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MS クラウドOS時代のIT基盤の選び方―クラウドOS時代のIT基盤の選び方[前編]

ランニングコスト削減にフォーカスしたIT基盤の統合・再構築が進行中
クラウドOS時代のIT基盤の選び方 [前編]
――IT基盤の統合・再構築でコストを削減せよ――

戦略投資を確保するには、定常コストを削減するしかない――。このような考えから、今、多くの企業がIT基盤の見直しを進めている。すでに、仮想化によるサーバー統合は“当たり前”。次のステップとして、IT基盤をクラウドに移行しようとする動きが盛んになってきた。今、注目を集めているのは、オンプレミスとクラウドの“いいとこ取り”となるハイブリッドクラウド。将来的には、パブリッククラウドに収斂していく可能性が高い。

ランニングコスト削減のためにIT基盤統合を目指す企業が増加

株式会社アイ・ティ・アール
プリンシパル・アナリスト
金谷 敏尊

今日のビジネスはITなくして成立せず、そのITを動かすためにはIT基盤が必要だ。それゆえに、IT基盤のよしあしはビジネスの成果を左右する重要な要素となる。

ただ、どのようなIT基盤を「よし」とするかは、ITのトレンドとその企業が置かれた状況によって変化する。「今は、統合できるものは統合したいという流れにあります」と語るのは、仮想化やクラウド管理の分野に詳しい株式会社アイ・ティ・アール(ITR)のプリンシパル・アナリスト、金谷敏尊氏。その背景には、IT支出に占める戦略投資の割合が落ちていることがあると指摘する。

このトレンドは、同社が毎年実施している「IT投資動向調査」からも容易に読み取れる(図1)。IT支出の総額はおおむね増加傾向にあるものの、2002年度以降は定常費用に充てる割合が戦略的領域への投資を常に上回っている。「IT投資が一巡して米国に追いついたこともあり、IT基盤の統合・再構築によってランニングコストを削減しようと考えている企業が多いのです」(金谷氏)。その結果、IT部門にはコスト削減の圧力が強くかかっているという。

では、どうやってIT基盤のコストを削減していくか――。この難題を可能にしたのが、「仮想化」と「クラウドコンピューティング」という2つのテクノロジーになる。

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すでにコモディティとなった仮想化によるサーバー統合

仮想化は、もともとはメインフレームの世界で生み出されたテクノロジーである。これをx86アーキテクチャでも使えるようにしたのが、2000年代初めに登場したVirtual PC、Virtual Server、VMware ESX Serverといった仮想OS製品。1台のサーバー上で複数のOSを稼働させる「サーバー仮想化」により、それまでは業務アプリケーションやミドルウェアごとに置いていたサーバーを、少数の高性能サーバーに集約・統合できるようになった。

サーバーの統合によってIT基盤にかかるコストをどれだけ削減できるかは、サーバーの集約率によって大きく左右される。「当初は6対1から8対1といったあたりが限界でしたが、最近のSI案件では12対1から20対1の集約率をRFP(提案依頼書)で求めているようです」(金谷氏)。プロセッサー側のクロック周波数向上と多数コア化もあいまって、現在では非常に高い集約率が得られるようになったという。

その結果、仮想化テクノロジーに基づくサーバー統合を実施している企業の割合は年々増えてきている。ITRの調べでは、2012年時点の採用率が47%。3年後の2015年には71%に達するものと見込まれている。サーバー仮想化はもうコモディティになった、というのが金谷氏の見解だ。標準的なサーバーテクノロジーとして、これからも長く使われていくことは確実といえる。

ただし、すべての企業、すべてのシステムが仮想化によるサーバー統合の恩恵にあずかれるわけではない。

例えば、中堅中小規模の企業(SMB)の場合。保有するサーバー台数がそれほど多くないので、統合による削減効果の絶対値も小さい。高性能サーバーへの買い替えや仮想OS導入などの新規発生コストを差し引くと、正味の効果がゼロになってしまうことも考えられる。

また、仮想化する意味がないケースもある。リソース占有率が高いDBサーバーなどが、その典型的な例です。仮想化は、未使用リソースを減らすことで資源効率を高める技術ですから、多くのリソースを定常的に消費するサーバーは仮想化に向きません。また、ライセンス体系にも注意が必要です。仮想統合するとライセンスコストがかえって高額化することもあります」(金谷氏)。対仮想CPUライセンスの形態でないかぎり、同じような不合理はほかのサーバーソフトウェアでも発生する可能性がある。

オフバランス化と自動化に優れるクラウドでもコスト削減は可能

その次に登場したのが、クラウドコンピューティングでIT基盤コストを削減しようとする考え方である。

外部ベンダーによるクラウド基盤を利用すれば、オフバランス化(資産の経費化)ができる。これは、一時的ではあるが財務体質の改善につながる。必要なときに必要な量のITリソースを割り当てる仕組みも利用できるので、むだ遣いも減る。

クラウドが持つもう1つの強みとして、金谷氏は「自動化」を挙げる。具体的な仕組みは、セルフサービスポータル、ランブックオートメーション(RBA)、ワークフロー、リソースプールマネージメントとさまざま。「クラウドに備わっているこれらの仕組みを使えば、サーバー、ストレージ、ネットワークなどのITリソースを追加・変更する作業を自動化することで、運用管理コストを削減できます」と金谷氏は言う。

もっとも、ほぼ確実にITコストを削減できるサーバー統合と違い、クラウドには得意とする領域とそうではない領域がある。IT基盤を載せ替えるにあたっては、入念な調査と評価のうえで、その企業なりの方針を決める必要がある。

クラウド(自社設備によるプライベートクラウドを除く)の強みとして挙げられるのは、すでにふれたオフバランス化と自動化だ。その一方で、クラウドサービスプロバイダー(CSP)側の都合でサービスが停止する可能性があり、セキュリティ面の不安が残ることは弱みと言えよう。「契約条項やSLAをよくチェックし、要件が合致するシステムに適用すべき」(金谷氏)とはいうものの、業種や規模によってはハイレベルのセキュリティを要する企業もある。オプションサービスを付帯契約することもできるが、それなりのコストも発生するので注意が必要だ。

一方、オンプレミスのほうには運用管理に要する工数がクラウドより大きくなるという短所がある。この違いが、ランニングコストへと直接にはね返ってくるわけだ。

長所となるのは、その企業独自のアプリケーションやシステム構成、運用方法を採用できる「カスタム性」になる。いずれも企業の競争力の源泉となる要素だけに、IT基盤コストの削減効果とのトレードオフを慎重に検討することが必要だ。

最適解として注目を集める“いいとこ取り”のハイブリッド

オンプレミスにもクラウドにも得意不得意があるなら、両者の“いいとこ取り”をすればベストミックスを手に入れられるのではないか――。

このような考えから、今、ハイブリッドクラウドが注目されている。国立標準技術研究所(NIST)が定義した本来のハイブリッドクラウドはプライベート、コミュニティ、パブリックの各クラウドの中から複数を組み合わせる形態だが、現在主流となっている解釈は「オンプレミスと任意のクラウドの組み合わせ」というものだ。自社設備によるプライベートクラウドと閉域網接続型のパブリッククラウドを組み合わせれば、インターネットをまったく利用しない形態も可能になる。

ハイブリッドクラウドの典型的な構成法としては、基幹系システムはオンプレミス、情報系システムはパブリッククラウドという使い分けがある。他企業との競争に打ち勝つための基幹系業務は徹底的にカスタマイズしつつ、情報系業務のIT基盤コストを削減することで戦略投資用のIT費用を確保するのに向く使い方だ。

企業のIT基盤にハイブリッドクラウドを取り入れるにあたっては、オンプレミス/クラウド間でアプリケーションやデータを自由にやり取りできるかを確認することが大事だ。仮想ディスクやソフトウェアインスタンスを相互に送り込むことができないと、期末などの繁忙時にオンプレミスとクラウドを併用したり、業務継続/災害対策(BC/DR)用の予備サイトとしてクラウドを活用したりといった活用が難しいからだ。

とは言え、10~20年ほどの長いタイムスパンで考えると、自社設備によるプライベートクラウドは“つなぎ”のソリューションでしかないと金谷氏は指摘する。その最大の理由は、テクノロジーの加速度的な進歩によってITリソースの単位コストが今後も低下すると見込まれること。将来的には、メガサイトとも呼ばれる超大規模CSPのパブリッククラウドが最適解になると金谷氏は予測する。

サーバー仮想化から始め、ハイブリッドクラウドを経て、超大規模CSPのパブリッククラウドへ――。次回、後編ではその道のりを解説する。

(取材/文 山口学)