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生産設備に「影響を与えず守る」、既存設備で導入が進む最新対策方法

「つながる時代」の生産システムを構築する「ラインビルダー」としての存在感を高めているジェイテクトは、2017年10月11日〜13日に開催された「FACTORY 2017 Fall」の講演で、「モノ・ヒト・コトをつなぐ『IoE(Internet of Everything)』」のコンセプトを解説するとともに、IoEを実際に現場に導入した阪部工業(愛知県西尾市)の事例を紹介した。

井坂 雅一氏
ジェイテクト
取締役副社長
工作機械・メカトロニクス事業本部長

 登壇したジェイテクト取締役副社長で工作機械・メカトロニクス事業本部長を務める井坂雅一氏は、講演冒頭でIoEを推進する同社の強みともいえる事業の特徴について言及した。

 2006年に光洋精工と豊田工機が合併して誕生したジェイテクトは、パワーステアリングなどの自動車部品、ベアリング、工作機械、産業用制御システムを中心に事業を展開している。大きな特徴は、トヨタ自動車の生産システムを構築する「ラインビルダー」としての役割を長く担ってきたことだ。

 「『ジャストインタイム』『自働化』『見える化』といったキーワードで知られるトヨタ生産方式(TPS:Toyota Production System)に基づく生産システムの構築に1970年代からかかわり、その進化を支えてきました。この経験を通じて、機器を開発するだけでなく、それらを組み合わせて現場の要求に応じた生産システムを構成するノウハウを蓄積してきました。これが当社の強みです」(井坂氏)。

 大規模なラインから、1台の工作機械まで、あらゆる規模の生産システムに適したソリューションを提供できるのも、ラインビルダーとしての長い経験があってこそだと言う。「この力を生かして中小規模の生産現場における革新を積極的に支援する考えです」(井坂氏)。

設備に加えて現場の人を結ぶIoE

 同社が力を入れて展開しているIoEは、すべての「モノ」をつなぐというIoTの概念を拡張した独自の概念で、機械や設備などの「モノ」だけではなく「ヒト」なども含む現場にあるすべて(Everything)がつながった世界を表現している。「ヒトやモノをつなげて『見える化』を進めることで改善が始まり、改善が始まることで現場力が向上します。同時にヒトや設備も進化するでしょう。こうした人と設備が協調し、人の知恵が働く、人が主役のスマートファクトリーの実現を当社は提案します」(井坂氏)。

 IoEソリューションは4つのステップで構成される(図1)。ステップ1は「設備・モノをつなげる」。そのためのキーデバイスが、既存の機器や設備にアドオンできるスマートコントローラ「TOYOPUCPlus」である。ステップ2は「人と情報をつなげる」。このために「見える化」を実現する生産マネジメントシステム「TOYOPUC-Hawkeye」や通信機能内蔵状態ランプ「JTEKT-SignalHop」を提供する。ステップ3は「データの収集と解析および改善」。これを支えるのは、データの収集、蓄積、分析、判定を担うエッジ型解析モジュール「TOYOPUCAAA」である。最後のステップ4は「範囲の拡大」。クラウドを使った遠隔監視ソリューション「JTEKT-RemoteCare」を提供する。

図1 ● IoE導入ステップと4つのIoEソリューション
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鋳造加工の現場革新にIoEが貢献

 講演の後半ではIoEを実際に導入し、革新の手応えを得ている阪部工業の事例を紹介した(図2)。1935 年に創業し、愛知県西尾市に本社と工場(3カ所)を置く同社は、自動車や建機などの部品の鋳造から加工まで手がける従業員200名弱の企業である。IoEソリューションを導入したのは11台のマシニングセンタが並ぶ鋳造部品の加工現場だ。典型的な多品種少量生産の現場である。

図2 ● 阪部工業が導入したIoEシステムの構成
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 この現場が抱えている大きな課題の一つが、予期しないマシニングセンタの停止を防ぐこと。工具の磨耗、冷却水や油の漏れ、付帯設備の不調などが原因でマシニングセンタを止めることになると計画通りに生産できず、機会損失を招くことになりかねない。こうした事態は絶対に避けたい同社は、IoEソリューションを導入した。

 従来は、装置から発生する異音などから作業者が設備の変調を判断していた。ところが、この時点で故障寸前の手遅れの状態になっていることが多い。絶対に止めないようにするためには、故障の予兆を、いち早く把握したい。それを可能にしたのが、IoEソリューションだ。今回の講演では同社の具体的な取り組みを約10分のビデオで紹介した。

遠隔監視で故障を未然防止

 同社は、まずTOYOPUC-AAAを実装して各マシニングセンタをネットワークに接続(ステップ1)。さらにセンサーを追加して、主軸の振動、主軸の温度、サーボ電流値、室温などのデータを収集できるようにした。

 次にTOYOPUC-Hawkeyeを用いて収集したデータから抽出した情報を「見える化」(ステップ2 )。工場内に設置した2基のアンドン(大型モニター)に、加工の残り時間を表示して、パレットの準備を促すとともに、マシニングセンタの状態を色別で表示して直観的に分かるようにした。また、異常の発生や作業履歴などの情報は事務所からもモニターできるようにした。

 さらにTOYOPUC-AAAが内蔵する分析機能を用いて、主軸の振動を周波数解析し、そこからベアリングや工具の劣化の予兆を検知する仕組みを導入。同時に付帯装置であるコンプレッサについても温度や圧力などのデータを収集して、稼働状態を監視できるようにした。

 そのうえでJTEKT-RemoteCareによって、クラウド経由で同社工場の状態をジェイテクトから把握・ケアできるようにもした(ステップ4)。加速する改善サイクル

 ビデオに登場した同社本社工場 第二鋳造部 加工部部長の渡邊学氏は、IoE導入後の現場を次のように総括した。

 「IoEを入れたからといってすぐに現場が変わるわけではありませんが、データが見えるようになったことで、効率的な改善のサイクルが新たに生まれました。同時に、IoEシステムを軸に作業者間のコミュニケーションが増え、品質や生産性に対する意識が変わり、現場が強くなってきたことを実感しています」(渡邊氏)。

 同社では、IoEシステムをベースに新たな取り組みにも着手している。「実際にIoEシステムを使って、その利点が分かるようになると、解決できそうな課題が次々と頭に浮かんできました」(渡邊氏)。

 例えば、仕上げ加工によって小さくなる分を見越して大きめに鋳造した部分、いわゆる「取り代」の削減である。鋳造時の品質データを使って取り代をできるだけ減らす取り組みを進めている。これによって加工や材料のコストを削減できる見込みだ。

「まず一歩を踏み出すべき」

 講演の最後で井坂氏は、ものづくりの現場におけるIoT(IoE)の導入について、思い切って一歩を踏み出すことの重要性を訴えた。「現状を変えたくない。費用対効果が見えない、などの理由で、新しい仕組みの導入に二の足を踏んでいる企業は、まだ少なくないと思います。しかし、IoEの導入によって革新の手応えを得ている現場が実際にあります。製造業全体が大きな変革を迫られている、いま思い切ってIoEを導入し、革新への一歩を踏み出してほしいと思っています」(井坂氏)。

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