日経テクノロジーonline SPECIAL

テストに柔軟性をもたらすPXIとLabVIEWが仕様策定を目前にした5Gの社会実装を加速

David A. Hall氏
米National Instruments社Principal Product Marketing Manager

第5世代移動通信(5G)の仕様策定が、目前に迫っている。5Gでは、ユースケースごとに高度なワイヤレス通信技術を使い分けることになる。このため、さまざまな技術を迅速かつ低コストでテストできる仕組みが求められている。また、4.5Gや無線LANの将来版などに、5G向け技術が先行投入されている。先行規格向けから5G向けへの円滑なテストシステムの更新も重要になっている。ナショナルインスツルメンツ(NI)は、多様化と継続的な進化を続けるワイヤレス通信技術を、効果的かつ効率的にテストする柔軟性の高いソリューションを提供。さらに5G対応を推し進めた新製品も投入した。同社Principal Product Marketing ManagerのDavid A. Hall氏に、5Gの規格策定に向けた現状と、そこでのNIの貢献を聞いた。

 5Gの仕様策定がいよいよ目前に迫り、ミリ波通信や大規模MIMOなど高度な技術の検証作業が精力的に進められている(図1)。既に米国の大手通信事業者であるVerizon Communications社は、「5G Technology Forum」に参加する企業と共に仕様策定作業を完了。2017年から28GHz帯を用いた5Gの商用サービスを開始すると発表している。その他にも多くの企業が、5Gで導入を予定している技術の実証実験に取り組んでいる。

図1 5Gのサービスインに向けたタイムライン(2016年現在)
[画像のクリックで拡大表示]

 5Gに投入されるワイヤレス通信技術は、以下の二つの点に留意して研究・検証・開発・実装が進められている。一つは、無線通信のユースケースごとに適切な技術を選定し、使い分けること。もう一つは5Gの世代で多様な新技術を一括導入するのではなく、徐々に新技術を事前投入していくことである。多様な技術への対応、継続的に進化し続ける技術にいかに対応するかが、5Gに投入する技術の研究・検証・開発・実装を進めるうえでのポイントになっている。

3つのユースケースそれぞれで仕様策定

 まず、5Gの特徴の一つであるユースケースの多様化についてみてみよう。

 スマートフォンでの動画鑑賞やIoT関連機器でのデータ収集、工場施設や社会インフラでの機器間データ伝送など、ワイヤレス通信の利用シーンは日増しに多様化している。ワイヤレス通信技術の進化は著しいものの、すべてのユースケースの要求に対応できる万能の技術はなくなった。際立った特徴を持つ技術を、ユースケースに合わせて使い分ける必要が出てきているのだ。

 こうしたワイヤレス通信での時代の要請と技術トレンドを鑑みて、国際電気通信連合(ITU)は、「IMT-2020」として三つのユースケースに整理。5Gで求められる技術要件を明確に定義した(図2)。

図2 5Gで想定している三つの利用シーンそれぞれに対応する規格を策定
[画像のクリックで拡大表示]

 三つのユースケースとは以下のようなものだ。一つ目は、高速大容量のデータ通信「eMBB(enhanced mobile broadband)」。高解像度動画や仮想現実(VR)などのアプリケーションの実現に向けている。二つ目は、極めて多くの機器を対象にした低消費電力・低コストのデータ通信「mMTC(massive machine type communication)」。広域でのIoT機器のネット接続を想定している。三つ目は、リアルタイム性の高い低遅延かつ高信頼のデータ通信「uRLLC(ultra-reliable low latency communication)」。Industry4.0やIndustrial Internetなどに関連した、工場設備や社会インフラでの機器間通信への応用を想定している。

高度な先端技術を逐次導入

 次に、5Gのもう一つの特徴である技術の継続的な進化についてみてみよう。
 5Gでは、さまざまな新技術の投入が予定されている。しかも、投入予定の技術は多様であり、しかもそれぞれが極めて高度だ。こうした尖った先端技術を一度に大量導入して、一つのシステムとして機能させることは極めて困難である。

 そこで、先端技術の大量投入による開発現場や市場の混乱を緩和させるため、現状世代の携帯電話標準の発展版である4.5G(図3)、狭域無線通信であるIEEE 802.11(いわゆる無線LAN)の次世代版(図4)に5Gにつながる先端技術を先行導入。そこでの実績を発展させるかたちで5Gに導入する手法が採られている。

図3 4.5Gでは、3つの利用シーンそれぞれに対応する先端技術を投入
[画像のクリックで拡大表示]
図4  IEEE802.11も、利用シーンを細分化して進化
[画像のクリックで拡大表示]

 4.5Gでは、5Gと同様に三つのユースケースを想定して、それぞれに合った技術標準が策定されている。2016年3月に策定された「LTE Advanced Pro(3GPP Release 13)」では、データレートの向上を狙って、最大32個のキャリアアグリゲーション、3次元のビームフォーミングが可能なMIMOなどを採用する。また、IoT機器に向けた低消費電力化での広域無線通信を目指す「NB-IoT(3GPP Release 13)」、コネクテッドカー向けの「Cellular-V2X(3GPP Release 14)」でもそれぞれの利用シーンに合った先端技術を投入する。

 IEEE802.11も、利用シーンを細分化して進化させている。車車間や路車間での高信頼性無線通信への利用を想定した「IEEE 802.11p」、60GHz帯のミリ波を利用して10mまでのデータ伝送で最大7Gbpsを目指す「IEEE 802.11ad」、デジタルテレビ放送に移行した後の空きチャネル(ホワイトスペース)を有効利用する「IEEE 802.11af」、膨大な数の機器を対象とする低消費電力のIoT機器向けの「IEEE 802.11ah」の仕様が既に策定された。加えて、ミリ波通信を300~500mで20Gbpsのデータ伝送を可能にするまで進化させた「IEEE 802.11ay」、駅、空港、競技場など多数のユーザーが高密度で集まる状況での平均スループット向上を目指す「IEEE 802.11ax」など、さらに進んだ規格も策定中である。

 そして、それぞれの規格には、想定しているユースケースに合った先端ワイヤレス技術が投入される。

5Gは2段階でサービスイン

 5Gの規格策定も二つのフェーズに分けて進められ、サービスインもまた2段階で進む。つまり、5G自体も逐次進化していく。

 フェーズ1で扱う仕様は、2018年9月に3GPP Release 15として策定される予定で、2020年までのサービスインを目指している。有望視されている周波数帯は、3~40GHz帯であり、帯域幅は200M~800MHzになる。LTEと同様の波形であるOFDM、SC-FDMAを採用し、1m秒未満の遅延実現を目指する。韓国では28GHz帯を使って2018年のサービスインを目指している。

 フェーズ2で扱う仕様は、2019年12月に3GPP Release 16として策定される予定で、2021年までのサービスインを目指している。フェーズ1よりもさらに野心的な先端技術の導入が想定されている。40~100GHz帯の利用を検討しており、帯域幅は500M~2GHzまで向上する。新たな波形であるFBMC、GFDM、NOMAなどの採用が検討されており、さらにTDDの導入も有力視されている。

5Gのテストにはイノベーションが欠かせない

 5Gの研究開発から導入までのプロセスでは、基礎研究やアルゴリズムの試作、高周波回路設計、デバイス特性評価、RF素子の製造テスト、ワイヤレステストなど、さまざまなテストを実施することになる。その時、「多様な先端技術を迅速かつ低コストでテストできる仕組み、また継続的に進化し続ける技術にタイムリーに追随してテストできる仕組みが欠かせません」とHall氏は言う(図5)。

図5 5Gのユースケースが示唆するテストの課題
[画像のクリックで拡大表示]

 こうした5Gの実現を支えるテストシステムの構築には、イノベーションが求められている。検証する技術に合わせて適宜信号発生器や計測器などを集め、組み合わせる従来の構築手法では、検証すべき技術の多様化と継続的な進化に対応できなくなっているからだ。

 検証対象となる技術やシステムが多様で複雑であるため、テストシステムの構築に要する時間が長期化し、コストも増大している。その一方、あらゆるモノをインターネットにつなぐ時代の到来を備えて、テストコストが端末の価格上昇を招くようなテスト手法は許されなくなっている。また、検証すべき技術の仕様は、目まぐるしく進化しており、テストシステムの構築に長い時間を費やすとタイムリーな対応ができなくなる。

 さらに検証の対象となる通信技術の高度化と複雑化はとどまることがない。GHzオーダーの広帯域信号の扱い、大規模アンテナアレイの制御、ミリ波帯への対応、高次変調方式の導入、低遅延で確定性の高いシステムの実現など、実現難易度の高い技術の導入が目白押しである。当然、テストシステムにも、こうした高度な技術のテスト要件に対応できる進化が求められる。

高度で柔軟な5Gテストのプラットフォーム

 5Gの研究・検証・開発・実装でのテストを、効果的かつ効率的に進めるため、NIはテストや計測、制御に向けたオープンプラットフォーム「PXIプラットフォーム」と、システム開発ソフト「LabVIEW」で構成する柔軟な計測ソリューションの利用を提案している。さらにNIは、PXIプラットフォームの中核ハードとなるテストモジュール「ベクトル信号トランシーバ(VST)」を刷新。5Gでの技術要件に対応できる機能と性能を備える第2世代VST「NI PXIe-5840」を投入した(図6)。

図6 5G関連技術の開発に対応する第2世代VSTを投入
[画像のクリックで拡大表示]

 例えば、4.5GのLTE-Advanced Pro、IEEE 802.11ax、そして5Gでは、マルチアンテナを活用する複雑なMIMO技術を採用し、高いデータレートやビームフォーミングによる堅牢な通信を実現する。こうした通信システムでは、通信ポート数が増加するだけでなく、複数チャンネルを同期動作させることが重要になる。これをテストするRFテストシステムでも、複数のRF信号発生器やアナライザを同期させて動作できることが必須になる。

 第2世代VSTでは、こうした要求に応えることができる。ベクトル信号発生器、ベクトル信号アナライザ、ユーザープログラマブルFPGA、高速シリアル・パラレルデジタルI/Oなどさまざまな計測コンポーネントがたった2スロットのPXIモジュールに統合。18スロットのPXIシャーシ1台に最大8つの第2世代VSTを収容して、VST間や他のPXIモジュールとの間で正確に同期を取ることができる。

 また、高度で多様なワイヤレス機器をテストするとき、テストの目的や対象に合わせて計測性能を高めるための計測プログラムのカスタマイズが欠かせない。従来は、計測器ベンダーにファームウエアのカスタマイズを依頼して対応していた。NIのソリューションでは、LabVIEWを用いてユーザーの手元で簡単にカスタマイズできる。そして、第1世代比で4.7倍に大規模化し、より高度な計測プログラムを処理可能になったFPGAを搭載しているため、技術の進化に追随して、最小限の作業で高度なテストシステムへと更新することができる。

 また、最先端のワイヤレス通信技術では、より広い帯域幅でチャネルを使用することで、ピークデータレートを向上させている。例えば、IEEE 802.11axでは帯域幅を160MHzに、LTE-Advancedでは同100MHzに拡大している。4.5GのLTE-Advanced Proや5Gでもこの傾向は変わらない。加えて、こうした広い帯域幅に対応するRF回路で使われる半導体をテストする場合、規格上の帯域幅を上回る帯域幅での信号評価が求められるようになった。

 例えば、IEEE 802.11ac/ax(160MHzの信号)向けのパワーアンプ(PA)で非線形性の補償技術「デジタル・プリディストーション(DPD)」を適用する場合、PA自体の帯域幅の3~5倍に当たる800MHzでテストする必要がある。第2世代VSTならば、帯域幅が第1世代の200MHzから1GHzへと拡張されているため、こうした要件を満たす。

5G開発のリーダー企業がNIユーザー

早田直樹氏
日本ナショナルインスツルメンツ マーケティングエンジニア

 NIのソリューションは、「日本のNTTドコモをはじめ、Nokia社、Intel社、Samsung Electronics社、Facebook社など、5Gの技術開発をリードする数々の企業や、大学などの研究機関が利用しています」と日本ナショナルインスツルメンツ マーケティングエンジニア 早田直樹氏は語る(図7)。

 例えばIntel社は、4.5Gのトランシーバチップの技術開発で、PXIプラットフォームを活用している。3G対応のモデムチップでは、対応するバンドは3~4バンドにすぎなかったが、最新のモデムチップでは33バンドに対応しているという。今後はさらに増えていくことは確実だ。こうした状況に対応するには、テストを効率化する新たなテスト手法の導入が必須になる。

図7 5G関連技術の開発をリードする企業や大学がNIのソリューションを採用
[画像のクリックで拡大表示]

 Intel社では、NIのソリューションを活用することで1週間掛かっていたテストを2日で終えられるようになった。また、設計を更新しても、プログラムを書き換え、不足するハードだけを導入するだけで新たなテストシステムを構築できることから、数百万米ドルのコストを削減できたという。加えて、テストカバー率も上がり、これが品質向上に寄与しているともいう。第2世代VSTの登場で、より複雑なキャリアアグリゲーションのシナリオを高速でテストできるようになるとする。

 「NIがRF計測の分野に参入して、20年ほどしか経っていません。しかし、ワイヤレス通信の技術開発をリードする名だたる企業や大学が、NIのソリューションをフル活用して大きな成果を挙げています。4Gより5Gと、世代が進むごとに存在感が大きくなっていることを実感しています」とHall氏は言う。ワイヤレス通信の分野では、今後も技術の多様化と継続的な進化が進む。そうした中、高度な柔軟性を備えるNIのソリューションの価値は高まる一方である。

PDFダウンロード
  • 第5世代移動通信(5G)に向けた技術革新はさらに加速している―自社技術を効率的に展開する戦略とは?
    知っておくべき最新動向と成功事例

     2020年の実用化に向け世界各国の研究開発機関や企業が「第5世代移動通信システム(5G)」の技術開発を加速させている。その変化に対応し、自社の技術を効率的に展開するには何が必要か?本資料では、前半にて、5Gでの採用が有望視されているミリ波通信の技術検証に不可欠な「ミリ波トランシーバシステム」や、現在標準化が進められている次世代無線LAN標準規格「IEEE802.11ax」などの最新技術動向を紹介する。後半では、5Gの基礎や技術課題、5G実現のカギとなる4つの重要技術(新しい信号波形、ネットワークの高度化、Massive(大規模) MIMO、ミリ波通信)について事例を交えて解説する。

     4Gなど以前のシステムに比べて、より複雑になった5Gのシステム開発では、実証実験の重要性が増している。本資料を提供するナショナルインスツルメンツでは、試作プラットフォームの提供を通じ多くの実証実験に関わっている。その多くの実績をもとに、5Gに関する基本的な情報のみならず、実用化に向けた技術課題に加え、業界で注目を集める世界各国の最新事例を詳しく解説している。ワイヤレス技術開発に関わるエンジニアにとって、本資料は開発の最前線を素早く把握することができる一冊である。

お問い合わせ
  • 日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
    日本ナショナルインスツルメンツ株式会社

    東京都港区芝大門1-9-9 野村不動産芝大門ビル8・9F

    TEL:0120-108492

    FAX:03-5472-2977

    URL:http://ni.com/