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社会を革新するパワーエレクトロニクス、あらゆるモノが連携するPEoEの世界へ

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社会の維持・発展を図るうえでパワーエレクトロニクスの重要性が高まってきた。これを受けて2016年11月28日~29日の2日間にわたって開催されたパワーエレクトロニクス・サミット2016で基調講演を務めた東芝三菱電機産業システム(TMEIC)取締役副社長の菊池秀彦氏は、社会課題の解決に貢献するパワーエレクトロニクスの動向と、その先に見える社会の将来像などについて語った。

 すでにパワーエレクトロニクスは多種多様な分野に広がり、社会を支えている(図1)。その重要性は、これからますます高まる。「地球環境保護や生活品質の向上など、いま社会は様々な課題を抱えています。こうした課題の解決にパワーエレクトロニクスが貢献するからです」(菊池氏)。

図1 パワーエレクトロニクスの適用分野
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 菊池氏は、主な応用分野ごとにパワーエレクトロニクスの重要性について述べた。再生可能エネルギー・システムについては、既存の電力系統と協調させるためにパワーエレクトロニクスが担う役割について言及した。再生可能エネルギー・システムでは、どうしても自然環境の変化によって発電量が増減する。このまま既存の電力系統網に接続すると、電力網全体が不安定になってしまう。これを防ぐために必要なのが電力貯蔵システムや可変速揚水発電システム、太陽光発電用パワーコンディショナ(PCS)の電力制御機能である。これらのシステムを実現するために高効率のパワーエレクトロニクスが不可欠である。

 また列島国家である日本では、海を越えた電力系統間で電力をやりとりする必要に迫られる。しかも、国土の東と西で交流送電時の周波数が異なっているという問題もある。これらの大きな制約を乗り越えるには、海底ケーブルを介して高電圧で長距離送電ができる直流送電や周波数変換のシステムが必要だ。これらのシステムにもパワーエレクトロニクスの技術が欠かせない。

 社会全体の省エネルギー化を進めるうえで重要なポイントとされている産業用モーターの消費電力削減においても、パワーエレクトロニクスが大きく貢献する。産業用モーターは、ポンプ、送風機、圧縮機など多様な用途で使われており、日本では国全体の消費電力の55%、産業分野の消費電力量の75%をモーターの消費電力が占めているとされている。その消費電力を削減するうえで役立つのがインバータ化などのパワーエレクトロニクスだ。

科学技術の進化にも貢献

 いまや社会インフラの一部となった情報通信システムを支える役割もパワーエレクトロニクスは担っている。常時稼働するクラウド・システムの基盤となっているサーバーには年中無休で電力を供給し続ける必要がある。落雷などを受けて電力系統の動作が不安定になっても、安定した電源を維持しなければならない。これを可能にする無停電電源装置(UPS)は、様々なパワーエレクトロニクスの固まりである。

 パワーエレクトロニクスは、科学技術の分野にも様々な貢献をしている。その一例が、高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が共同で建設した大強度陽子加速器施設「J-PARC(ジェイパーク、Japan Proton Accelerator Research Complex)」である。物質、生命や素粒子の研究に用いる大規模施設だ。ここに設置されている大強度陽子加速器は、稼働時に大きな電力を超高精度で制御する電源を必要とする。この電源には、高度なパワーエレクトロニクスが使われている。また、加速器の技術は、がん治療にも応用されている。つまり、医療の分野にもパワーエレクトロニクスが役立っているわけだ。

進化を支える半導体の技術

 社会が直面する課題は、これからますます増える見込みだ。しかも、解決を図るための「壁」が一段と高くなる。こうした課題を乗り越えるために、より高度なパワーエレクトロニクスが求められる。TMEICは、こうした時代と社会の要請にいち早く応える考えだ。「あらゆるモノにおいて、高度なパワーエレクトロニクスを活用する未来を『Power Electronics on Everything(PEoE)』と呼んでいます。その実現にTMEICは積極的に取り組んでいます」(菊池氏)(図2)。

図2 TMEICが打ち出すPEoEの概念
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 パワーエレクトロニクスで最も重要な技術指標の一つは「効率」だ。「効率に着目して技術のトレンドを分析すると、半導体の高性能化と制御技術の高度化が大きな役割を果たしていることが分かります」(菊池氏)。

 例えば、大容量自励変換器の効率向上の推移をグラフにしてみると、実際に2つの技術が貢献していることが、よく分かるという。一つは、IGBTやIEGT、GCTなどパワー半導体の高性能化によって変換器の損失が劇的に低減していること。もう一つは制御技術の高度化によって、より緻密な制御が可能になって損失が低減していることである。ここでは、マイクロプロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)といったデジタル制御デバイスの著しい進化が大きく貢献している。

あらゆるモノでパワエレ

 パワー半導体や制御技術が進化した先に見えるのが、あらゆるモノにパワーエレクトロニクスが使われるPEoEの世界である。PEoE時代のPCSには、1台ごとに通信インターフェースが搭載されて、サーバーを使って多数のPCSが連動制御できるようになる。「PEoEの概念を具現化するシステムとして、マイクログリッドやバーチャル・パワープラント(仮想発電所)といった新しいコンセプトの電力システムが検討されています」(菊池氏)。

 マイクログリッドとは、太陽光発電、蓄電池、燃料電池などの電源を、一定範囲の地域やビルなどで共有する小さな系統のことである。各発電設備、負荷の情報を、ICT(情報通信技術)を利用して統合。全体を制御しながらエネルギーの地産地消を目指すものだ。

 バーチャル・パワープラントとは、ICTを介して負荷、電源、蓄電池などを接続したシステムである。物理的な配置とは無関係に連動させてシステム全体を制御する。電力系統から見ると、一つの発電所のように振る舞うため、このように呼ばれる。

 「あらゆるモノでパワーエレクトロニクスが活用され、それらがリンクすることで、PEoEの世界が実現します。PEoEの概念が普及するとともに、再生可能エネルギーの利用が拡大し、省エネルギー化も進むでしょう。これとともにパワーエレクトロニクスは地球と人に貢献する重要な技術であるという認識が広がると考えています」(菊池氏)。

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