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人工知能を得て進化する産業用ロボット 高性能なZynq SoCが実現を後押し

「機械学習」や「マシンビジョン」を活用して産業用ロボットを「知能化」する動きが加速。同時に知能化の基盤となる半導体デバイスの開発も活発化している。こうした中、産業用ロボット大手のデンソーウェーブと半導体メーカーのザイリンクスが、製造業革新をテーマにしたイベント「FACTORY 名古屋 2017」において「知能化と産業用ロボットの進化」をテーマに対談した。

澤田 洋祐氏
デンソーウェーブ
ロボット事業部 技術企画部
製品企画室 室長
神保 直弘氏
ザイリンクス
マーケティング部
シニアマネージャー

神保:澤田さんは産業用ロボットの製品企画を担当されているそうで、ロボットにまつわる顧客ニーズやテクノロジーの変化についてお詳しいと思いますが、最近は「機械学習」や「人工知能」といったキーワードが盛んに取り上げられるようになっています。

澤田:ロボットのインテリジェント化(知能化)が始まったのは1990年代あたりからです。当時は人工知能というほどではなく、2次元の画像処理を用いてアーム位置を補正したり、力学センサーを使って重力や熱膨張を補正するといったレベルでした。その後、3次元のマシンビジョンが登場して、ロボットの外部に画像処理装置を置く構成も含めて、ロボットの「目」の知能化が進んできているのが現状です。

 話題になっている人工知能やディープラーニングとロボットに関しては2つの方向があると考えています。1つはマシンビジョンの高精度化や故障予知への応用で、当面はこういった使われ方が進化のメインになっていくでしょう。

 もう1つが人工知能のフィジカルデバイスとしての役割です。デンソーウェーブでは、ロボットが将来、自律分散しながら人工知能のフィジカルデバイスになっていくだろうと予測し可能性を探っています。その一環として、人工知能が求めた指し手に基づいて将棋の駒を動かす「電王手くん」シリーズや、人工知能が解いた東京大学の入試問題を答案用紙にペンで書く解答代筆ロボット「東ロボ手くん」などをこれまで開発してきました。

神保:ザイリンクスは、ロジック回路をプログラミングできるFPGA(field programmable gate array)や、FPGAとARMプロセッサーとを統合したAllProgrammable SoC「Zynq」ファミリーなどの半導体デバイスと開発ツールを提供しています(図1)。名前の通り製品出荷後のフィールドでも書き換えられるのが特長で産業用ロボットのほか、自動車のADASや自動運転を司るECU、通信機器、複合機、メディカル機器など、幅広い分野で採用されています。

図1●ザイリンクスが提供するSoCやFPGAなどのソリューション
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リアルタイム要件に応える高速性

澤田:当社では主に処理の高速化と設計の柔軟性などの観点でFPGAを使っています。特に性能に関してはロボットではリアルタイム性が求められていて、例えばサーボのループだと数十μsから数百μs、軌道生成だと数ms以内でそれぞれ処理が終わることを設計で担保しなければなりません。ソフトウエアによる実装だけではこうしたリアルタイム性を担保するのは難しく、ハードウエアによる実装も不可欠です。

神保:リアルタイム性はアルゴリズムをハードウエアとして処理するZynq SoCが得意とするところで、マシンビジョンなどの画像処理に応用した場合でもレイテンシーは極めて短くなります(図2)。

図2●GPGPU(左)とZynq SoC(右)のレイテンシーおよびパイプラインの比較
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 最近は機械学習でGPGPUがよく取り上げられますが、一般に1フレーム分のデータを外付けDDR上に用意してから処理を行うためフレーム単位でしかパイプライン処理ができず、結果としてレイテンシーが長くなるなどの性質があり、産業分野が求めるリアルタイム性を満たすのは難しいのではないかと考えています。

 それに比べて、Zynq SoCは十分な容量のメモリーを内蔵していますので、GPGPUとは違って外付けDDRを使う必要がなく、発熱を抑えられるのもメリットです。

澤田:内部回路やモータードライバーなどの発熱はロボットの開発でいつも課題になるので、FPGAの使い方次第で発熱を抑えられるのであればすごく助かります。ところで、PGAには様々なメリットがあることは理解しているつもりですが、設計できるエンジニアって意外と少なかったりしませんか?

神保:その点は当社も課題として認識していて、より多くのエンジニアの方々にFPGA/SoCを活用していただけるよザイリンクスうな方策を考えています。具体的には、従来のようなVHDLやVerilogなどハードウエア記述言語を使わずに、組み込み分野でおなじみのCまたはC++で記述したアルゴリズムをそのままFPGA/SoCに実装できる高位合成ツール「Vivado HLS」を提供するなど、ツール環境の拡充などに取り組んでいます。

機械学習機能の開発ツールを提供

澤田:話は変わりますけど、先日海外製のディープラーニング・ソフトを使う機会があって、1万枚ぐらいの画像を用意しなければいけないのかなと思っていたら、わずか100枚ぐらいの画像を与えるだけで学習が完了してしまったんです。あまりに簡単すぎて驚いてしまいました。実はロボットの世界でも「簡単」が求められていて、据え付けたらすぐに使えるようにしてほしいというお客様が増えています。そこで、機能を絞るとともに、本来は数学的な知識を必要とする画像センサーのキャリブレーションなども自動化するような取り組みを始めています。

神保:今お話に出てきた「簡単」というキーワードはとても興味深く感じます。というのも、機械学習をZynq SoCに手軽に実装したいというニーズは当社のお客様からも上がっていて、そこで画像認識に関連した機械学習機能をZynq SoCに効率的に実装してもらえるようにとの考えで「reVISIONスタック」と呼ぶ開発環境を2017年3月に発表したばかりなんです。機械学習に関するアプリケーション開発、アルゴリズム開発、プラットフォーム開発の3階層に対応した環境です。

澤田:「reVISIONスタック」のような機械学習向けの開発環境が整備されてくると、産業用ロボットの応用も広がり、自律分散化の進化も加速していくかもしれませんね。デンソーウェーブでは人と一緒に作業する「COBOTTA(コボッタ)」(図3)という小型ロボットを発表していますが、産業分野においても人とロボットとの関わり合いを深めながら、ロボットの知能や知性の具現化に取り組んでいきたいと考えています。

神保:そこでザイリンクスのソリューションがお役に立てれば幸いです。

図3●デンソーウェーブが開発したコラボレーション ロボット「COBOTTA」
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自律型産業用ロボットに、「マシンビジョン」や「機械学習」といった知能化技術を実装するための有利なプラットフォームとして、ザイリンクスのAll Programmable SoC「Zynq」が脚光を浴びている。合理的で高性能なシステムを構築できるうえに、迅速かつ容易に開発できる環境「reVISIONスタック」が登場したからだ。

 市場の動きに迅速に追従できる柔軟性に加えて、高い生産性も兼ね備えた新たな生産システムの実現を目指す動きが工業先進国を中心に世界の製造業において加速している。ここで重要な役割を担う技術の一つが自律型産業用ロボットである。プログラムに従ってただ同じ作業を繰り返すのではなく、周囲の状況に応じて自ら動作を最適化するロボットだ。

 産業用ロボットが自律型になると、制御プログラムの作成、いわゆるティーチングに必要な手間が格段に減る。しかも、プログラミングの際に必要だった数学などの専門知識も必要なくなる。これによって用途が広がることで、産業用ロボットが生産システムの革新に一段と貢献することが期待されている。このような自律型産業用ロボットを実現するために欠かせないのが周囲の状況を把握するマシンビジョンや、状況に応じて制御アルゴリズムを進化させる機械学習などの知能化技術である。

ロボット専用環境で身近に

 知能化技術を実装する制御システムの中枢に適したデバイスとしてロボット開発者の注目を集めているのが、ザイリンクスのAll Programmable SoC「Zynq」だ。自由にハードウエアをプログラミングできるFPGA(field programmable gate array)とマイクロプロセッサーを一体化したSoC(system on a chip)である。プログラミングによって用途に合わせてハードウエアを最適化することで、高効率で高い処理性能を発揮するカスタムメイドのプロセッサーを実現できる。大容量の画像データを扱うマシンビジョンや膨大な量の演算を伴う機械学習の推論のアルゴリズムの処理など高いパフォーマンスを備えたプロセッサーが必要なときに役立つ。

 GPGPU(General Purposecomputing on GPU)の概念を導入して高性能を追求したSoCもある。ただし、FPGAを内蔵したZynq SoCの方が、オンチップ・メモリーの容量が大きいのでGPGPUに比べて外部メモリーへのアクセス頻度が格段に低い。このためレイテンシーの短縮や低消費電力の追求(発熱の抑制)に関しては有利だ。

図 「reVISIONスタック」の構成
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 知能化に適した機能を備えたZynq SoCは、2017年3月に登場した開発支援環境「reVISIONスタック」によって、ロボット開発者に一段と身近なデバイスになっている(図)。reVISIONスタックは、ハードウエア開発に慣れていないソフトウエア技術者やシステム技術者が、マシンビジョンや機械学習のアルゴリズムを効率良く開発できるように設計されている。コンピュータビジョン向けのAPI「OpenVX」やライブラリー「OpenCV」、深層学習のフレームワーク「Caffe」など知能化に関連する主要な標準をサポート。そのうえでソフトウエア技術者が慣れているC、C++、OpenCLといった言語で開発できるようにした。ザイリンクスのAll Programmable SoCおよびその開発環境は、自律型産業用ロボットのさらなる進化に挑む技術者にとって大きな力になりそうだ。

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