日経テクノロジーonline SPECIAL

実践の局面を迎えた「産業革命」

ICT(情報通信技術)をベースに進む製造業の革新にまつわる最先端の話題をテーマに展開するイベント「FACTORY 2016 Summer」が、2016年6月16~17日に名古屋国際会議場で開催された。今回通算で8回目となるFACTORYだが、東京以外で開催するのは初めて。会場には、ものづくりに関わる技術者を中心に多くの来場者が訪れ、日本のものづくりの中心地ならではの盛り上がりを見せた。ここでは、フォーラムの様子を中心にレポートする。

 名古屋で開催されたFACTORYは、複数のセッションから成るフォーラムと展示会で構成されている。フォーラムは、会期2日目の6月17日に名古屋国際会議場内にある国際会議室で開催。展示会は、同日に開催されたICT関連の展示会「ITpro EXPO」とイベントホールを共有する形で2日間にわたって繰り広げられた。今回のテーマは、「脈動する新時代のものづくり ~実践の壁に挑む~」。近年、ものづくりの業界で話題となっている「第4次産業革命(インダストリー4.0)」に関する取り組みは、新しい概念を実際の現場に実装する局面を迎えつつある。こうした現状を受けてFACTORYのフォーラムでは、製造業の革新という世界の潮流の中で強みを発揮できる日本の製造業を新たに構築するうえで求められる「組織の在り方」や「デジタル人材の育成」などについて実践的な視点や考え方を提示。さらに、革新の萌芽ともいえる先進的な取り組みや技術をいち早く紹介した。

「新たな投資は必須」

基調講演講師
眞木 和俊氏
ジェネックスパートナーズ
代表取締役会長

 フォーラム冒頭の基調講演で登壇したのはジェネックスパートナーズ代表取締役会長の眞木和俊氏である。講演のテーマは、「これまでの“インダストリー4.0”は忘れなさい?!-価値づくりのために行動せよ-」だった。眞木氏は統計解析による品質管理手法である「シックスシグマ」の専門家。その知見から、「Industrial Internet」や「インダストリー4.0」といった新しい概念の登場や、IoT(Internet of Things)やAI(人工知能)などの先進的な技術の展開が進むことで、ものづくりの歴史が非連続となる特異点を迎えていると指摘した。具体的にはハードウエア主体からソフトウエア主体のものづくりへ。オールインワンの製品からモジュール組み合わせの製品へ。大量生産から個別生産へ。工場内だけの効率化を追求する時代から生産全体のエコシステムを考える時代へ、と様々な変化が製造業の中で進んでいる。「その結果、機械ありきのものづくりではなく、人が機械をマネジメントするものづくりが重要なテーマとして浮上してきました。同時に、ものづくりが先進国に回帰しつつあります」(眞木氏)。

 さらに眞木氏は、「ものづくり」は「価値づくり」に変わると主張する。一人ひとりの顧客が直接ものづくりに参画し、作り手となり、そしてメーカーのライバルになる。この一方で、メーカーもEMS(電子機器の受託製造サービス)のようなビジネスを個人相手に始めることが可能になる。「そうなると、メーカーが事業をポジショニングしているブランド構築の仕方について考え直す必要に迫られるでしょう。また保守や修理などのサポートとものづくりが一体になると、ものを作ることだけを考えて、ものづくりを最適化してもメーカーにとって意味がなくなるでしょう」(眞木氏)。

 眞木氏は、いわゆるインダストリー4.0やIoTを、価値づくりのためのデータ連携モデルとして位置付け、そのための投資が重要と強調した。特に国内の生産設備は、設備投資が長らく新興国の工場優先だったこともあって更新が滞っている。デジタルのネットワークにつなげてオープン化を図るための新たな投資は必要だと語った。

先行投資と位置付ける

 さらに眞木氏はその「価値づくり」のための投資について、短期的にどれだけの効果をもたらすのかを、現時点で予測することはできないと言う。「効果が出る頃には世の中の価値観が変わっており、今の価値観で測れなくなっているでしょう」(眞木氏)。だからといって投資をしなければ、革新は先に進まない。そのままでは経営は危機に陥ってしまうと同氏は警告する。

 業界ではIoTを生かしたものづくりを研究するために、様々なテストベッドが立ち上がっている。「しかし、いずれも直接的な見返りを求めているわけではないと思います。いつか自分たちに何らかの形で返ってくるだろうというぐらいの気持ちで各社は参画しているのではないでしょうか」(眞木氏)。

 眞木氏は「価値づくり」のための投資は、「コスト削減だけを目的にするのではなく、先行投資として位置付けるべき」と強調した。そのうえでIoTに関連した様々なビジネスネットワークに身の丈に合った形で参加することから始めることを勧めた。

 さらに同氏は、新しいものづくりに対するアンラーニング(学び直し)の重要性を説いた。「いま進めていることが一番優れており、それをかたくなに守り続ける、というスタンスでは、今以上の成長は望めません。そして、その仕事は、やがて機械に取って代わられるでしょう。人が機械を使うという構図はIoTでも変わりません。ただし、人は機械を使うために常に創造性を高めていく必要があります」(眞木氏)。

すり合わせ極小化で生産性向上

基調講演講師
莿木 正史氏
コニカミノルタ
情報機器事業生産本部
生産企画部 部長

 続いてコニカミノルタの情報機器事業生産本部生産企画部部長の莿木(いばらき)正史氏が、デジタルマニュファクチャリングによる同社の生産イノベーションの事例を紹介した。

 同社が、デジタルマニュファクチャリングに取り組む動機は、MFP(MultiFunction Peripheral)や産業用印刷機など同社が生産する情報機器の生産拠点を、日本を含む5カ国に展開するに当たって、どの拠点で作っても同じ品質、同じ生産性を維持しながら複雑な機器を生産できる体制が実現することだった。そこでは、MFPは部品点数が約1万点にも上り、それらを提供する数百社のサプライヤーと的確に連携できる仕組みが必要だった。さらにMFPの光学系機能はミクロンレベルの組み立て精度が求められる。これらの課題を同時に解決するために、同社が取ったアプローチが「すり合わせの極小化」だ。「すり合わせによる機器の高度化はメーカーの固有技術により成り立っており、競争力の源泉になっています。しかし、それに依存したままでは人や場所などに依存したものづくりから脱却できません」(莿木氏)。そこで、すり合わせ極小化を進めるための手法として、デジタルマニュファクチャリングを推進することにしたという。

 デジタルマニュファクチャリングの施策を進めるうえで、同社が目指したのが「プロセスを結び付ける」こと。ものづくりには生産現場で「モノ」を取り扱う直接作業と、経営や管理、調達部門などが「コト」を扱う間接作業がある。ところが、効率化に関して直接作業はFA、間接作業はICTで個別に図られており、両者のプロセスは連携していない。「それらを結び付けて、工程管理から製品の品質向上、さらに購買や損益分析までを自動化し、新しい価値をつくることが、デジタルマニュファクチャリングの目的と位置付けています」(莿木氏)。

ばらつきに合わせて自動調整

 グローバルで同じ品質や生産性を実現するためのデジタルマニュファクチャリングは、すでにマレーシア工場と国内の小田渕工場(愛知県豊川市)に実装している。

 マレーシア工場の事例の一つは、製造指示書の二次元バーコードを使った部品のピッキング効率化だ。MFPは仕向け地によって部品の取り付けが異なる。バーコード情報を基に必要な部品の種類と個数をピッキング現場において明示することで、作業ミスを防止。さらに、そこでピッキングした部品を、後の工程で組み付けるようにすることで、仕向け地ごとに異なる製品を混在して流せる生産ができるようにした。

 そのほかマレーシア工場では、トナー充填工程の設備稼働状況や品質データを、現場の管理室だけでなく日本の生産管理部門から確認できるようにしたほか、光学系システムで使うレンズの焦点精度の自動調整を実現した。レンズにはばらつきがあるため、焦点精度を高めるためには取り付け位置を微調整する必要がある。従来、この工程は自動化が困難だったが、マレーシア工場ではレンズのサプライヤーから個々のレンズの性能データの提供を受け、取り付け装置に反映することで、自動調整を可能にした。

 小田渕工場では、小ロット生産の現場で負担になりやすい管理業務や付帯業務の低減に取り組んだ。その一つが、RFIDを活用した倉庫内の自動搬送だ。無人搬送車やエレベーターの動作を生産状況と連動させることで、部品や完成品の搬送を効率化。搬送業務を91%削減し、作業者が組み立てという付加価値業務に専念できるようにした。「現状ではまだ十分というレベルではないので、さらに自動化を追求します。さらに自動化の技術をパッケージ化してソリューションとして提供することも考えています」(莿木氏)。

IoT化の勘所について議論

 基調講演に続くセッションでは、シンクロン・ジャパン、パナソニックソリューションテクノロジー、トレンドマイクロが登壇した。シンクロン・ジャパンはIT投資によるアフタマーケットの高収益化について。パナソニック ソリューションテクノロジーは、現場、現物、現状に合ったIT化の進め方について。トレンドマイクロは工場の制御システムのセキュリティ問題とその解決法について、それぞれ語った(シンクロン・ジャパンとトレンドマイクロの講演のさらに詳しい内容は、この後の記事で紹介)。

 最後のセッションでは、工場のIoT化に取り組むプロジェクトのメンバーなどをパネリストに迎えたパネルディスカッションが開かれた。このプロジェクトは、IoTビジネスの普及を目的に設立されたコンソーシアム「IoTビジネス共創ラボ」の傘下にある「製造ワーキンググループ」の活動として進めているものだ。今回、パネリストとして登場したのは、IoT推進ラボから東京エレクトロンデバイスとユニアデックス、プロジェクトの舞台となっているコンテック、IoT環境の構築を担当するナレッジコミュニケーション、クラウド基盤を提供する日本マイクロソフトである。「勝つための製造業IoTを実現するためのカギは何か?」をテーマにした、このパネルディスカッションでは、実際の工場にIoTシステムを速やかに実装し、成果を引き出すための勘所などについて議論した。

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