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経営課題解決シンポジウム Review 基調講演・特別講演

基調講演 大林組

クラウドサービスとタブレットの最適活用で実現できた
総合建設業のビジネス特性に合ったワークスタイル変革

太田 洋行 氏
株式会社大林組
グローバルICT推進室 副部長 兼 情報基盤整備課長
太田 洋行

 株式会社大林組(本社:東京都港区)は、虎ノ門ヒルズ・東京スカイツリー・東京スカイタウン・東大寺総合文化センターなどを手掛けたことで知られる大手の総合建設会社である。2014年9月現在の従業員数は8,471名で、国内の事業所は17か所。グローバルICT推進室の太田洋行氏は、「弊社の場合、土木と建築のフィールドワークを担当する“建設現場”が全国に約1,000か所あります。会社によっては、作業所とか工事事務所とか呼ばれています。」と説明する。

 同社のワークスタイルを変革するにあたっては、そのビジネス特性を考慮する必要があった、と太田氏は言う。総合建設業の本業は計算書、図面、報告書などの大量の建設情報をベースとするマネージメント業務であって、実際の作業は協力会社が工事の種類によって分担する。また、その最前線である工事事務所は1~2年の仮設オフィスでしかなく、社内ネットワークには一般のインターネット回線を使ってアクセスすることになる。

 このような背景から、大林組の建設現場におけるワークスタイル変革は建設情報を整理・共有する長期の取り組みの一環として進められることになった。

 この10年間のおもな成果として太田氏が紹介したのは、技術資料や竣工図書・工事記録を利活用する「OC-Knowledge」(2010年10月)、「建築竣工図書工事記録参照システム」(2012年1月)、「テレビ会議とグループウェアのクラウドサービス移行」(2013年4月~)、現場作業を効率化する「タブレットの現場展開」(2012年8月~)の4つ。いずれも、建設現場のオフィスやフィールドで利用できるように配慮されている。

 OC-Knowledgeは、参照情報となる技術資料を検索キーワードと属性(工事の種類など)などで絞り込んで、フィールドワークで利用する。工事事務所のPCからは「建築現場ポータル」や「技術情報検索ナビ」の画面経由でアクセスでき、近日中にタブレットでも使えるようになる予定だ。

 一方、建築竣工図書工事記録参照システムは、かつてはマイクロフィルムなどで保管されていた竣工図書や工事記録という蓄積情報を利活用するためのものである。2007年には、セキュリティ機能を高めて工事事務所のPCからも参照・印刷できるようになった。

 一般的な情報の共有については、メールシステムをクラウドサービスに移行したのをきっかけに、スケジュール、施設予約、文書管理、ファイル共有、Web会議などを順次移行した。「相手の状態をプレゼンス機能で確かめられるようになったことが、ワークスタイルを変えるのに役立っています」と太田氏は言う。

 タブレットの現場展開は、建設業のビジネス特性に最も合った取り組みだと言える。フィールドワークのなかで、一度入力すれば、作業が完結する。「弊社は以前から検査用アプリケーションをPDA(情報端末)用に開発していましたので、それをタブレット用に書き替えました」と、太田氏。新たに開発されたものを含めれば、配筋検査、仕上げ検査、立会検査、是正指示、工事黒板などのアプリがタブレット上で稼働しているという。

 すでに配布済みの台数は、約4,000台 。現場内ネットワークには、無線LANアクセスポイントや漏洩同軸ケーブル(LCX)を利用している。タブレットは防塵防水ケースに収め、暗いところで工事写真を撮影するための特注ライトも別途取り付けている。

「第3のプラットフォームと言われるもののうち、クラウドとモビリティは建設現場ですでに活用済み。今後、ビッグデータ・アナリティクス、ソーシャルの技術革新により、現場で利活用する技術資料や竣工図書・工事記録などを現場技術者の手元でさらに使いやすいものにしていきたい」と、太田氏。ワークスタイル変革を目指す大林組の取り組みは、これからも続くと強調した。

特別講演 カルビー

本社の移転・統合に合わせてフリーアドレスを全面導入
コミュニケーション増加がイノベーションを生み出した

後藤 綾子 氏
カルビー株式会社
コーポレートコミュニケーション本部 本部長
後藤 綾子

 かっぱえびせん、じゃがりこ、じゃがビー、ベジップスなどのスナック菓子を製造・販売するカルビー株式会社(本社:東京都千代田区)は、本社の移転・統合を機にフリーアドレス制を核とするワークスタイル改革を実施。「Calbee Innovative Field」という“畑の土としてのオフィス”から、さまざまなイノベーションを生み出している。

 実は、このワークスタイル改革、カルビーにとっては2度目の挑戦だった。

「2007年に都内のあるオフィスを増床したときに、初めて、約100名規模でフリーアドレスを導入してみました」と語るのは、ダイバーシティ推進にもかかわる執行役員の後藤綾子氏。「ノートPCとPHS電話というモバイルワークはすぐに定着したのですが、しばらくすると、『数日で暗黙の定位置が決まり、仲良しクラブができてしまう』といった運用の限界も見えてきました」と、振り返る。

 そこで、2年後に本社を現在のビルに移転するにあたっては、経営トップからのメッセージ「全員が互いに見渡せるフラットな環境」「オフィスは良い知恵を出す場」「人間は横には動くが縦には動かない」「オフィスはコミュニケーションの場」に基づいてワークスタイル改革のあるべき姿を入念に検討。結果として、全長83.5mの巨大ワンフロアをフリーアクセス方式の執務スペースとして使うことに決めた。

 さらに、新オフィスのコンセプトとして「Calbee Innovative Field」を設定。既存の概念は捨てて、新しいワークスタイルでイノベーションを目指すこととした。そのココロを、後藤氏は「弊社はジャガイモを使ったビジネスをしているものですから、オフィスを畑の土としてとらえ、感じ取る(種)→混ざりあう(芽)→結びつく(花)→生み出す(実)といったプロセスでイノベーションを生み出そうと考えました」と説明する。

「感じ取る」のねらいは、従業員が会社の動きやお互いの知識を感じ取れるようにすること。そのために、一部の席を除いてパーティションは設けず、打ち合わせスペースも“丸見え”の構造にした。

 また、巨大なワンフロアに曲線の長い通路を通すことで、人々が自然に出会って干渉する「混ざりあう」も容易に。大小のミーティングスペースでお互いの刺激からアイデアを出し合う「結びつく」ことや、ワークショップやディスカッションに参加したメンバーが成果を「生み出す」ことも可能になったという。

 併せて、2007年の教訓に基づいて、運用方法にも気を配った。席の固定化を防ぐために「座席アシストシステム」を導入して、1日2回の席決め(自動割り当て)をルール化。申請した使用時間が終了する5分前に電子メールで通知するようにしたのである。ただし、仕事の内容や状況に応じて最適な環境を選べるように、席にはコミュニケーション席(2名ずつ向き合って座る4人席)、ソロ席(独立性が高いパーティション付き)、集中席(電話禁止のカウンター席)の3種類の形態が用意されている。

 このほか、フリーアドレス方式の導入を確実に進めるための方策として、後藤氏は「まず行動させる→しばらくすると納得してもらえる→継続的な運用で効果を理解してもらう、という順番がいいのではないでしょうか」と指摘。コンセプトに反する現場からの不平不満には対応しなくてよいのではないか、と述べた。

 では、このようなワークスタイル改革はカルビーにどのような効果をもたらしたのか――。

「必ずしもフリーアドレス化だけの効果でありませんが」と断りつつ、後藤氏は「海外事業の拡大」「新製品開発」「国内マーケットシェアの拡大」「新規事業開発」などのイノベーションが成果を出し始めていると会場の聴衆にアピールした。