日経テクノロジーonline SPECIAL

Vol.02 電子機器事業の戦略部品、圧接コンタクト

近年、電子機器に組み込むプリント配線基板の設計では、高速化、高信頼性化、小型化への対応が難しくなってきた。こうした中、アルプス電気が開発した新発想の圧接コンタクト(micro clip)は、どの部分で、どのような効果を発揮できるのか。電子機器設計を熟知する各方面の専門家とアルプス電気の技術陣が会して、その適性と可能性を徹底討論した。歯に衣着せぬ質問を投げかけたのは、数々の電子機器を分解した経験を持つ技術解析の専門家である柏尾南壮氏、高速動作や高信頼性が要求される機器設計で豊富な経験を持つノイズ対策の専門家である久保寺 忠氏。加えて、熱対策の専門家である国峯尚樹氏も質問状を寄せた。百戦錬磨の専門家の眼には、圧接コンタクト(micro clip)はどのように映ったのか。討論の様子を2回に分けて克明にレポートする。

伊藤 圧接コンタクト(micro clip)は、電子機器のプリント配線基板間をつなぐ、新発想に基づくコンタクトである。その構造と特長は、既存のコンタクトやコネクタとは異質だ。近年の電子機器の設計について熟知する専門家の皆さんにお集まりいただいた。圧接コンタクト(micro clip)を開発した技術陣と議論し、その応用適正や将来の可能性を探りたい。

既存圧接コンタクトに対する利点

柏尾南壮氏
フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ ディレクター
久保寺 忠氏
システムデザイン研究所 代表取締役

柏尾 最近のスマートフォンを分解すると、アンテナやバッテリーなどを接続するために、圧接コンタクトが数多く使われている。圧接コンタクト(microclip)は、こうした既存の圧接コンタクトに比べてどこが優れているのか。

横田 現在のスマホの中には、金属板をくの字形に折り曲げた板バネ式コンタクトが使われている。設置領域は比較的大きく、上下方向の動きは吸収できるが、前後左右に力が加わると接点がズレてしまう可能性がある。これに対し、圧接コンタクト(microclip)は、らせん状のバネを2重に並べた独自構造によって接点を支え、振動や衝撃を吸収するフローティング状態を実現している。この構造によって、小型化と圧倒的な高信頼性を兼ね備えた。

川端 スマホでは、筒状の中にコイルバネが仕込まれ、そこに砲弾状の端子がついたプローブピン型の圧接コンタクトも使われている。プローブピン型のコンタクトは、垂直可動するプランジャー部とバレル部とに分かており、電流容量も小さいものが多い。圧接コンタクト(micro clip)は、1部品で直接接続するため、3Aまでの電流を極めて安定的に流すことができる。その他、薄型のスマホなどへの応用に欠かせない低背の部品を作ることができる点も利点だ。

柏尾 スマホでは、薄型化に向けて、フレキシブル基板の上に多くの部品を乗せるようになった。圧接コンタクト(micro clip)は、リジッド基板対金属筐体にも、リジッド基板対フレキシブル基板にも使える。薄型化に寄与する非常に汎用性が高い部品になる可能性がありそうだ。

任意の場所で接続できるメリット

田辺義雄氏
アルプス電気株式会社
技術本部 C5技術部 部長
川端隆志氏
アルプス電気株式会社
第3グループ グループマネージャー(課長)

久保寺 2枚のプリント配線基板を重ね、その間をつなぐ場合、これまでは基板の縁の部分にコネクタを置き、そこまで配線を引き回す必要があった。こうした設計は配線が長くなりがちで、ノイズ対策の面からできれば避けたかった。圧接コンタクト(microclip)は、基板間接続したい場所に置くことで配線長を短くできる可能性がある。これは、極めて魅力的な特長だ。

 ただし、こうした小さな部品が求められる機器では、基板自体も0.4〜0.5mm厚と薄いものが使われることだろう。薄い基板間を接続する場合、一点に荷重を掛けることで、基板が反ってしまう可能性があるのではないか。

横田 確かに、狭い領域に数多く配置してしまうと荷重が大きくなり、基板が反るケースもあるだろう。ただし、設計時に配置を工夫すれば、抑制できる問題だと考えている。

一見、インダクターに見えるが

高岡寛之氏
アルプス電気株式会社
第3グループ
横田純一郎氏
アルプス電気株式会社
第2グループ

久保寺 圧接コンタクト(micro clip)のらせん状の構造は、インダクターにしか見えない。どのくらいの周波数の信号まで伝送できるか。

高岡 自己共振周波数の観点からは、6GHzを超えた位の信号まで対応できる。インダクタンス成分も1nHの値まで抑えられている。

久保寺 底辺から上までの値か。基板のスルーホール1個分に過ぎないほど小さい値だが。

高岡 その通りだ。電流が流れるらせん状の部分は、2本の伝送線が並行した構造になっている。この構造が、優れた特性を実現している。

久保寺 高速信号の伝送線路に用いる場合には、必ず信号とグラウンドを一対にして使わなければならない。

高岡 高速信号の伝送に利用する場合には3個を一組にして使い、グラウンド・信号・グラウンドという配置で並べると利用できると考えている。

久保寺 並べた圧接コンタクト(microclip)の間の距離次第で、特性インピーダンスが全く変わってしまうのではないか。信号とグラウンドの間には、基板のように特性が安定した誘電体があるわけではない。特性インピーダンスが計算できない状態になると思われるが。

高岡 確かに、シグナルとグラウンドの配置距離によって、特性インピーダンスは変化すると考えている。ただし、TDR法での評価では圧接コンタクト(micro clip)の線路長が短いため、正確な特性インピーダンス値を求めることは難しい。そのため、現実的な配置距離において、アイパターンの波形が良好ということを確認し、高速差動信号が伝送できるという結果を得ている。

久保寺 ユーザーの下で、反射が起きない事実が確認できれば、一挙に利用が広がるかもしれない。

別次元の高信頼性

久保寺 従来の圧接コンタクトでは、相手側の接触表面の粗さによって、経年変化を起こしたり、特性がばらついたりする。その心配はないのか。

伊藤 熱対策の専門家である国峯尚樹氏からも、「接点では接触抵抗によるジュール発熱が、経時変化によって増加する傾向がある。圧接コンタクト(micro clip)では、寿命を延ばすための工夫があるか」と信頼性に関する質問が寄せられている。

田辺 これまでの圧接コンタクトは、振動などで接点がズレて表面の汚れや粗さの影響が顕在化することが、経年劣化や特性のばらつきの原因だった。また、接触抵抗の経時変化の原因も、接触面がズレたり浮いたりして、空気にさらされてできる酸化皮膜である。圧接コンタクト(micro clip)は、振動や衝撃をフローティング構造で吸収して、接合部をガッチリと固定する。一回接続させれば、動かない。このため、表面が多少汚れていても、振動や熱が加わっても安定した接続を確保できる。

アイパターンシミュレーション(5Gbps差動信号)
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振動への高耐性は時代の要請

柏尾 振動や衝撃に強い特長は、ドローンの制御基板などに使えるのではないか。ドローンが飛行している時に発生する振動はかなりのものだ。たとえハンダで接合しても、断線する恐れがあるほどだという。このため、多くの接合部がある設計にはできない。稼働率の高い用途に向けたドローンでは、コストを掛けてでも一枚基板を使うそうだ。ドローンを開発している各社は、信頼性の高い基板間接続の手法を探していると思う。接合部がズレないとなれば画期的だ。

田辺 そのような応用こそ圧接コンタクト(micro clip)の特長が最も生きる。ハンダのように接合部を固定してしまうと、歪みが入って破壊されてしまう可能性がある。

伊藤 ロボットやウエアラブル端末のように、激しく動いたり、過酷な環境で使われたりする電気製品がこれから増えてくる。ここが、圧接コンタクト(micro clip)にとっての新市場になってくる可能性がありそうだ。

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