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MS クラウドOS時代のIT基盤の選び方―クラウドOS時代のIT基盤の選び方[後編]

まずはハイブリッドクラウドに載せ替え
そのクラウドをパブリックに置き換える
クラウドOS時代のIT基盤の選び方 [後編]
――当面はハイブリッドクラウド、長期的にはパブリッククラウドが最適解に――

戦略的なIT投資を確保するには、定常費用を削減しなければならない――。IT基盤コストの削減が求められている背景には、経営層のこのような認識がある。この要請に応えて、すでに多くの企業が仮想化によるサーバー統合を実施済み。IT基盤の統合・再構築の主戦場はクラウドへと移行しつつある。当面の目標は、オンプレミスまたはプライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせるハイブリッドクラウド環境の構築だ。10~20年後には、超大規模パブリッククラウドがコスト面で優位に立つと専門家は予測している。

競争力強化に向けた戦略投資をIT基盤コストの削減で生み出す

株式会社アイ・ティ・アール
プリンシパル・アナリスト
金谷 敏尊

現在のビジネスの原動力とも言えるITの能力は、IT基盤のよしあしで左右される。しかし、IT基盤の構築や保守にコストがかかりすぎると、競争力を強化するための戦略投資がおろそかになる――。このジレンマを避けるべく、多くの企業がコスト削減を主眼としたIT基盤の統合・再構築に着手している。

IT基盤コストの削減に貢献する第1のテクノロジーが、サーバー仮想化だ。1台のサーバー上で複数のOSを稼働させれば、処理能力を保ったままでサーバーの台数を減らすことが可能。それによって、ランニングコストを削減するのである。

第2のテクノロジーは、インターネット上のITリソースを使うクラウドコンピューティングだ。クラウドでIT基盤コストを削減できるのは、オフバランス化(資産の経費化)と自動化の恩恵を受けられるため。必要なときに必要な量のITリソースを割り当てられるので、むだなコストを減らすことができる。

現在、注目されているのは、オンプレミスとクラウドを組み合わせるハイブリッドクラウド。その理由は、オンプレミス、クラウド両方の“いいとこ取り”ができること。基幹系システムはオンプレミス、情報系システムはパブリッククラウドといった使い分けができるので、競争力の確保とIT基盤コストの削減を両立できる。

ただし、10~20年といった長いタイムスパンで考えると自社設備によるプライベートクラウドはメインストリームから脱落していく、と専門家はみている。「今の日本で好まれているプライベートクラウドは、経過措置や緩衝材としての役割。あと7~8年経つと主流ではなくなる可能性が高いのです」と語るのは、仮想化やクラウド管理の分野に詳しい株式会社アイ・ティ・アール(ITR)のプリンシパル・アナリスト、金谷敏尊氏だ。プライベートクラウドを組み込んだハイブリッドクラウドは、CSPへの依存度が増す形に徐々に変質していくというのが金谷氏の読みになる。

将来の主流はパブリッククラウドにクラウドファーストの動きも活性化

将来、プライベートクラウドがパブリッククラウドより割高になるのは、規模で圧倒的な差をつけられてしまうため。

「『半導体の集積度は1年半で2倍になる』というムーアの法則は、プロセッサーの性能だけでなく、ITリソースのさまざまな要素の単価でも言えることです。ストレージの容量単価や、ネットワークの帯域幅当たり単価もそうです。この単位価格下落は指数関数的に進むので、最終的にサービス事業は“規模経済性の勝負”になってしまうのです」(金谷氏)。

そうなると、1企業あるいは1企業グループの範囲内にしか規模を拡大できないプライベートクラウドが地球規模のクラウドサービスプロバイダー(CSP)を凌駕することは不可能だ。長期的には、より低いコストを提示できるパブリッククラウドがクラウドコンピューティングのメインストリームになると予測されるのである(図)。

プライベートクラウドはあくまでも“経過措置”。長期的には規模経済性でまさる地球規模のパブリッククラウドがメインストリームとなると、ITRの金谷氏は予測する
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パブリッククラウドをIT基盤の第1選択肢とする「クラウドファースト」の考え方は、すでに多くの企業/団体で実際に適用されている。アメリカは、連邦政府機関の標準ITアプローチをクラウドファーストに転換すると2010年11月に宣言済み。「日本国内では、株式会社ファーストリテイリングやヤマハ発動機株式会社などが該当するのではないでしょうか」と金谷氏は説明する。

IT基盤の一部をクラウドに置き最終的にはパブリッククラウドへ

このような見通しに立つと、IT基盤を統合・再構築するための長期戦略がおのずと見えてくる。まず、「仮想化テクノロジーによるサーバー統合」から「IT基盤の一部をクラウドに載せた状態」へと移行。次に、そのクラウドの部分をパブリッククラウドへと切り替えていけばよいのである。

当面、IT基盤の載せ替え先となるクラウドはプライベートクラウドやハイブリッドクラウドでもかまわない。「この先10年から20年は、プライベートクラウドを使ったハイブリッド方式の全盛期が続くことになるでしょう」と、金谷氏。一般的な業務システムの寿命は3~5年程度なので、数世代に渡って段階的に移行しても十分に間に合う。

ハイブリッドクラウドを活用するには、次の2つのポイントを押さえておくとよいだろう。

第1のポイントは、プライベートクラウド(またはオンプレミス)とパブリッククラウドをうまく使い分けること。プライベートクラウドやオンプレミスはカスタム構築に強く、パブリッククラウドはコスト面で優れるからだ。典型的な構成としては、基幹系システムはプライベートクラウドやオンプレミス、情報系システムはパブリッククラウドという使い分けが考えられる。

第2のポイントとして、オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドのそれぞれの間でアプリケーションやデータの相互運用性を確保しておくこと。クラウドコンピューティングではITリソースの割り当てをいつでも柔軟に増減できるので、繁忙期や災害時にシステム構成を一時的に変更する弾力的な運用が可能。それには、IT基盤の間でアプリケーションやデータを自由にやり取りできることが前提となるのだ。あわせて、複数のクラウドを一元的に管理できるクラウド管理ツールも用意しておくとよい。

最終到達地点となるパブリッククラウドは、国内組と海外組に大別できる。国内組はデータの置き場所が日本国内となるため、立ち入り監査が容易で、他国の捜査権限が及ばないという利点がある。最近は海外組でも国内保管に対応するところも増えているが、「金融や医療の分野では、法令や業界ガイドラインをクリアできるか、よく確認してください」と金谷氏は指摘する。

海外組は、ランニングコストが低く、世界の複数地域にデータを重複格納してくれる可用性の高さが大きな魅力。代表的なものにはメガサイト(超大規模CSP)とも呼ばれるGoogle App Engine(GAE)、Amazon Web Services(AWS)、Windows Azureなどある。

もうIT基盤では差別化できない 社員は上位レイヤーに専念すべき

「将来的に、IT基盤で差別化することはできなくなります。それを見越してIT基盤を統合・再構築し、競争優位性を確保するための分野に社内の人的資源を移していくべきでしょう」

これからの企業におけるIT基盤のあり方を、金谷氏はこのようにまとめる。IT基盤にはITを低コストで実現する役割だけを求め、社外のサービスやアウトソーシングを積極的に利用し、社員は競争力の源泉となるデータ分析やアプリケーション開発に専念させるのである。

また、中堅中小規模の企業(SMB)ではアプリケーションについてもクラウドサービス(SaaS)を積極的に活用していくべきというのが金谷氏の考えだ。「中堅中小規模の企業では、売り上げに占めるITコストの割合が大きくなりがちです。大企業では1%前後であるのに対し、中小企業では8%という調査結果もあります。となれば、できるだけ汎用製品や広く普及している製品を社内システムに利用すべきでしょう。極論を言えば、SaaSだけでビジネスを回していくことも1つの選択肢であると思っています」

一方、大企業にはパブリッククラウド時代を見据えた“制度の見直し”が求められている。メインフレームや物理サーバーしかなかった時代に作られた運用ルールや内部統制ポリシーがそのままになっていると、「本来は必要のない物理二重化」「タイムサーバーとの常時同期」「一律のフルバックアップ」などが足かせになってしまうのだ。「セレクティブな個別最適の組み合わせに変えていけば、IT基盤のコストはもっと引き下げられるはずです」と、金谷氏。理想のIT基盤を手に入れるには、既存ポリシーを最新のテクノロジーに合わせて改訂していくことも求められるのである。

「コンピューティングパワーを提供する下位レイヤーは、いずれ、電力のようなユーティリティコモディティーになります。ですから、IT基盤の統合・再構築には一日も早く取りかかったほうがよいでしょう。今やらないと、ますます遅れていくことになってしまいます」(金谷氏)。

(取材/文 山口学)