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USB PDの本格活用にむけた安全対策のポイント

新保 恭一 氏

 スマートフォンやタブレット端末など、モバイル機器での充電トラブルが後を絶たない。モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)は、モバイル機器の充電時の事故撲滅を目指した「モバイル充電安全認証」を2016年8月から開始した。充電器などが正しく設計され、安全を確保する回路が組み込まれているかを確かめ、認証する制度である。

 スマートフォンの普及によって、充電という作業は日常行為になった。日常行為であるがゆえに、そこに潜む危険性を理解しないまま繰り返していることが多い。ところが、「安全が確保されていない充電器が市場に数多く出回っています」と新保氏は言う。また、たとえ安全が確保された充電器でも、ユーザーが正しく使わないことで事故が起きる可能性もある。実際に、充電中の発熱や焼損事故は、国民生活センターが把握しているだけで65件発生している。

利便性と安全性が両立しにくい

 電化製品の安全性を確保するための法律に「電気用品安全法」がある。しかし、同法では、コンセントにつながる充電器側(1次側)の安全性に関しては規定されているが、充電される側(2次側)であるスマートフォンなどの機器については、適用範囲外である。このため、安全性の確保は、機器メーカーに判断が委ねられている。

 ところが、モバイル機器の充電では、安全性と利便性は、なかなか両立しにくいのが現状だ。

 充電に関わる事故の原因を分析すると、多くはコネクターの汚れや異物の混入だとされる。充電端子にフタがついていれば当然、汚れや異物の混入を防ぐことができる。しかし使い勝手が悪くなるため、こうしたタイプは少ない。

 さらに、大電流による高速充電を訴求する充電器が増え、異物の混入やショートなどによる発熱が大きくなっている。また現在のスマートフォンでは、機器側で充電の制御を行うようになり、充電器の開発が容易になって使い勝手のよい製品が出回った半面、安全性が十分考慮されていない製品が増えた。

認証マークで安全を見える化

 現状の法令や規制などでカバーし切れない部分を補完することが、MCPCが実施しているモバイル充電安全認証の狙いである。

 モバイル充電安全認証の対象となる充電機器は、AC-DCアダプターや充電用USBケーブル、モバイルバッテリーといった家電分野の機器に加え、車載用DC-DCアダプター(シガーライター充電器)といった自動車分野の機器も含まれる。充電機器の安全機能を審査・検証し、認証に合格した製品には認証マークが付与される。ユーザーは、同マークがついていることを確認すれば、安全な製品であるとひと目で分かる。

 認証評価内容は以下の通りだ。まずは、充電機器の電気的仕様やケーブル性能など基本機能を評価する。充電に欠かせない基本機能を規定することで、利用者が不便なく充電できることを確認する。次に、充電機器の充電端子のハーフショートによる発熱防止、各種保護機能など、安全性能を評価する。モバイル充電安全認証の最大目的である安全・安心な充電を目指す。最後に充電中の機器が毛布にくるまれた状況など、日常の中でありがちなリスクが高まる充電シーンを想定して、安全性を確認する。

 認証に向けた評価は「チェックリスト」と「実試験」で評価する。チェックリストでは、製品の基本仕様、電気的特性、安全性機能の具備、電安法の対応状況などをチェックする。製品の電気的特性や、安全性機能のほか、ハーフショート対策、毛布包み試験などについては実試験で評価する。

大原 稔 氏

 パソコン系とモバイル系の両方をカバーするコネクター規格、USB Type-Cに対応した製品の普及が本格化してきた。リバーシブルで利用可能であり、USB2.0、USB3.1、さらにはThunderboltやHDMIなどUSB以外のデータ通信にも適用できる使い勝手のよい規格である。 さらに同規格では、充電時の電流容量が足りなかった従来規格の弱点を補うため、サブセットとして最大100Wの電力を供給できる電力供給用の規格、USBPower Delivery(USB PD)も用意している。消費電力の大きなパソコンの周辺機器に電源ケーブルを別途用意することなく電力供給できるほか、モバイル機器の急速充電も実現できる。こうしたメリットを享受するため、USB Type-Cに対応したスマートフォンなどの機器、充電器、ケーブルが続々と登場している。

互換性がない製品がほとんど

 ただし、「USB Type-Cのコネクターに対応していても、USB PDの規格を正しく実装していない製品がたくさんあります。スマートフォンも、他社製品用の充電器や汎用充電器では、ほとんどの場合、急速充電できません」と大原氏は言う。

 USB Type-Cには、接続する相手が認証された製品であることを、お互いに確認する「E-Marker」と呼ぶチップが組み込まれている。規格に準拠していないモノを組み合わせた場合には、電流値を落として安全を確保したり、最悪の場合には充電器が全く出力しなくなる。USB PDに準拠している製品同士ならば、他社製との組み合わせでも急速充電できる。 また、市場に出回っているケーブルの中には、USB Type-Cのコネクターを使っていても、抵抗値処理が適切でなかったり、E-Markerの機構がなかったりと、規格に準拠していない製品もあるようだ。さらに、モバイル端末の中には、USB PDではなく、モバイル系機器に特化したQualcomm社の急速充電規格「QuickCharge」に対応した機器や充電器もある。当然、USB PDに準拠したモノと組み合わせても、十分な充電ができない。

安全性に問題がある製品もある

 急速充電できると思って買った機器ができないとなれば、ユーザーは不満に感じる。USB Type-C規格やUSB PD規格への準拠を確認する認証試験はもちろん重要だ。ユーザーの満足度をさらに高めるためには、市場に出回っている数多くの製品との互換性試験もまた重要になる。

 USB Type-C対応とされている製品でも、USB認証をとらず部品の耐久性が低く、使用しているうちに接触不良やショートを起こすモノさえある。また、端子に埃やゴミが溜まり、ハーフショートによって燃えた事例もある。こうした事故を避けるためには、ケーブルや機器に対策を施しておく必要がある。具体的には、ケーブルや本体の熱伝導を高めて放熱しやすくする、プラグの体積を増やして熱容量を大きくする、耐熱や高比熱樹脂を採用する、不安定な充電負荷や温度上昇を検知した時には充電を停止する機構を組み込むといった対策がある。

 MCPCのモバイル充電安全認証では、USB Type-microBやType-Cなどに対応した充電器、ケーブル、アダプターの安全性も認証する。アリオンはモバイル充電安全認証の日本で最初の指定認証機関である。USB規格の認証がされている場合には、省略できる試験項目があり、作業負担は軽減できる。