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インダストリアルIoTの実現に向けてNIとHPEが提携、予知保全など先進的応用がより身近に

インダストリアルIoT(IIoT)の実現に向けて、ナショナルインスツルメンツ(NI)と、ヒューレット・パッカード エンタープライズ(HPE)が提携した。工場や産業プラント、社会インフラなどでのIoTの代表的活用法として、「予知保全」に注目が集まっている。ところが実現には、投資体力の高い大企業が導入する、高価なシステムが必要だった。2社の提携によって、IIoTシステム構築に必要な要素をすべてそろえたプラットフォームが出来上がった。予知保全などIIoTの利用が、これまで以上に広く普及していくことだろう。

岡田一成氏
日本ナショナルインスツルメンツ
マーケティング部
シニアテクニカルマーケティングマネジャー

 IIoTのアプリケーションの中で、特に予知保全に注目が集まっている。予知保全とは、センサーを活用し、工場で稼働している製造装置や工作機械、検査装置、ポンプなどが不具合や故障を起こす前に察知する仕組みのことである(図1)。

 予知保全に注目が集まる理由は、「ものづくりやプラントを運営している企業にとって、経営上のインパクトが極めて大きいからです」(日本ナショナルインスツルメンツ マーケティング部 シニアテクニカルマーケティングマネジャー 岡田一成氏)。

 装置や設備の不具合、故障が不意打ちで発生すると、修理・復旧までの期間が長引くばかりか、停止中の事業機会も逸してしまう。コンサルティング会社であるHydrocarbon Publishing社の調査では、「予期しない運転停止やずさんな保守計画によって、世界の装置産業に掛かるコストは、毎年200億米ドルに達する」と試算している。

図1 工場やプラントの設備が不意打ちで故障すると多大な損害が出る
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 近年、予知保全を実現できるITソリューションが、多くのIT企業から相次いで提案されるようになった。ただし、実際に現場の実情に合ったシステムを構築するには、多くの課題が残されているようだ。

 予知保全の実現には、ビッグデータ解析を駆使してデータから不具合や故障を予知する「IT(Information Technology)」と、現場に根差した計測・制御システムに代表される「OT(Operation Technology)」の統合が欠かせない。しかし、実際にITとOTとを統合しようとして、ITシステムと計測システムをネットワークで接続しただけでは、求めるような予知保全システムは実現しない。

センサーデータは意外と大容量

ITとOTの統合がなぜ難しいのか。それは、「今までIT企業が扱ってきたPOSデータやインターネット上のビッグデータの解析方法と、多数のセンサーから収集されるビッグデータの解析方法が違うことに原因があります」(岡田氏)。例えば、ポンプの予知保全をしようとした場合、思いのほか計測データ量が莫大となり、分析自体が難しくなる傾向がある。

 こうした違いを把握しながら、不具合や故障のわずかな予兆を探るためには、温度、圧力、流量、振動、電力など、多角的にデータを取得して、1台1台の状況をつぶさに把握する必要がある。ある事例では、データの総量が、ポンプ1台当たり毎秒2.5Mバイトにもなる。これをそのままサーバーに送り、解析することは事実上できない。ネットワークの帯域幅は有限であるからだ。

IoT時代では、ビッグデータの解析が価値を生み出すと言われている。ところが、ビッグデータの源泉はセンサー計測から得られるデータだという事実に、多くのIT企業やユーザーは気づいていない。「予知保全を行うIoTシステムでは、各種センサーを用いた高確度な計測と、計測データの取得現場で演算処理を行うエッジコンピューティングが欠かせません。例えば、取得したデータの平均値やピーク値、周波数解析後の特定のスペクトラムの値だけを送る仕組みが求められます。また保全対象となるハードウエアの事を熟知したエンジニアを交えた上でのデータ解析が極めて重要になります」(岡田氏)。

インダストリアルIoTシステムに必要な要素が揃った

ITの分野でサーバーの供給ではトップクラスのHewlett Packard Enterprise(HPE)社と、OTの分野で柔軟性の高いプラットフォームとエコシステムを持つNIが、IIoTの実現に向けて提携した。狙いは、ITとOTとを統合したシステムプラットフォームとエコシステムを提供することだ。既に、IIoTシステムの構築に必要な要素を備えた製品をそれぞれ投入した。

 IIoTシステムには、次のような4つの要素が必要だ(図2)。①業界を超えた協力体制、②センサー計測時の課題を解決する技術、③センサー計測後の課題を解決する技術、④ITとOTの統合である。

図2 IIoTに必要な要素
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 このうち、②は複数のセンサー間での同期計測技術やエッジコンピューティングがそれに当る。また③は計測後の大量データの表示や管理の問題のことである。例えば、赤外線サーモグラフィーのような画像データと加速度センサーの波形データを同時に表示しようとすると、表計算ソフトでは実現できない。しかしながら②と③の課題はNIが得意とする分野であったが、①と④の課題は、これまで足りない要素であった。これを埋めるのが、今回のNIとHPEの協業であり、ITとOTとの統合を実現するものである。

 HPEは、IIoTに向けた新しいプロダクトラインのサーバー「Edgeline」を開発し、市場投入した。通常は温度管理が行き届き、振動のないサーバールームに置くような高性能な製品を、工場など現場に設置して利用できるようにした製品である。また、セキュリティー上、ネットワークに流したくないデータも現場で処理できるというメリットもある。しかもPXI Expressスロットを備えているため、ここにNI製の計測ハードウエアを挿入して使うこともできる。

IIoTが手軽に活用できる技術に

既に、NIとHPEの協業による応用事例も出てきている。NIとHPE、さらに機械学習などを含むIoTアプリケーションの開発プラットフォーム「ThingWorx」を提供するPTC社、そして応用分野での専門知識を持つ大手ポンプメーカーであるFlowserve社の4社で、ポンプでの予知保全システムのデモを共同開発した(図3)。

 開発したシステムでは、ポンプに設置した各種センサーから取得した1台当り毎秒2.5Mバイトのデータを、NIの「LabVIEW」と「CompactRIO」でエッジコンピューティングする。これによって、データを毎秒80kバイトまで絞り込む。そして、HPEのEdgelineサーバーに送り、その上のPTCのThingWorksで機械学習と故障予測をする。

図3 NI、HPE、PTC、Flowserveの4社でポンプの予知保全システムのデモを開発
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 これまで予知保全のような高度な機能を持ったIIoTシステムは、豊富な資金でシステムを作り込める大企業だけが利用できるものだった。NIとHPEの協業によって、中小企業でも導入できるほど身近なものになったと言える。

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