバーチャルリアリティーで扱う大容量データを、セルラーネットワークで伝送する利用法を想定している。こうした5G対応機器の開発では、ミリ波や大規模MIMOの活用、高次変調方式の導入、帯域幅の拡大といった、高度な無線通信技術を確実かつ効率よくテストする環境が求められる。

 2つ目のユースケースでは、極めて多数の端末が同時にデータ伝送できる環境の実現を目指す。コンサート会場やスタジアムなど1つの基地局に数多くの端末がつながる状況や、IoTが本格化してセルラーネットワークにつながる機器があふれているような状況を想定している。このユースケースに対応した機器の開発では、端末数の増加を後押しできるような低価格化、ひいてはテストコストの削減や開発の効率化が必須になる。

 3つ目のユースケースでは、低遅延かつ高信頼性のデータ伝送でのセルラーネットワークの利用を目指す。遠隔手術や工場での監視システムなどミッションクリティカルなアプリケーションでの利用を想定している。これらのアプリケーションでは、手術ロボットや工場内の製造装置、工作機器でのデータ収集や制御と通信処理を連携させながら高い信頼性で動作することが求められる。そして、システムの開発では、無線機能と機器でのデータ収集、制御を組み合わせたシステムレベルでのテストが必須になる。これは前人未踏の高度なテストとなる。

5Gテストの技術要求に応える第2世代VST

 NIは、こうした5G対応端末の開発でのあらゆる技術要求に応えられるPXI計測モジュールを2016年に発売した。それが第2世代VST「PXIe-5840」である。

 VSTとは、ベクトル信号発生器、アナライザー、ユーザーが開発したテストプログラムの実行や収集した計測データの演算に利用できるFPGA、高速シリアル/パラレル・デジタルI/Oを1つのモジュールの統合した汎用計測器のことである。さまざまな計測器の役割を、たった2スロットの大きさのPXIモジュールに集約している。

  信号発生器とアナライザーが統合したことで汎用性が高まり、無線LANなど特定の無線技術のプロトコルテストだけではなく、同じハードを多様な技術のテストにも活用できる。テスト内容は、ソフトウエアを書き換えることによって自在かつ簡単に変更可能である。また、テストだけではなく、新たな無線通信方式を実装して試作機として動作させ、実証実験を実施することもできる。計測データの処理や試作機の機能の一部は、内蔵するFPGAをプログラムすることで、同じプログラムをCPU上で実行する場合と比較して格段に高速に実行できるようになる。

無線用テストの要所を押さえた仕様

早田 直樹氏
日本ナショナルインスツルメンツ マーケティングエンジニア

 NIのVSTは、2012年に第1世代機がリリースされて以来、多くのユーザーによってさまざまな用途に活用され、目覚ましい成果を上げてきた。2014年には帯域幅を80MHzから200MHzに拡大するマイナーアップデートがなされ、2016年に満を持して第2世代アーキテクチャーへと一新した。

 これによって、「汎用計測器としての機能と性能が大幅に底上げされ、特に5G対応の無線システムのテストに活用するとアップデートの効果が際立ちます」と日本ナショナルインスツルメンツ マーケティングエンジニアの早田直樹氏は言う(図2)。

図2 5Gのテスト課題を解決するために第2世代VSTで強化された項目
[画像のクリックで拡大表示]

 まず、瞬時帯域幅が1GHzに拡大した。これによって、キャリアアグリゲーション技術を例に取ると、アグリゲートするキャリアの数が従来よりも増大したシナリオでのテストに対応可能になった。5Gに先駆けてサービスが開始する「LTE Advanced Pro」では、アグリゲートできるキャリア数が32個に増える。そして、隣接キャリア同士ではなく、離れた帯域のキャリア同士を組み合わせる可能性が出てくる。広い帯域幅に対応した第2世代VSTでは、こうした変調信号を生成させてテストを実施できる。

  さらにパワーアンプ(PA)の入力信号に逆歪みを加えて、元々PAが持っている非線形性を打ち消し、出力信号の線形性を高める技術、デジタルプリディストーション(DPD)をテストするためには、無線信号の3~5倍の帯域幅に対応した計測器が必要になる。第2世代VSTならば、DPDを適用するために仮に入力信号の5倍の帯域幅が必要だとしても、入力信号の帯域幅を200MHzまで広げることができる。

  また、第1世代では65MHz~6GHzだった周波数レンジが、9kHz~6.5GHzへと広がった。これによって、次世代無線システムに必要なあらゆるRFテストをVST1台でカバーできるようになった。低周波数帯が広がったことで、航空宇宙向けのアビオニクス関係の信号を扱うテストにも対応する。高周波数帯では、6GHzギリギリで運用される海外の無線LANのチャネルを対象にDPDを適用するシステムのテストにも対応できる。

  さらに、アナログ性能が向上したことで、高度な変調技術のテストが可能になった。例えば、次世代無線LAN規格IEEE 802.11axでは、旧世代の規格よりも変調時のサブキャリアの間隔が狭く、同時に高次変調方式が導入される。こうした将来の変調技術のテストには、アナログ性能の高い計測器が欠かせない。第2世代VSTでは、IEEE 802.11axで求められるエラーベクトル振幅(EVM:障害がある状況での変調性能を示す指標)性能をきっちりと検知できる。

複雑なテストシステムをすっきり実現

 モジュールのサイズも、第1世代の3スロット分から2スロット分へと小型化した。これによって17スロット分を収納可能なPXIシャーシにVSTを8台搭載することが可能になり、8チャネルの入出力を持つ伝送システムを構築できるようになった。大規模MIMOやアダプティブアレイのテストシステムの小型化に寄与する。PXIシャーシ中のVST間の連携は、ソフトで簡単に同期させることができるため、システム構築が極めて容易になる。

 内蔵するFPGAは、第1世代よりも5倍大規模なものに変更され、これまでよりも複雑なリアルタイム信号処理をVST内で実行できるようになった。FPGA上で実行するプログラムを自由に編集できるメリットを活用することで、ミッションクリティカルなシステム統合テストにおいて、リアルタイム性が必要な処理をFPGAで実行させてテストできるようになる。もしくは、テスト時の計測データの信号処理をFPGAで実行することで、CPUよりもケタ違いに高速な処理ができる。例えばDPDに必要な演算では、CPUよりも300倍高速化する。

 そして、数々の機能と性能の向上を実現しながら、第1世代の優れた使い勝手を維持している。NIは、LabVIEW、C/C++、.NETのそれぞれでプログラムするAPIとして、NI-RFmxソフトウエアAPIを提供している。このAPIは、通信規格のテストを高精度で行ったり、処理を並列化して高速な計測が可能になるように最適化されている。Intel社がこれを用いてベースバンドトランシーバーの開発を短縮するなど、既にこのAPIを活用した多くの成功事例がある。

 第2世代VSTは、さまざまな先進無線技術を駆使する5Gに対応した端末の開発で用いるテスト環境に、必要な機能・性能と、他に替わるものがない柔軟性をもたらす。その高い汎用性は、より広範な機器の開発を効果的に進めるうえでも強力な武器になることだろう。

PDFダウンロード
お問い合わせ
  • 日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
    日本ナショナルインスツルメンツ株式会社

    東京都港区芝大門1-9-9 野村不動産芝大門ビル8・9F

    TEL:0120-108492

    FAX:03-5472-2977

    URL:http://ni.com/jp/