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経営課題解決シンポジウム Review ~

富士ゼロックス総合教育研究所

“思考させるコミュニケーション”で認識をすり合わせ
重点攻略顧客に対する施策とプロセスを決めて実施する

河村 亨 氏
株式会社富士ゼロックス総合教育研究所
シニアコンサルタント
河村 亨

 “営業を科学する”立場から戦略実行に10年前から取り組んできたという富士ゼロックス総合教育研究所の河村 亨氏は、自らの著書を引用し次のように指摘する。「顧客を起点とした戦略の起点は『ターゲティング』。『顧客』についての認識は現場と管理者の間でなぜずれるのか、そのメカニズムと解決法を知ることは重要です」

 そもそも、「優良顧客」の概念は戦略によって変わる。マネージャーにとっての優良顧客とは企業に成長をもたらしてくれる明日の顧客であり、具体的には、購買力は高いが現在のインナーシェア(顧客における自社製品の占有比率)は低い「もっと買ってもらえる可能性のある顧客」になる。しかし、営業担当者は購買力に関係なくインナーシェアが高い「もう十分に買ってくれている顧客」のほうに足を運びがち。取るべき施策とプロセスは顧客セグメントによって異なるので、このように認識がずれていたのでは良い成果が得られるはずもない。

 では、なぜマネージャーと営業担当者の間で認識のずれが生じるのか――。河村氏は、認知心理学の考え方を使ってずれを生み出すメカニズムを説明する。その一つが、「メンタルモデル」という認識の枠組み。人は自分の記憶に基づいて何かを理解しようとするので、前提となる知識や経験がなかったり、表層的には似通っている実際には異なる記憶が存在していたりすると、伝達したのと違う内容が理解されてしまうのである。

 また、事前に態度を決めてしまう「スキーマ」というメカニズムもある。例えば、マネージャーが「新規」という言葉を発した瞬間に、営業担当者の頭の中に「自分は新規顧客を開拓するのは苦手」という思いが発生。それ以降の話はまったく頭に入らなくなる、という現象だ。

 そこで重要になるのが、理解→納得→実行→定着の順に進む戦略実行の最初の二つのプロセスの「理解」と「納得」である。「正しい理解と正しい納得がなければ、戦略を正しく実行することはできません」と河村氏は語る。そのためには、「自己決定」と「フレームワーク」による“思考させるコミュニケーション”が重要になる。「自己決定」とは、実行者自身に考えさせてオーナーシップを醸成し、コミットメントを引き出す対話の進め方や問いかけのことだ。コーチングでコーチがクライエントに発する「君はどう思う?」という質問がその典型だと河村氏は語る。

 また、「フレームワーク」とは、限られた時間と制約のなかで効率的に対話してゴールに到達するための方法論である。「本人に考えてもらうにしても、企業の戦略と違う回答を導き出されたのでは困ってしまうわけです」と河村氏。考え方のフレームワーク(枠組み)や手順を提示してから考えさせることによって、実行者自身の考えであっても戦略の枠からはみ出なくなるのだという。

 このようなアウトラインを示したうえで、河村氏は戦略実行コンサルティングの典型的な進め方を紹介する。まずは、期初に、市場の可視化(優良顧客は誰か)→戦略遂行の可視化(どのような価値を提供するか)→活動プロセスの可視化(どのように提供するか)という戦略展開の枠組みを関係者に理解・納得してもらう。

 その後、期中の実施段階では枠組みに基づいて営業活動ができたかどうかを日々のマネジメントの場でチェック。顧客の評価、顧客側の期待とそれに対して営業担当者がとった行動、案件の攻略方法などを検討していく。これらをマネージャーが主導でファシリテーションとコーチングをできるように指導・支援していく。

 「このような取り組みでマネージャーと営業担当者の認識をすり合わせるようにしたある製薬企業の営業所では、「攻めるべき優良顧客」についても営業所全体についても目標を超える売上を達成でき、やりがいも改善しました」と河村氏は語る。

ガートナージャパン

顧客対応強化の基本はマルチチャネル対応のCRM基盤
最新アプリと適切なアクションで働きかけを強化する

川辺 謙介 氏
ガートナージャパン株式会社
リサーチ部門
顧客関係管理(CRM)アプリケーション担当
主席アナリスト
川辺 謙介

 人脈のようなリアルチャネルに加えて、ソーシャルなどのデジタルチャネルも容易に使えるようになった今、企業が優良顧客に働きかけるための方法も変わってきた――。このような考えに基づき、ガートナージャパンの川辺謙介氏はデジタル時代の顧客対応方法とそのためのアプリケーションのトレンドについて解説する。

 「デジタルの特徴はまずスピードです」と川辺氏。競合他社も同じ武器を手にしていることを考えると優良顧客には少しでも早く対応する必要があると強調する。その一方で、質も問われている。より優れたエクスペリエンスを顧客に提供するのは当然だし、顧客対応力を高めるためのアプリケーションについても、成約率の向上やサイクルタイムの短縮といった「効果」のほうが「効率」よりも重要だと川辺氏は言う。

 顧客対応力を強化するためのアプリケーションとしては、まず顧客関係管理(Customer Relationship Management、CRM)がある。「費用対効果(Return On Investment、ROI)がはっきりしない」「利用者の立場によってCRMに期待するものが異なる」「名寄せなどの情報整理が煩雑」といった課題はあるものの、マルチチャネルに対応したものなら有効性は高いと川辺氏は言う。例えば、複数のチャネルを通じて顧客に一貫したエクスペリエンスを提供でき、各チャネルから得られたインサイト(洞察)を顧客接点部門とバックオフィスが蓄積・共有して意思決定に役立てられるようなCRM基盤だ。

 このほかにも、顧客対応力の強化に役立つと思われるアプリケーションは続々と登場している。ガートナーの「日本におけるCRMのハイプ・サイクル:2014年」によれば、啓蒙活動期(普及の初期段階)を迎えているのはリード管理と顧客セルフサービススイートの2種。マルチチャネルキャンペーン管理やグローバル対応E-Commerceは初期の熱狂が終わり、仕様選定(コンフィギュレーション)・価格決定・見積作成(CPQ)スイートと顧客の声(VoC)ソリューションが注目を集め始める時代に入っているという。

 では、これらのアプリケーションで顧客対応力を強化するために、企業はどのようなアクションをとる必要があるのか――。重要なアクションとして川辺氏が挙げるのは、複数の顧客接点部門が顧客に関する情報を共有して同じエクスペリエンスを提供すること。その情報を基に価値あるコンテンツとして顧客にフィードバックするのもよいだろう。例えば、営業部門からは顧客が商品選択に迷っているときの“お勧め”コンテンツを、サポート部門なら顧客のクレーム内容にぴたりと合った回答コンテンツを返すのである。どのようなコンテンツを返せばよいかは、担当者が判断しなくても、ルールエンジンや人工知能によって自動化できる。

 また、営業担当者やサービス担当者の声をCRM基盤に迅速にフィードバックできるようにする必要もある。そのためにはスマートフォンから入力しやすい画面を用意することも重要だが、それ以上に大切なのは、担当者が本音を語りやすい仕組みとすること。場合によっては、業務プロセスについても見直しが求められることもある。

 情報システム部門は、成長や革新に対する経営層の期待に応えられる迅速なシステム開発手法を取り入れなければならない。「お勧めしたいのは、人事や会計といった業務の種類ごとではなく、ペース(変更の頻度)に応じてシステム開発手法を使い分けることです」と川辺氏は強調する。「革新を創出するために、情報システム部門は各部門のビジネスリーダーに実験環境となる『サンドボックス』を提供すべきです」と川辺氏は語りセッションを終えた。