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MS クラウドOS時代のIT基盤の選び方―ビッグデータ活用が抱える課題とその解決策とは

事業サイドの現場社員の誰もが使える環境を整える
ビッグデータ活用が抱える課題とその解決策とは

いまビジネスの世界において最重要のキーワードとの1つとなっている「ビッグデータ活用」。その推進は、今後の企業における競争力の源泉となり得るものだ。ビッグデータ活用に舵を切ろうとする企業においては、導入や活用推進を図るための体制のあり方、対象とすべきデータの選定と整備、さらには利用するシステム、ツールなどの問題に対し、十分に目配りする環境を適切に整えていくことが、取り組みの成否を決する重要なカギとなる。

すでに多くの企業がビッグデータ活用に向けて動き出す

日経BP社
ビッグデータ・プロジェクト
プロジェクトリーダー
市嶋 洋平

今日の企業が蓄積、保有するデータは、爆発的な勢いで増加を続けている。日々のビジネス活動を通じて蓄積される取引データはもちろん、各種ログデータやセンサー類から発せられるデータ、あるいは電子メールやソーシャルネットワーキングサービス(SNS:Social Networking Service)を通じてやりとりされるテキストデータ、さらには音声データ、動画データなど、これまで企業の情報システムではあまり扱われてこなかったような非構造化データも含めて、まさに指数関数的に増えつつある状況だ。

そうしたなか、いま企業の間で大きな注目を集めているのが、いわゆる「ビッグデータ」の活用だ。「企業内外にあふれる多種多様なデータを様々な角度から分析し、そこから新たなビジネス上の価値の創造につなげていこうというのがそのねらいであり、そのような取り組みの推進は、今後の企業における競争力の源泉となり得るものです」と語るのは、企業におけるビッグデータの利活用促進に向けた情報提供、人材育成、事業創出の支援を目的に、日経BP社が立ち上げた「ビッグデータ・プロジェクト」においてプロジェクトリーダーを務める市嶋洋平だ。

すでにビッグデータの活用に向けた舵を切るも企業も増えてきている。日経BP社 ビッグデータ・プロジェクトの主催により先頃実施された「ビッグデータ イノベーション フォーラム」に先だち、来場予定者に対して行われたアンケート調査では、すでにビッグデータ活用を導入している企業は全体の8.8パーセントで、試験導入中・導入準備中(10.5パーセント)、検討中(42.0パーセント)を合わせれば、6割以上の企業が実際になにがしかのアクションをとっていることがわかる。

さらに、3年後における自社の状況についての予想を尋ねた結果では、導入済みであるとする回答は37.7パーセントとなり、これに試験導入中・導入準備中(16.7パーセント)、検討中(27.0パーセント)という回答を加えると、全体の8割以上がビッグデータ活用に向けた活動を開始しているものと想定している。

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業務に精通した現場主導による取り組みが望ましい

このように、導入に向けての意向が高まるビッグデータ活用だが、それに向けた取り組みに着手しようとする企業においては、多くの場合、誰が主体となって推進していくべきかという問題に直面する。これに関し市嶋は「当社が実施している講座の参加者に尋ねると、ビッグデータ活用に関連するシステムの整備や運用の問題もあって、当然、情報システム部門に関与してもらわなければならないものの、取り組みを主導するのはやはり実際に現場でビジネスに携わる事業部門であるという声が多くあがっています」と紹介する。

先にあげたアンケート調査でも、その導入・活用にかかわる検討・予算化の主体を事業部門と答えているケースは全体の35.6パーセントを占め、これは検討・予算化を本社情報システム部門とする回答(27.9パーセント)を上回っている。

その一方で、ビッグデータの活用自体は、企業全体の収益にインパクトのあるもので、当然、全社的な展開が望まれる。したがって、活用を全社に根付かせ、成果を上げていくための組織立てや人材の配備、役割分担といった推進体制の整備も不可欠である。「すでに活用に着手している企業の先進事例を分析してみると、組織の形態はデータサイエンティストやデータアナリストといった人材の配備や、実際にビジネスを推進する組織との関係などから6つのタイプに整理できます」と市嶋は紹介する。

その6つのタイプとは、すなわちデータ分析専門の人材を「ビッグデータ部」などの専門組織に集約し、各事業部門を支援する「専門組織型」、データ分析の専門人材を各事業部で育成する「事業部門型」、データ分析の専門部署から各事業部門に人材を派遣し、連携を図る「専門組織+事業部門型」、専門人材を情報システム部門に集約し、育成する「システム部門型」、全社の従業員に対してデータ分析の研修・教育を実施し、日常的に現場での分析を推進する「全社参加型」、そして複数企業でコンソーシアムを形成し、中核企業が分析サービスを参加企業に提供する「協業型」である。

もちろん、これらタイプの選択については、企業の業態や規模など、諸般の条件やデータ活用のニーズに依存したものとなり、各社がしかるべき検討を行って最適な選択を行うことになる。「なかでも、すでに活用に取り組んでいる企業が、とりわけ望ましいと考えているのが、事業部門が主導権を握り、それを情報システム部門が支援していくという形態です」と市嶋は言う。これをすでにあげた6つのタイプに当てはめれば、事業部門型、全社参加型ということになるだろう。

「その理由は明快で、ビッグデータをビジネスにどう生かしたいかというニーズはあくまでも事業の現場にあり、活用シナリオの立案についても事業部門の担当者が適任。それに対し情報システム部門がシステムやツールの導入、データの整備、提供など、必要な道具立ての準備を担っていくことになるわけです」と市嶋は説明する。つまり、そうした体制の確立に向けて、必要な人、データ、組織を整え、適切な活用シナリオを描いていけるかどうかが、最終的なビッグデータの全社活用に向けてのポイントとなるわけだ。

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手元にあるデータの活用を通じて新たな付加価値を生み出す

一方、ビッグデータ活用というと、各種センサーから寄せられるデータや消費者がSNSなどを通じて発する情報などを分析するといった例が想起されがちだが、そうしたアプローチはデータの収集や分析の仕組みなどにも相応の投資が必要で、分析スキルを持ったデータサイエンティストなどの確保も重要な課題となり、いかにも敷居が高い。

「取り組みのいずれかの段階で、そうした領域にも踏み込んでいかなければならないのも事実ですが、現段階において多くの企業が注目しているのは、あくまでも各事業部門がいま保有しているデータです。要するに、手元にあるデータの活用を通じて、これまでに得られなかったような新たな付加価値を生み出していくというのがビッグデータ活用の初期段階においては現実的なアプローチとなるでしょう」と市嶋は語る。

さらに、すでに述べたような現場の事業部門が主体となってデータ活用を進めていく際には、分析に用いるツールも重要なポイントとなる。いうまでもなく、現場担当者はデータ分析の専門家ではなく、高度な分析ツールの利用を強いるというのは決して効率的ではない。そこで、できるだけ簡便に使いこなせるツールを利用することが望ましい。

「そうした分析を効率良く行える環境に加えて、分析結果をわかりやすく上長や同僚などに伝えたり、必要に応じて分析結果をスムーズに社内で共有したりできるような仕組みを整備することも重要なポイントとなります」と市嶋は指摘する。これに関し分析結果の報告のためには、プレゼンテーション能力に優れた分析ツールの利用が望まれるほか、情報共有については、社内SNSのようなシステムの活用も効果的だろう。さらにデータ分析の結果を全社横断的に生かしていくためには、重要業績指標(KPI:Key Performance Indicator)の標準化なども不可欠な前提となる。

最後に市嶋は次のように語る。「国内におけるビッグデータ活用は、まだ端緒についたばかりですが、今後、その取り組みは確実に企業の間に浸透していくものと考えられます。それに向けては、導入体制や活用推進組織、データ整備の方法、ツールのあり方などにもしっかりと目配りをした取り組みを実施していくことが重要です。これがビッグデータ活用の成否を決する重要なカギを握っているでしょう」