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タブレットでワークスタイルを変革 現場を変えて新しい価値を生み出せ

ワークスタイル変革は、オフィスや会議室だけでなく、ビジネスの最前線となる“現場”でも求められている。そのためのツールとして多くの企業が注目しているのが、タブレットなどのモバイルデバイスだ。ノートPCが適さない、あるいは導入効果が少ない領域でタブレットはどのように活躍できるのか――。日本ヒューレット・パッカードの甲斐博一氏が、デロイト トーマツ コンサルティングの田中公康氏、セールスフォース・ドットコムの千葉友範氏、日本ヒューレット・パッカードの九嶋俊一氏と話し合った。

ワークスタイル変革は、オフィスや会議室だけでなく、ビジネスの最前線である「現場」でも求められている。変革の実現に向けて企業の注目を浴びているのが、タブレットなどモバイルデバイスの活用だ。ノートPCが適さない、あるいは導入効果が少ない領域でタブレットがどのように活躍できるのか。日本ヒューレット・パッカードの甲斐博一氏が、異なる視点の3社――デロイト トーマツ コンサルティングの田中公康氏、セールスフォース・ドットコムの千葉友範氏、日本ヒューレット・パッカードの九嶋俊一氏と意見を交わした。

オフィス内から現場へ-広がるワークスタイル変革

デロイト トーマツ コンサルティング株式会社
マネジャー
田中 公康 氏

甲斐 この数年、オフィスワーカーの間で、タブレットを活用したワークスタイル変革に注目が集まってきました。しかし、企業活動を支えるのはオフィスワーカーだけではありません。ワークスタイル変革はあらゆる立場の人材が目を向けるべきテーマだと思いますが、みなさんどのようにとらえていらっしゃいますか。

田中 コンサルタントの視点から申し上げると、顧客との接点である現場でも、ワークスタイル変革へのニーズの高まりを感じています。
その背景には、少子高齢化によって労働力人口が物理的に減少し人材不足や労働力不足を招いていることや、情報武装した顧客などによって商品・サービスへの要求がこれまで以上に厳しくなってきていることが大きく影響していると思われます。さらに、グローバル化・デジタル化の進展によってビジネス環境が目まぐるしく変化する中、これまで以上にスピード感を持って迅速な業務遂行や意思決定を行うことも求められてきています。

千葉 モバイルデバイスは、SaaSなどのクラウドの普及に後押しされ、ワークスタイルを変革するためにツールとして広く使われるようになりました。各社の事例を整理すると、その利用パターンは4つに類型化できると思います。
1つ目は、メールや添付ファイル、スケジュールの閲覧といった利用方法で、主に経営層やマネジャー層のコミュニケーションツールとしての使い方です。
2つ目は、営業担当者が現場で商談の記録をSalesforceに入力するといったように、発生時点で入力を行うことにより現場の効率性を向上させる使い方です。
そして3つ目に、某航空会社で有名になったオフィス外でのトレーニングや、3D CADなどを活用した作業指示である動的なマニュアルとしての使い方があります。
最後は、店頭で対面しながらタブレットで商品説明をしたり料金シミュレーションをしたりという使い方で、店頭での接客や、設備保守、製造現場での活用に注目しています。

九嶋 先般、HP本社が世界のCIOを対象に「2018年にタブレットはどう使われるか」を調査しました。その結果、「業務フローの中で使われる」との回答が約50%、「メールやWebなどのコンテンツ消費」が約40%、「PCと同じ使い方」が約10%でした。
また、74%の回答者は、タブレットが業務にもたらすインパクトはインターネットの登場と同程度以上だと考え、投資対効果(ROI)にも期待が寄せられていることが分かります。
つまり、タブレットの登場は、その効果という観点からも、オフィスワーカーだけでなく、現場で働く人々の業務フローを大きく変革していくことに注目が集まっているということだと思います。

タブレットが労働力不足にどう貢献するか

株式会社セールスフォース・ドットコム
アライアンス本部 パートナーアライアンス
パートナーアカウントシニアマネジャー
千葉 友範 氏
(デロイト トーマツ コンサルティング株式会社より出向中)

甲斐 少子高齢化に伴う人材不足や労働力不足の解消にタブレットが役立つと聞くことも多いのですが、具体的にどのような事例がありますか。

田中 最近では飲食業界などで「シフトが埋まらない」といった報道も耳にしますが、そうした現場の労働力不足に対し、業務フローを見直し、さらにタブレットを活用して業務を効率化することでカバーしている事例もあります。こうした変革は、現場の業務を細部まで理解した上で、最適な業務を定義し、デバイスの選定まで落とし込むといった一連の過程を経ることで実現できます。労働力不足への貢献という意味では、熟練者の持つノウハウを現場の人材がいつでもどこでも習得できるようにする取り組みも進んでいます。

千葉 製造業では、労働人口の減少を海外からの労働者受け入れでカバーしようとするケースも少なくありません。当然予想される言語の壁や習慣の違いを解消するために、タブレットを効果的に活用する企業も増えてきています。製造工程で使われる指示書を紙からタブレットのコンテンツに置き換えるといった動きも、注目すべき流れだと思います。

九嶋 日本の飲食業は、マニュアル化することによって品質を高めてきました。そのマニュアルを電子化して常に最新の状態にしておき、隙間の時間に店舗の片隅でもどこでも調べられる仕組みを提供してスキル習得を促す――。このようなことを考えてタブレットの導入を考える会社も増えてきました。

田中 今の若い世代には、紙のマニュアルよりタブレットを使った学習の方が吸収力は高まるとも言われていますね。

九嶋 2020年になると人口の半分はITネーティブやジェネレーションYで占められるようになります。その人たちを戦力にしていくには、操作に慣れたタブレットで心地よく働いてもらうのがベスト。また、高齢者にとっても、タブレットはPCよりも直感的に使えるという利点がありますからとても強い武器になりますね。

タブレットを通じた新しい付加価値の創造

甲斐 顧客からの要求に応えた付加価値の高い商品・サービスを提供する手段としてもタブレットは役立つものと期待されていますが、この点についてはどのような事例がありますか。

田中 インターネットの普及によって、消費者はますます賢くなっています。接客型のビジネスでは、店員の情報武装とチーム内の情報共有にタブレットが活躍していますね。

千葉 病院などの医療現場では、タブレットを活用して顧客に対する付加価値を高めようとしています。例えば米サンフランシスコのメディカルセンターでは、医師や看護師の間の情報共有ツールとしてタブレットは最大限活用され、医療事故防止や患者への医療情報提供に役立てられています。今後は、ウエアラブルデバイスを活用して心拍数などのバイタル情報を収集し、患者とドクターとをつなぐ新しい仕組みとして、IoC(Internet of Customers)という世界観も現実になっていくことでしょう。

田中 日本では、訪問医療や遠隔医療のシーンでのタブレット活用が今日的なテーマとなりつつあります。タブレットやクラウドといったテクノロジーの進化が、電子カルテを持ち運ぶ、といった動きを前進させる契機となってきたはずです。

九嶋 医療の世界では、医療情報を患者と共有するためだけでなく、退院後も続く通院・在宅医療・介護に対し、情報の切れ間がない状況でタブレットやクラウドといった仕掛けは大きな役割を果たすということだと思います。つまり、物理的な時間や空間という格差解消のみならず、情報という格差・断絶を解消することで、新たな付加価値を生み出すことができるということだと理解しています。

タブレット活用領域の広がり

日本ヒューレット・パッカード株式会社
プリンティング・パーソナルシステムズ事業統括、テクノロジー・ソリューション統括本部 統括本部長
九嶋 俊一 氏

甲斐 タブレットは、今までPCがリーチできなかった領域でも活用が期待されています。

田中 その典型が、建築や土木、保守などの業界でしょう。立ち仕事で、雨風や粉じんに常にさらされる環境面の制約から、この業界では現場の日中業務でPCを使う人は多くはありませんでした。しかし、タブレットの普及とともに、現場の施工管理や情報共有にタブレットが活用される機会も増え、実際に業務の品質の向上やスピードアップを実現している企業も現れてきました。

千葉 いわゆるフィールドワークと言われる現場での活用例としては、KDDI様の事例があります。お客様からの問い合わせでお客様宅へお伺いし、サービスの説明や固定回線開設工事の要望にお応えするというサービスです。従来はこうした顧客応対の記録をオフィスに戻ってから入力していたのですが、Salesforceとタブレットの組み合わせによりワークスタイルを変えることで、業務の品質の向上やスピードアップを実現しています。また、建築の分野では、建築設計者・インテリアデザイナー・施工者が弊社のChatter(企業SNS)で対話してリードタイム短縮を実現した流体計画様の例があります。

九嶋 マンション管理組合でも、タブレットで生産性アップを図るところが増えてきました。キーボードとマウスを使った操作に慣れていない管理人の方でも、タブレットのような直感的デバイスなら簡単に使えます。今まで使えなかった場所、今まで使えなかった人にも、タブレットはぴったりなのです。

千葉 確かにタブレットの良いところは、キーボードやマウスを使わずに直感的に操作できる点ですね。だからこそ、これまで利用できなかったフィールド(現場)の業務への浸透が期待されてきているのだと思います。そうした場合、PCとは異なる操作がなされることを想定し、アプリケーションの設計にも工夫を施すことで、現場への受け入れをスムーズにすることにつながります。例えば、製造現場のように粉じんが舞い、軍手などの手袋を利用する環境で使うことが想定される場合、アプリの画面遷移(UI)は、タップ主体の操作にすべきでしょう。スワイプ操作では、粉じんで画面のガラスが削られてしまうからです。

九嶋 おっしゃるようなUXやUIの設計を利用者の環境に合わせて実現できるように、デバイスメーカーとしては、「汎用デバイスの専用機化」に特に力を注いでいます。
従来の専用デバイスは高価であるだけでなく、いったんある機能を実装すると何年も変えることができません。つまり、ITの制約によってビジネスが変えられなくなってしまうのです。専用機化された汎用デバイスなら搭載機能を自由に追加・変更・削除できますし、導入コストも低く抑えられます。

現場のワークスタイル変革を実現させるには

日本ヒューレット・パッカード株式会社
プリンティング・パーソナルシステムズ事業統括
PPSマーケティング部 部長
甲斐 博一 氏

甲斐 最後に、現場のワークスタイル変革を成功裏に導くためのポイントをみなさんに伺いたいと思います。また、そのためにIT部門は何をなすべきでしょうか。

田中 タブレットを使ったワークスタイル変革の進め方には、「業務の最適化」「セキュリティ」「ユーザー心理」の3つのポイントがあります。まず、現場の個々の業務に合わせた最適な業務フローを設計し、利用環境に合ったデバイス選定を行うことです。さらに、ユーザーに対するリテラシー教育を行うこと。また一方で、変革を進める過程の中で現場を巻き込んでいくことも重要です。

千葉 ビジネスは常に変化を伴うものであり、タブレットを利用したワークスタイルも、その変化に追従できなければなりません。つまり、タブレット上のアプリは、柔軟性と迅速性を持って常に対応できなければなりません。
IT部門はこうしたビジネスの変化を予見しながら、柔軟性と迅速性を実現できるITアーキテクチャーをデザインすることが求められる時代になると思います。
これは、全てをIT部門主導で実現すべきと申し上げているのではなく、ビジネス戦略や現場ニーズをうまく取り込めるような「オーケストレーション型」のIT部門へと変革していくことが求められているのだと思います。

九嶋 汎用デバイスとしてのタブレットを導入するということは、ソフトウエア開発とシステム管理を担当するIT部門にとっても大きなメリットがあります。開発者人口が多いJavaとVisual Basicが使えますから、自社の業務に合わせた専用機化も容易です。最近はSecure Androidや組み込み型Windowsを搭載したタブレットも登場しており、特に高いセキュリティが求められる業務にも対応できます。

田中 導入後のフォローも大切です。現場のユーザーはどうしても当初は不安感を抱いているので、ユーザーに実際に使ってもらい、そのフィードバックに基づいて機能をブラッシュアップしていくことが重要になります。そうした過程を経ることで、IT部門はスムーズに導入を行うことができます。

千葉 ソフトウエア開発だけでなく、ユーザー心理の観点も踏まえると、導入のスタイルもアジャイル型にすべしということですね。

九嶋 その点で参考になるのが、最近のスマホアプリの開発ライフサイクルです。最初は使いにくいように見えても、ユーザーのレーティング(評価)に基づいて頻繁にアップデートすることによって、短時間に良いアプリへと成長していきます。それと同じように、現場ユーザーがどのように使っているかをトラッキングしてアプリを改善していく開発プロセスへと転換することが、今のIT部門に求められています。

甲斐 貴重なご意見、ありがとうございました。タブレットが世に登場してからしばらくたつのですが、ようやくなすべきことが見えてきたように思います。タブレットを使ったワークスタイル変革で業務フローをより現代に即したものにすることによって、企業は新しい利益と事業を手にすることができ、社会にとっても有用な価値が生まれるのではないでしょうか。われわれ3社で、ぜひ、そうした提案活動を強化していきたいと思います。

提供:日本ヒューレット・パッカード株式会社